減った時間(クラウ視点)
次の日。
運動基礎を選択したボク達は、一足先に制服に着替え終えていた。のんびりクラスメイトと雑談をしていると、ガラリと教室の扉が開き、武術組が着替えを終えてぞろぞろと入ってくる。
今日も力を使い果たした!といった様子でみんなが入ってくる。モワッと汗臭い男たち。武術組の授業は教官の気分で長引くことがあって大変だとつくづく思う。
「おーい聞いてくれよ!リーシュが次回から三年生と合同だと。」
「えぇ…そんな、みんなに言わなくても…」
それは武術でリーシュ君の実力が認められたということ。武術で学費免除になったって聞いていたし…近いうちにそうなる可能性は知っていた。
三年生になると卒業後を見据えて更に専門的になる。だから今後はもっと大変になるんだろうな。
彼の頑張りが認められて嬉しいけど…。
爽やかな笑顔の男子生徒に肩を組まれ、照れなのか…それとも運動の後だからか、頬が赤いリーシュ君が気にくわない。なんだかすごく嫌だ。ボクだって彼に触れるのを必死で我慢してるのに。
あんなにベタベタと。
早くボクのところに来ないかな…。いつもなら、すぐに隣へ来てくれるのに。
しかし、祝い賑わうみんなに丁寧に対応する彼だから、休憩時間なんて一瞬でなくなってしまった。
授業が始まる鐘が鳴ると、リーシュ君の座った席へ目を向ける。彼も視線に気がついてこっちを見たから、親指を立てて見せる。「やるじゃん!」って意図が伝わったのか、彼は照れたように微笑んで親指を立ててサインを返してくれる。
そのやり取りが、ボクらだけの特別なやり取りに感じた。
まぁ、またいつでも話せるし…。
そう思ってたのに…。
文化祭の準備に追われ話せず。次の日からも三年生との訓練が優先され、授業でさえも顔を合わせる機会が減ってしまった。
髪の結いかたを教えるのも、彼の綺麗な髪を整える時間もない。
もっと、話したい。
許されるならもっと触れたい。
気持ちに形はないはずなのに、ボクの気持ちはどろどろした何かのように感じる。そんなどろどろに沈みそう…。
リーシュ君不足が続いたそんな時。
「クラウさん。少し良いかな?お願いがあって。」
名前を呼ばれ、ついビクリと体が揺れた。彼を見ると心の底から何かが溢れる。
「ん、なーに?」
「勉強…教えて欲しいんだ。今度のテスト範囲。」
「勉強?いいけど。」
「よかった!助かるよ。」
さっきの不安そうな顔は一瞬で吹き飛び、フワッと笑う。その表情に胸が騒がしくなっていく。
つまり。
勉強を教えてもらうなら、ボクが良いって選ばれたって事でしょ?あの爽やか君やマルーナさんじゃなくてボク!
仕方ないなぁ~♪
ここ数日、沈んでいた気持ちは跡形もなく消えていた。
そして放課後。
「各教科の合格ライン超えるのかぁ〜」
学園のテストには、決められた最低ラインと合格ラインの点数がある。最低ラインは進級出来るかどうかに関わり、合格ラインは、その教科をしっかり理解していると言える点数のこと。
「うん、将来王都の騎士になるなら各教科の合格ラインは越えなければいけないって…。」
「騎士になんの?」
「どうかな…王家に忠誠心も無いし。でも選択肢の一つとして残しておきたい気持ちもある」
「こら、ここでその言い方は怒られるよ」
「ぁ、そっか。ごめん」
「ごめん」と言いつつ、ふふっと笑う彼にとって王族からの脅威など何も感じていないのだろう。とんでもない強い身内がいる上に、本人も強いのだから。いざ、逃げろ!って場面になれば霧のように消えてそうだ。
「王都で武術を生かした職を見つければ寮費返ってくるし。色々探して、どれもダメなら故郷に帰って狩人やると思うけど。」
騎士の中でも下っ端で終わるか、上に行くか。どの騎士団に配属されるか、それらの判断に成績もあるのだろう。
そして、彼の将来。
その中で王都に長く留まる選択肢は騎士しかないと知った。
近い将来、彼と離れる可能性を考えて、素直に「寂しい」という気持ちが現れる。ボクに出来ることは、勉強を分かりやすく教えることだけ。
「クラウさんの説明は分かりやすいし、ノートも可愛くて楽しいな。」
「ボクはセンス抜群だし、当然。」
自分のノートを見せながら、丁寧に教えていく。そして彼が辞書を開こうとした時。手からスルリと辞書が落ちた。彼の手は震え、ちらりと緩んだ包帯が見える。
その包帯を見て、なんとなく過去の自分を思い出す。
「怪我してる?」
「少しだけ。動かすと痛くて。」
緩んだ包帯をそのままにしておくのは見過ごせない。
「直そうか、手、貸してみ?」
不思議そうに見た後、彼は素直に手を差し出してくれる。彼の隣に椅子を引き寄せ腰掛けると、一旦その包帯をほどいた。包帯の下には痛々しい痣。その痛みが少しでも軽くなるように、巻き直してあげればすぐに綺麗になった。彼はボクの手つきを見て、目を輝かせていた。
「すごい!さっきより固定されて痛くない。」
「まーね。上手いっしょ?」
巻いた包帯をもう片方の手で包み、ぎゅうっと抱きしめた彼はどこか美しい。
「やっぱり、クラウさんは凄いな。何でもできる。」
君の方がよっぽど凄いってのに。なんでこんなに褒められるのかわからない。ボクのする事をスゴイスゴイと目を輝かせる姿はどこか妹を思い出させる。なのに、妹とは確実に違う気持ちが胸にある気がする。
「昔、剣術習ってて…それで怪我いっぱいしたから慣れてるだけ。」
「そうなの?」
「うん。でも…ボクは耐えられなくて、逃げたんだ。剣術から…ボクの役割からも。」
昔の自分を思い出すと情けなくてつい乾いた笑いが出てしまう。
いーや…情けないのは今も同じ。
◇ ◇ ◇
明日は夜に2話投稿予定です。
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