犬だ。(クラウ視点)
リーシュ君に、可愛いボクを見せてあげよう。彼は可愛いものが結構好きで、その時は反応が良いから可愛いボクを見せる甲斐がある。
…
そう言えば、彼は何か衣装を選んでいるのかな?と気になり姿を探すと、さっきと同じ席に座ったまま動いていない様子だった。
彼は、女子生徒に撫でられ乱れた髪をそのままに、また手元のブレスレットに視線を戻していた。手元を動かして新しい糸の組み合わせで売り物を作っているみたいだけど…衣装には興味ないのかな?そうして眺めていると、そこへ他の生徒が話しかけに行っていた。
「これ、リーシュ君の髪色にそっくりじゃないかな?付けてみて良い?」
「何?これ…フワフワだけど」
「犬風の飾り耳と尻尾だって」
「犬なんだ」
言われるまま、その耳を付けられるリーシュ君。黒毛の垂れた耳と長めの尻尾。それらを付けると似た髪色なのもあり彼に凄く馴染んでいた。
「格好いい!」
「…ありがとう」
その反応は少し困ったような雰囲気があった。その子と少し会話を交わした後、その女子生徒が他の子に呼ばれてどこかへ行ってしまう。犬耳や尻尾はそのままで…。ボクはたまらず足を踏み出す。
「リーシュ君」
振り返ったリーシュ君は、ボクの顔を見て「あ、クラウさん」といつも通りに感情の分かりにくい顔を見せる。何故か…凄くモヤモヤとする。
なんで、女の子にされるがままなの?女の子にチヤホヤされるのが好きなの?そりゃあ…男の子なら女の子が好きだろーけどさ…。
「髪……乱れてる。直してあげるよ」
そう言って、女子生徒に付けられた耳を取ろうとした時。彼の背後で、何かがブンブンと行ったり来たりを繰り返す。
「リーシュ君?なにそれ?」
「何って?」
よく見れば、彼の頭についた耳も「撫でて貰う準備」のように後ろにペタリと下る。
気になる所は多いけれど、一番目立つ後ろのソレ。ボクが彼の後ろを指さすと、リーシュ君はそれを確認するように自分の後ろを見た。すると、視線の先にはフサフサの尻尾が本当の犬の様に行ったり来たりを繰り返していた。それは大好きな主人が帰ってきた時のような嬉しそうに動く尻尾。ブンブン風を切る。
「わっ!」
リーシュ君は驚きながら、その尻尾をギュッ!と捕まえる。しかし、捕まえたその尻尾は「まだ動きたい!」と言わんばかりに彼の手の中でモゾモゾと動いていた。
「どうした?」
彼が珍しく驚く声を上げたものだから、その声に気がついた他の生徒が声をかけてくる。その時。リーシュ君の頭についた耳がピン!と立った。犬のお耳が何かを警戒するように。その様子に、何故か咄嗟に言葉が出ていた。
「あー…、ほら。窓の外見てよ。犬がいる」
「え!犬!?犬種はなんだ」
「犬いるの?どこどこ?」
その生徒は、ボクの嘘に引っかかり教室の窓を開けて犬を探した。そして他の犬好きな生徒も釣られて窓の外をのぞきに行く。
「ふぅ、危ない危ない」
そう言ってリーシュ君に付けられた犬耳をサッと取り上げる。なんとなく他の人に見せたくなかった。
「あ!あの犬種は珍しいな!」
「学園に迷い込んで来ちゃったのかしら?」
「飼い主近くにいたりしないの?」
本当に犬がいたらしい。ボクのウソは犬を救うかもしれない。数名の生徒が犬を助けに走っていった。
少し静かになった教室。彼から取り上げた犬耳装飾は、ボクの手の中でピクリとも動かなかった。ダラリと元の姿に戻っているだけ。それをよく観察してみれば、モフモフの毛の底に魔術文字が丁寧に書かれているのが分かる。
「これ、君の感情に合わせて動いてたっぽい。先輩たちは面白い物作るね」
「へぇ…」
学生の作った物だからなのか、その魔術文字の解読は簡単だった。初歩の単語の組み合わせだったから。……ってことはだよ?さっきの女の子にこれをつけられても何の反応もしなかったコレが…ボクが来た事であんなにも嬉しそうに動いたわけだ?
ふーん。
へー?
そうして少し騒がしくなった窓の外を見れば、先ほど犬を助けに行った数名の生徒が、犬に飛びかかられていた。犬は「遊んでくれるの!!」とでも言いたげにぴょんぴょんと跳ねて嬉しそうに尻尾を振る。
その尻尾は、さっきのリーシュ君の尻尾みたいな勢いでブンブン振れている。
「リーシュ君は、ボクが来て嬉しかったんだ〜?可愛い」
「ぅっ…」
窓の外を眺めながら言う問いに、声を少し漏らしただけで否定しない。ボクは彼の背後に回り、指先で彼の髪を撫でた。
「髪、いつも通りカッコよくまとめてあげるよ♪」
「ありがとう」
本当は、もっとからかいたいけれど、彼が尻尾を押さえたってことは、感情を他人に知られたくないって事だよね?彼の嫌がることはしないって決めたから我慢!
尻尾の装飾はとっくに取られ、机の上に置かれていたけれど、耳を赤くさせながら言う「ありがとう」がさっきの女の子達に言うのとは違うとボクなら察する事ができる。
それがボクを上機嫌にしていった。
女の子と触れ合うよりもボクと話す方が好きってことだよね?
まだまだ親友としての地位は安泰!
そう思うと、友達を取られないか心配してただけなんだな…と自分の気持ちを決めつけた。他人の体温が残っているかもしれないその髪を、自分の指で上書きするように、丁寧に、何度も漉いていく。
もう一度、ボクだけの手で。
誰の手触りも残さないように、ボクは彼の髪を結い直した。




