その服の下は?(クラウ視点)
世話の焼ける頑固な親友を目の前に。小さく息を吐いた。
「……分かったよ。そこまで嫌なら無理に脱げとは言わない。その代わり、医務室に行って氷を貰ってこよう。それなら文句ないでしょ?」
渋々…といった様子で頷く彼に少し安心する。アイスを食べ終えると、ボクは半分熱に浮かされているようなリーシュ君の肩を貸すようにして廊下を歩いた。思ってたより軽い。まぁ、肩は貸してるけどリーシュ君も歩いてくれてるし、こんなもんか。
医務室へ続く道は、暑さのせいかどこか遠く感じられる。
「リーシュ君って暑さに弱いの?」
「そうみたい…。故郷は、ほぼ森だし…山の上だから涼しいんだ。こんなに暑い日は…初めて体験したかも」
フラフラと頼りなく歩く彼は、時折ボクの肩にコテリと頭を預けてくる。
いつも、どこか一線を引いているような彼なのに、今の彼はまるで幼子のように無防備だ。
…それに…汗の匂いがするのに嫌な香りじゃない。甘くて、どこか爽やかな…そんな香りがする。服や髪から香るのだろうか?
「……ふわふわする。廊下が波打ってるみたい」
「相当きてるね。ほら、しっかり掴まって。もう少しだから」
「うん……。クラウさん、冷たくて気持ちいい……。さっきのアイスみたい」
「……。ボク、そんなに白くて丸いかな?」
思わず苦笑いすると、リーシュ君は焦点の合わない目でボクの顔をじっと見つめ、それからふにゃりと締まりのない笑みを浮かべた。
「……白くて、可愛くて……。アイスの匂いがする。…………」
「ボクはアイスじゃないから!ちょ、ちょっと! リーシュ君、嗅がないでよ! はっ!くすぐったいってば!」
顔を近づけるから微かに鼻先が首に当たって…、それがくすぐったくて身を捩る。だけど体調の悪い親友を放り出すことは出来ない。
「……ねえ、クラウさん」
「ちゃんとボクだってわかってるのかよ……なに?」
「ごめんね。上着、脱がなくて……」
「……いいよ、別に。何か理由があるんでしょ」
「うん。……だって、クラウさんが見たら……きっと、……嫌われちゃうかも、しれないから……」
消え入りそうな声で、彼はポツリと漏らした。嫌われる? 脱いだ姿を見たぐらいで?リーシュ君の裸でボクは親でも殺されたのか?両親共に健在だからありえない話だけどさ。
何だよまったく…何を隠してるってゆーのさ…。
「嫌うわけないじゃん。親友、でしょ?」
「……しんゆう……。そうだね、親友、だよ……」
彼は噛みしめるようにそう呟くと、またポワポワとした足取りで、ボクの肩に重みを預けてきた。暑さにここまでなるとは、思わぬ弱点を知ってしまった。何故だろう…少し嬉しい。こうして弱ったところを見れる事が。
医務室に到着し、扉を叩くと、中からは年配の女性の先生が顔を出す。
「先生、リーシュ君が暑気あたりみたいで……。上着を脱ぎたがらないんですけど、顔も赤いし、少し冷やしてあげたいんです。氷を頂けますか?」
説明すると、先生はリーシュ君の顔をじっと見つめ、それからボクの方を見返した。
「……そう。それなら私が診ましょう。貴方は教室に戻っていいですよ」
「えっ、ボクも付き添いますよ。親友だし、気分が悪くなったら——」
「親友だからこそ、傍にいたら気を使ってゆっくり休めないわ。貴方もやることがあるでしょう?」
有無を言わさない強い口調に、ボクは思わず気圧されてしまった。……何だろう、あの先生の態度。強いな。
結局、ボクだけが廊下に放り出され、パタンと扉が閉められた。
……。
……あれ?ここ…涼しい。
廊下の医務室側の壁にもたれかかると、ひんやりとした医務室からの隙間風が肌に伝わる。医務室は先生の魔法で冷えていたから、壁に近ければ冷気で涼しいのか…穴場じゃん。医務室の廊下は結構快適だった。リーシュ君のことも気になるし、ボクもここで少し休むことに決める。
静まり返った廊下。
扉の向こうからは、先生の「汗で濡れている服から着替えなさい。替えを用意しますから、少し涼んで行くといいわ」という声が聞こえてきた。先生の声色から本当に暑さに弱いだけで、熱中症などにはなっていないようで安心した。
涼しい部屋で休めるなんていいなぁ、と思った直後。
カチャ、と金属が触れ合う音がした。……多分、ベルトを外す音。
続いて、布地が肌の上を滑り、ストン、と床に落ちる重い音が聞こえてくる。
ボクの心臓が、耳元でうるさく打ち鳴らされた。
……えっ?着替えてる?あんなに嫌がってたのに?あの先生の前では抵抗できなかったのかな?
…気になる。
ただ、友達が服を脱いでいるだけ。なのに、どうしてボクは、こんなにも息苦しい思いをしているんだろう。
衣服が重なり合う微かな音。
扉一枚隔てた向こう側で、リーシュ君が衣服を脱ぎ捨てていくのが音でわかる。ボクの頭の中では、医務室の中で、あの白い肌が露わになっていく光景が浮かんだ。
ドキ、ドキ、と自分の心臓の音が聞こえる。
自分でも驚くほどの鼓動が、この熱い空気の中に溶け出していく。
この学園の更衣室は全て個室だから、他人の着替えなんて気にすることはなかったけど…。
「まぁ、凄いわね。」
先生の声。
な、何が凄いの!?え?何が!?
今のボクは、扉の向こうを覗き見たいという浅ましい衝動を必死に抑え込むのでいる。冷気がここまで流れてくる程、ちょうど隙間があるんだよ?…
…本当に初恋の人の入れ墨あったりして。男同士だし…覗いたところで何も問題ない…よね。
そうして手を伸ばしかけた。すると中から更に会話が聞こえてくる。
「こんなに凄い汗かいて…我慢しすぎですよ。水分をしっかり補給して。気をつけなさい」
「…すみません」
凄いのは汗かよ!!!!そりゃあそうだな。暑そうだったから。
って…ボクは変態かよ。親友の着替え見ようとするとか…。
どうやら、熱でおかしくなったのはボクも同じだったようだ。暫くここで涼んだら、静かに自分の教室へ戻った。
その日の猛暑は次の日まで長引くこともなく、次の日には落ち着いていた。
教室に現れた親友は、いつも通りの元気な様子。一安心…なのに妙な負い目があり、少しだけ勝手に気まずくなっていた。
◇ ◇ ◇
明日から、平日は夜21時15分頃に1話投稿していきます。よろしくお願いします!




