彼の認識(クラウ視点)
リーシュ君を前にして、昔を思い出すと何故か止まらなくて。
そのまま昔のことを話し始めていた。
「ボクの家はさ、代々王家に仕える騎士の家系なんだ。だから幼い頃から結構厳しく教わっててさ。自分も『父上のような騎士になりたい!』って幼い頃から言ってた。」
「クラウさんが…騎士に?」
「うん、意外でしょ?ボクさ、ほら…可愛いから!」
後半、無理に元気を出して少し沈んだり空気を明るくするように試みる。リーシュ君は話の続きを待つように、こちらを見つめていた。もう少し…話してもいいのだろうか。
「ただ…訓練は出来ても、相手を目の前にすると本気で剣を向けれなくなる。当たったら痛いだろうなって思うとさ。ダメなんだ。多分、魔物相手でもそう。」
昔、剣を持っていた方の手を何気なく見ると、今は傷ひとつなく綺麗だ。父上の期待に応えたくて、自分の役割を全うしたくて…でも、どうしてもダメだった。
痛いのだってダメ。
痛がるのを見るのもダメ。
更に肝試しで、怖がりな自分にも気が付いて…ホントダメ尽くし。
当時の自分を思い出しながら、軽いノリを心がけて話す。
これは、あくまでも自虐ネタ。ここからは、皆に話したこともある鉄板の笑い話。
「それでも丁寧に教えてくれたんだ、父上は…。なんか、それにも耐えきれなくなって、ある日…気持ちが爆発しちゃって。父上の目の前で、剣をポンッて投げ捨てて言ったんだ。『誰かを切らなきゃいけないなら、ボクはそいつに切られて死ぬ!』って。泣きながら言って父上を呆れさせたんだ。ふふっ、今でも笑っちゃう。」
今でも鮮明に思い出せる。
父上のポカンとした顔と、呆れてため息をついて去っていく背中。
ははっ!と笑ってリーシュ君を見ると、彼も微笑んでいた。良かった、笑い取れて。
そう思っていると、彼はホッとしたようにボクに言う。
「そっか、クラウさんがお父上に言えてよかった。」
「…は?」
彼の笑顔は、ボクの笑い話に面白がっているのだと思っていた。その話をした友達も「根性ないなー!」とか「泣いちゃうの可愛いー♪」とか…そんな面白がる反応だったから。それは、ボクが笑い話として話してるからだけど…。
なのに「よかった」と言われるなんて。剣を持ち、先輩にも怯まず訓練を続ける強い彼に。
驚いて固まっていると、彼は不思議そうにこちらを見る。
「どうしたの?ポカンとして。」
「え、いや、笑わないんだ…と思って。この話、みんなにウケる鉄板ネタなんだけど。」
「あぁ、そうなんだ。空気読めなくてごめん。」
「謝る必要ないから…ただ、何で『良かった』なの?」
恐る恐るそう聞くと。
「私の故郷だと、魔物が怖い人は拠点を整える支援側の役割をするのが当たり前だったから。相談できて、適切な配慮がされてよかったなと思って。」
「そ、うか?…いや、でも、情ないな!とか…思わない?騎士の家系で…これでも後継者、男だよ?」
そう言うと、彼は首を傾げた。
「思わないよ。昔からクラウさんは優しいんだなって納得した。」
その一言に居心地が悪くなる。彼に褒められるような人間じゃないのに。
「優しくない…弱虫なだけ。」
「優しいよ。私だったら武術の対戦相手を前にしても、早く終わらせたいなって思う。魔物なんて、あー、また出た…良い核が取れるかなーとしか思わない。」
確かに、そう言われたらボクの考えは優しく見えるのかも知れないけれど。でも、ボクの考えは国境の狩人と聖女様に守られた「平和ボケ」した生活をしてきたから出る考えだと思う。自分がやらなくても生きていけるんだから。嫌な役割を、他人に押し付けているだけ。
「ボクは…自分が情けない。自分の役割も果たせない。」
「役割か…それを言われると、グサリと刺さるものがある。」
急に気まずそうに視線を泳がせ胸を押さえるリーシュ君。何で?彼はやるべき事を今もこうしてしているのに。
「何でそう思うのさ。君は武術で認められてるのに。」
「私は…。故郷の人たちから見たら『訓練も最低限しかしない舐め腐ったクソガキ』だったと思う。希望としては支援側やりたかったし。」
「支援側を希望してもダメだったの?」
「うん。私はそれなりに狩人の適性があったから。」
「でも、さっきは怖ければ支援側って…リーシュ君の希望は通らないの?」
「魔物や戦うことに対して恐怖はないから…。狩人の適性をそれなりに持ってしまうとなかなかね」
彼は苦笑いをして話してくれる。
「狩人の適性は、子供の頃に見極められるんだ。外で遊ぶか、部屋で遊ぶのが多いか」
「それだけ?」
「そう。外で遊ぶ子供の中でも木剣持って遊ぶような子供は適性ありと判断される。その上で武器の扱いが下手なら希望は通る。けど、私は兄達と遊びたくて木剣を手に兄を必死で追いかけていたから。適性が高いと判断されたんだろうね。実際、兄達を見て育ったから魔物も見慣れたものだったし」
リーシュ君は思い出すように目を細めた。
「兄達の狩にさ、幼い私が付いていくと兄達が順番におんぶしてくれるんだ。それが嬉しくて。8歳くらいになると来るなら狩りを手伝えって言われて。」
「じゃあ…リーシュ君は無理やりやらされてたってこと?」
彼がとても心配になった。嫌な事を続けさせられた…苦痛意外の何物でもないのだから。しかし、ボクの心配はいらなかったみたい。すぐに首を振って否定された。
「遊びの延長だから。お小遣いも増えるし、褒めてもらえるし。でも自分の…憧れがあって、それを押し通して。訓練から逃げて…両親が根負けして王都に送り出されたようなもので。」
「…憧れ?」
「うん。今だって、その憧れを捨てきれなくて教官に気を使わせちゃってるし。だから…そんなんだからさ。役割を果たそうと努力したクラウさんは偉いと思うよ。」
リーシュ君が…舐め腐ったクソガキ…。なんだか彼から急に出た荒い単語に笑ってしまった。ボクが、自分の汚点を話したから彼のこうして話してくれるのだろうか?
「そう、かな…そうだといいけど…」
「うん。それにさ、私は…どうせ剣を持つならクラウさんみたいな人達の為に戦いたいし。」
ボクみたいな人の為…
それって…どういう意味だろう。
◇ ◇ ◇
今日は後でもう1話投稿予定です!




