着飾る理由(クラウ視点)
ベッドに顔を埋め、唇をギュッと噛んだ。
胸がズキンと痛む。
「剣の才ある婿を迎え、親戚の女性との子を後継者に」…なんていう父上の言葉。それがずっと心に刺さったまま。剣の才がないボクに残された唯一の「役目」のように言われた気がしていた。
男をボクの婿として迎える?そんなの、あり得ない。
そんなこと望まれても困る。
そんな上辺だけの結婚なんて。自分の人生を家のために捧げるつもりもない。剣を捨ててから、反抗するように服装を女の子のように着飾ったから…父上が勘違いしたのかもしれない。元々可愛いものは好きだったし。結構似合ってた。
でもそれは、そうすれば説明せずとも一目ボクを見ただけで『騎士には不向きな息子』だって分かるから。…ボクが全て悪いのだと分かるから着飾ったのに。
まさか、それが『婿を迎えよう!』なんて希望を父上に持たせてしまうなんて。
だけど。
それなのに…。
「リーシュ君のこと、好きになっちゃった…。」
純粋に彼を「好き」だと感じた気持ち。それと同時に、今は暗い感情が入り乱れる。
ボクが願えば騎士をしてもいいと話した優しい親友。そんな彼を、ただただ…ボクの悩みを解決してくれる『都合のいい存在』として見てる。その考えを「恋」と勘違いしてんじゃない?…って。
「好き…よりも先に、ほんの一瞬だけ…リーシュ君と結婚すれば父上が喜ぶかも…なんて考えてしまった。…バカだ…ボクは」
彼は…ボクを優しいと言った…。
ボクは君に優しくない。
恋人作りの邪魔にはなるし。一瞬でも、君の優しさを利用して、家の利益を考えるなんて。彼との結婚を想像し…好きかもしれないと思った自分の気持ちが偽物のように感じる。
恋ってもっと純粋なものじゃんか。
ビビっと来てさ…こう、会った瞬間『好き!』って心奪われるもんじゃないの?相手の思わぬ面を知って『好き!』ってなるとかさ?
相手が好きで、相手の為に何でもできる。何も求めない無償の愛を捧げたいのが恋でしょう?こんなに自分の事しか考えてない思いが恋なわけない。
彼の全てを独占したい、彼に全てを解決してほしい…そんな求めるだけの気持ちが「恋」なわけない。
ただの問題の丸投げ。
彼に、全てを救って貰おうとする救済欲。
…
救済…。
そうだよ、彼は肝試しの時も助けてくれた。一年生の時、自分だって文化祭を楽しみたいのに困っている人を前に断りきれなかった。
『助けて』って…傍にいてって言えば、結婚も叶えてくれるかもしれない。きっとそのまま騎士になってくれる。
ボクの代わりに…
彼なら…ボクを助けてくれる。
「でも…。」
その瞬間。
彼の涙を思い出した。
彼は助けてくれるけど心まで強い訳じゃない。ボクがそんな彼を守ろうと純粋に思ったのに。それを自ら壊してどうする。
あの頃の気持ちの方が…よっぽど純粋な愛じゃないか。
…
そう考えて理解した。
もしかして。
あの頃から好きだった!?
「わ、わぁ!!嘘!ボク…え!?」
そんな、じゃあ恋心がどんどん欲に濁っただけ!?
恋は、知らないボクをどんどん連れてくる…。好きだと自覚したからこそ、今そう思うだけかも知れないけれど。
例え、欲にまみれようと。これは恋。多分…そう。こんな気持ちになったことなかったから。
彼の事を考えるだけで、胸が甘く痺れるこんな気持ち…。
しかし…恋は恋と認めた上で、問題はまだある。
彼と上手くいっても、他の誰かと子を授かる事を容認しなければならない…。家のため、彼の為を思うなら尚更。ボクは表向きの伴侶として生活し、愛人なども容認すべきだ。
なのに…想像しただけで息が苦しい。嫌だ…彼に親しく触れるのはボクだけがいい。
「……欲張りだなぁ。もぅ。」
父上の言葉と、リーシュ君へのこの気持ち、そして醜い欲が頭の中で混ざり合う。
どれ程時間が経っただろう…
窓から差し込む月光が、部屋を静かに照らしていた。木々の葉が、風に揺れる音は心地良いのに落ち着かない。この気持ちは気がつかない内に、無視のできない大きな感情に育っていたんだ。
苦しい。
リーシュ君の中でも、同じくらいボクの存在が大きければいいのに…。
…!!
「彼の中で…そうだ、それだ!」
そこまで考えると、ひとつの希望にたどり着いた。
「そうだよ!惚れさせれば良いんだよ!」
例え、ボクがどんな不純で欲にまみれていようと。彼がボクに惚れていれば問題ない。彼自身がボクの傍にいることを選べばそれでいい。
「そうしたら他の人との子供を授かろうなんて思えないよね?後継者は…妹の子供たちとか?そこは相談次第かな…。養子でもいいし。」
惚れさせれば全て解決!
スッキリした。
気分良く枕をぎゅうっと抱き締めて、今度は目を閉じる。夢に彼が出てくるといいな。
可能なら、リーシュ君を落とす練習ができる夢がいい。
◇ ◇ ◇




