文化祭準備はドキドキした(クラウ視点)
リーシュ君から、ボクに対するベタ褒めが終わり。教室の空気も不思議なものとなっていた。その空気に、話が一段落したと見なされたのか、マルーナさんが新しい話題を提供してくれる。
「リーシュ様のブレスレット。売り物として、問題ないように思います。クラスの文化祭運用費から何種類か編む糸を購入しに行きましょう。」
「そうだね、他に買い出し行く人はいるかな?」
「あ!私達も行きます。」
そうして、リーシュ君がブレスレットの紐を買いに出かけ、教室からぞろぞろと出ていく。すると、教室には一瞬の静寂が訪れた。
机に突っ伏したままだった顔をゆっくりと上げた。心臓はまだ激しく鼓動していて、頭の中はリーシュ君の言葉とその眩しい笑顔でいっぱいになっていた。
「理想の…上司…」
小さく呟き、両手で頬を押さえた。
熱い。
顔が、耳が、胸の奥まで熱い。
リーシュ君の真っ直ぐな瞳、嬉しそうに自分の手を握ってきたあの温もり。いつもなら、どんなからかいも軽く受け流して、自信たっぷりに笑い返せる自分なのに、今は別人みたいに動揺している。
こんなの、ありえない。
装飾班の子たちも、作業の手を止めてコチラを見る。みんな、明らかに面白がってる。なんとかいつもの調子を取り戻そうと笑顔をつくって見せた。
「ほんと、ビックリしたんだけど!リーシュ君、公開告白でも始めるかと思ったじゃん…それなのに、友達以上で理想の上司だったじゃん!!」
軽い口調で茶化すように言うと、クラスメイトたちはまた笑い声を上げた。
今までだって、告白されることは何度かあった。この見た目だし、男女問わず目を引く。でも、そういう時はいつも「なんて穏便に断ろうかな?」くらいにしか思わなかった。
軽く笑って「ボクらは友達でいよーよ。その方が絶対楽しめるし、ね!」と適当に流して、それで終わり。その後は、ボクが気にしなくても相手が気まずそうにして疎遠になる。
それでいいし。心が揺れることなんて、一度もなかった。なのに、リーシュ君が近づいてきて「もしかして…告白?」と思った瞬間、頭が真っ白になって、胸が張り裂けそうなくらい高鳴った。
あの感覚は、初めて。
さっきリーシュ君に握られた手の感触を無意識に追いかけて、そっと自分の掌を握りしめる。深く息を吐いて、装飾班の作業に目を向けた。
そのふとした瞬間、ボクの視線は机の上に置かれたリーシュ君の編みかけのブレスレットに落ちる。
色とりどりの糸が絡み合い、未完成ながらも丁寧に編まれたその形は、リーシュ君の真っ直ぐな心そのものみたい。指先でそっとブレスレットに触れてみる。
(断るって選択が浮かばなかった…。急だったから?それとも…)
教室にはまだ装飾班のクラスメイトたちがいて、内装を決めながらも時折こちらをチラチラ見ている。ハッとして、慌てて視線を外し、いつもの軽い笑顔を作る。
「リーシュ君の作ったブレスレット、結構いいよね。糸の色を変えたら可愛くなりそうだし。」
そう言って誤魔化す。
すると近くにいたクラスメイトが楽しげに言う。
「さっきのリーシュ、クラウのことベタ褒めしてたな。…あれ、実はクラウへの恋心に本人が気づいてないだけだったりしないか?」
「はぁ?恋に気づかないってありえる? 恋ってさ、ビビッとくるもんじゃないの? 」
わざと大げさに両手を広げて見せたけど、内心はザワザワが止まらない。リーシュ君は僕の事を大切な友達だと言ってくれる。ボクだって親友だと胸を張って言える。…でも、もしそれが、自分の恋心に気がついてないだけ…なんて事が本当にあったなら…。
「恋って気づく瞬間って人それぞれじゃない? 俺はつい嫉妬しちゃった時に気づくけど。」
装飾班が作業の手を止めて集まってきた。教室の片隅で、急に恋の話が始まる。
「俺はさ、その人と目があった瞬間に『あ、好き!』って思った! 心臓バクバクして、頭真っ白になった!」
「ちょろいなー。僕は、その人のことばっか考えてた時だな。」
「俺は顔が好みで性格もそれなりに合えば好き。」
クラスメイトたちの話が次々飛び交う中、相槌を打つ。みんな結構「恋」してるんだなぁ…。
「クラウは、リーシュのこと、ちょっとは意識する時あるの?」
「しないって、友達だし! それにリーシュ君は男じゃん?」
「でも、リーシュって綺麗な顔してるから、あり得るかなって。クラウ真っ赤になってドキッとしただろ?」
「ないない!!さっきのは、ただ…ただ、ビックリしただけ! あんな風に褒められたら、誰だって照れるじゃん!」
必死で反論するけど、クラスメイトたちの「ほー、ほー!」というからかう声に、顔がまた熱くなる。
「もう、からかうのやめてよ! ボク、装飾の、ちょっと整理してくるから!」
そう言って、逃げるように教室の隅に置かれた資材の山に駆け寄った。これは各クラスに配布されたサンプル。その布を手に持ちながら、なんとか気持ちを落ち着けようとするけど、頭の中はまだリーシュのことでいっぱいだ。
そっと自分の胸に手を当てると、心臓がまだドキドキしている。
(少しドキッとしたくらいで恋とか判断できないって。驚かされた時はドキドキするもの。これも驚いただけ。…少し頭冷やさなきゃ。)
頭では「友達」と言い聞かせる。それは、今まで通りの友人関係を続けるために必要なことだから。変に意識して、関係を壊すなんてしたくない。ましてや、クラスメイトの茶化しを本気にして気まずくなるなんて馬鹿げてる。
親友との距離を間違えちゃダメだ。
それから。
文化祭の準備が進むにつれ、教室は日に日に色とりどりの飾りで賑やかになっていく。作業が順調に進んでいるはずなのに、心はどこか落ち着かない。
リーシュ君とマルーナさんが一緒にいる時間がやけに多いのが目につく。
マルーナさんは、当日のメインだから準備はしなくてもいいと決まった。だから好きにしていいのに、なぜリーシュ君のところへ行くんだ。それにリーシュ君からも積極的に話しかけに行っているように見える。最近じゃ…ボクに話しかけてくるより多いかも…いや、そんな…話しかける回数とか比較するもんじゃないし?
ブレスレットを編むために、二人で相談して糸を選んだり、雑談しながらリーシュ君はブレスレットを編んでいる。マルーナさんの優雅な笑顔に返すように、リーシュ君の純粋な笑顔を見せる。
そして距離が近い。
妙に近い。
なんでそんな近くで話すわけ? 糸の色なんて、もっと離れてても見えるじゃん…
装飾用の材料を手に持ちながら、チラチラと二人を盗み見る。リーシュ君がマルーナさんに何か説明してる時、彼女がふいに笑って彼の肩を軽く叩く。リーシュ君もいつもボクに向ける笑顔を返して…。
なんだか悔しい。
リーシュ君があんなに楽しそうな笑顔を見せるのは、ボクに対してだけだと思っていた。
◇ ◇ ◇
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