暑い日(クラウ視点)
気持ちが浮いたり沈んだり…
ただでさえ妙な感情で忙しないのに、今日の王都は何故か暑かった。
聖女様の体調不良で王都を包む聖なる加護が不調だそうだ。王都を守る聖女様の不調…この暑さに文句が言える者がいるはずもない。今が学園祭準備の期間で良かった。運動の授業なんてあったらやばかった。
ボクはいつも着ている大きいカーディガンを脱ぎ、薄着で学園祭の準備を程々に進めていた。カーディガン無しだと、自分の肩幅や胸元が隠れないから可愛さが台無し。中等部の時はまだ良かったけど、高等部に入ってからだいぶ体つきが誤魔化せなくなってきたと思う。こんな可愛らしい格好ができるのも高等部までだ…と、改めて思う。
それでも、この暑さじゃ集中できやしないから仕方ない。
それに、暑さで集中出来ないのはみんなも同じみたい。男子生徒は、上半身裸で作業をする生徒も多い。それはそれで彼らは女子生徒へのアピール!と言わんばかりにイキイキとしている。あそこまで脱げば過ごしやすいのだろう。ボクはしないけど。
それより問題なのはボクの親友だ…。
「……ねえ、リーシュ君。本当に正気?」
ボクは自分の首筋に張り付く髪を払いながら、目の前の光景に呆れ果てていた。
教室の隅。文化祭準備の手を止めて横になっている彼は、頑なに制服の上着を着たまま。額にはうっすらと汗が浮かんでいるのに、ボクが「脱いだら?」と声をかけるたび、彼は首を横に振る。
「大丈夫……、これくらい……」
声に力がこもっていない。そんなにまでして何を強がっているの?
あまりの頑固さに困惑するけれど、ぐったりとしている彼を放っておけるほど、ボクは薄情じゃない。
「もう……。そこでじっとしてて。どこにも行っちゃダメだよ?」
ボクは購買へと走り、器に入ったアイスを二つ買ってきた。ミルク味の白いアイス。教室に戻ると、買い出しに出る前のままそこにいる。ボクの手にアイスがあるのを見た他の生徒もアイスを求めて教室を出ていった。
「はい、これ。冷たいものでも食べないと本当に倒れちゃうよ」
声をかけたけれど、彼は重そうにまぶたを持ち上げるだけ。自分から起き上がって食べる気力もなさそうだ。大丈夫かな?…やばいんじゃない?ボクは彼の傍に膝をついた。
「ほら、口開けて」
木のスプーンで少し溶け始めたアイスを掬い、彼の唇の端にそっと寄せる。リーシュ君は少し驚いたように目を見開いたけれど、ボクが「拒否権なし!」と視線で圧をかけると、大人しく小さな口を開けた。
「……、……冷たい」
一口、飲み込んだ彼が吐息を漏らす。その顔が冷たさで少しだけ緩む。…なんか……可愛いな。
「美味しい? ボクが選んだんだから、当然だよね」
「美味しい…ありがとう。お金は後で払うから」
「また今度ボクにアイス奢ってくれたらいいよ」
「そっか、ありがとう。美味しいの、ご馳走する」
ボクはわざと得意げに言って、また次の一口を運んであげる。
上着を脱がない理由は…今は一旦置いておこう。気になるけど我慢。きっと恥ずかしいとか何かだろう。
「……クラウさん」
「ん?」
「……これ、君のは?」
「ボクのは後。今は、君が優先。全部食べ終わるまで、ボクが付き合ってあげるから」
そう言うと、彼は体を起こしてボクから器を取り上げる。
「自分で食べるよ。クラウさんも食べよう?溶けちゃうから…」
「リーシュ君が自分で食べれるならそーする」
「うん、クラウさんのお陰で少し元気出た」
「いーよ、それより食べて」
パクパクと食べているとリーシュ君も一口一口大切そうに食べる。しかし、暑さで力が入らないのか、器を持つ手にポタリとアイスが落ちてしまった。
「もぅ…やっぱりボクが食べさせようか?」
「大丈夫…少し油断しただけ」
そう言って、手に溢れた落ちた白いアイスをペロっと舐める。本来なら「お行儀が悪いぞ!」と言うところなのだけど…何か…その、ね、光景が…さ、見ちゃいけないような気がする。
妙な思考回路になってしまったのは暑さのせい?
「リーシュ君…上着、ほんとーに脱がないの?」
「うん、脱いだら…きっとみんなを驚かせちゃうから」
…驚かせるって…そんな衝撃的な中身なの?
「…すんごい入れ墨があって、しかもそれが初恋の人の名前とか?」
「ぶはっ!」
吹き出した彼が、自分のハンカチを取り出して口を拭う。思いつく限り、一番どぎつい事を言ってみた。度を越したキツイ内容を言ってみれば、そこまでじゃないと思えて言いやすくならないだろうか?そう思ったけど、彼はハンカチで口元を拭い終えると、特に否定もせずにアイスを食べるのを再開する。
…まさか
…本当に初恋の人の名前の入れ墨が…!?
気になる。
しかし、こんなにもボクが心配して言っているのに、最後まで上着のボタンを離そうとはしなかった。




