剣を持つ理由(クラウ視点)
故郷では最低限しか訓練をしなかったというリーシュ君。
そんな彼の剣を持つ理由に興味がわいて少し身を乗り出した。彼はボクみたいな人のために剣を持ち続けるとか言い出すから。それはまるで、弱い者を救う英雄みたいだ。
「ふっ、ははっ。何それ。ボクみたいに弱い人のために戦いたいって感じ?」
ボクが弱いのは本当の事なのに、何か捨てきれないものが残っていたのかもしれない。嫌な言い方になってしまった。そう言うの、本当に厄介だよね。そんなボクは嫌いだ。
しかし、彼は困ったように眉を下げた。
「そんな格好いい理由じゃないよ。」
「じゃあ…なに。他にある?」
「クラウさんは弱くない。優しいんだ。そんな優しい人に囲まれて生きていきたいから。」
「優しい人に囲まれたい??」
「うん。優しい人って誰かを守って早く死にやすいじゃない?そんな優しい人達と長く一緒にいるためにやるだけ。」
「…へぇ。」
彼は、それがなんでもないことのように言う。
「だから、クラウさんみたいな優しい人達は、戦えない事に負い目を感じないで欲しい。そのままの優しい人間でいて欲しいから。守らせて欲しいし、むしろ私達のような人間に守られる価値があるんだと誇ってほしい。」
守られる価値がある?弱虫なだけのボクが?
ただの気休めで言ってるのか?と彼を見るけれど、彼はボクが髪を結った時に「スゴい!」と褒める時のように瞳を輝かせて話す。
彼は…本気で言ってるんだ…。
こんなボクを、守る価値がある人間だと。
そう思えたら、なんだか…今までに無い程にドキドキと胸が騒がしくなった。嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて…つい茶化す言葉を言ってしまう。
「じゃー…それだけ、リーシュ君はボクと一緒にいたいってこと?やさしーボクと。」
こんな言い方しか出来ないところが嫌になる。それなのに目の前の彼は無垢な笑顔を向けてきた。
「うん!一緒にいたい。クラウさんが、それでも負い目を感じるなら…その負い目がなくなる程、クラウさんの分も魔物を狩って帰ってくる。それで、沢山の成果を目の前にして『私達二人の成果だ!』って笑ってさ。それだけ自分には価値があるんだ!って誇りに思って生きてくれていいよ。」
胸をトンと叩いて、少し大袈裟な仕草で言う。その頬は少し照れたように仄かに赤い。それなのに誰よりも頼もしく見えた。
「…へぇ。」
もう…なんて返していいかわからない。
こんなのまるで…プロポーズみたいじゃないか。ボクは、彼が狩りから戻るのを待って…住処を整えるってことでしょ?帰ってきたらその成果に一緒に喜んで…
そんな、ありえない未来の光景を思い浮かべたら胸がポカポカとした。それは、とても楽しそう…なんて素直に思える。
こんなに優しい気持ちに触れて、嬉しい感情で溢れたのはいつぶりだろう。今のボクが、誰かにこうして認められる日が来るなんて思ってもいなかった。
騎士になれないボクは笑われて、ダメな跡継ぎだと指をさされる未来しかないと思っていたから。
「そう考えると、クラウさんを守れる王都の騎士になるのも悪くないよね。」
「…」
ドクン、と。
胸が嫌な音を立てて高鳴った。
重く、苦しい胸の高鳴り。手が痺れるように震えた。
ボクの為に…
騎士になってくれるの?
それは…ボクにとって…
彼はボクの変化に気付かず、無邪気に笑う。
巻き直した包帯を軽く叩くと「痛くない!」とか言って。嬉しそうに眺める呑気なその仕草が、さらにボクをおかしくして…自分の心臓の音しか聞こえないような錯覚に陥った。
体はどんどん熱を増して、胸が締め付けられるように痛くなる。
そうか、騎士になれないボクの代わりに…君がなってくれるんだ?
ボクが背負うはずだった家の重圧も、騎士になれない惨めな負い目も、全部、君が肩代わりしてくれる。君がボクの「盾」になり、ボクの「剣」になり、ボクの「価値」を証明する。
ふと、父上の顔を思い出す。
彼を紹介したらきっと、父上は喜ぶのだろう。「よくやった」と褒めてくれるだろう。
こぼれそうになる歪な笑みを堪え、ボクはリーシュ君を見つめた。その輝く瞳を、二度とボク以外に向けさせたくないという、執着が胸に満ちていくのを感じる。
まさか…ボクの目の前に。
こんなにも、都合のいい存在が現れるなんて。
◇ ◇ ◇
今日は2話投稿できました。明日は休日なので、4話以上投稿できたらいいな…と思っています。投稿時間は未定ですが、時間を見つけて投稿していこうと思います。




