マスコット
パンケーキ屋さんの翌日。
クラウさんに迷惑をかけないよう、例のふわふわ兎ちゃんのマスコットを上着の内ポケットにそっと忍ばせた。
ポケットの中で窮屈そうにしているマスコットを思うと少し申し訳ない。けれど、またクラウさんの恋人と勘違いされて迷惑はかけたくない。
そう思ってはいても、このマスコットの存在は嬉しくて…どうしても今日は持ち歩きたかった。
少し我慢してね?と優しく撫でる。
そうして教室に向かう途中。
ピンクの髪を揺らし歩くクラウさんの後ろ姿を見つけた。リボンの結び方が今日は少し個性的。
鞄にはあの兎ちゃんマスコットが堂々とぶら下がっていて不思議と嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「クラウさん、おはよう。」
「おはよ、リーシュ君! 」
「マスコット、付けると目立つけどやっぱり可愛いね。」
「癒される可愛さだよね~。リーシュ君もつけてるよね? 」
クラウさんはウキウキした調子で身を寄せ、鞄を覗き込む。だけど、私の鞄には何もついていない。クラウさんの笑顔が、だんだん不服そうな表情に変わっていく。
「……あれ? つけてない。」
「いるよ。 ほら…ここに。」
上着を軽く叩き、マスコットが隠れていることを示す。だが、クラウさんの目はさらに不服そうな色を見せ、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「え、隠してるの? どこかな~?」
クラウさんはそう言うと、突然身を乗り出し、私の上着の内ポケットに手を伸ばし差し込んできた。
「ちょ、ちょっと! やめっ!」
慌てて一歩下がろうとする。彼の指先が上着の内側に滑り込み、マスコットを探るように動く。その瞬間、クラウさんの指が装備でしっかりと押さえられた、その部分に触れる。
「ひゃっ!」
思わず小さな声を上げ、顔が熱くなる。装備のおかげで胸の形は平らでも、触れられた感触はしっかりと装備越しに伝わる。クラウさんの手は無邪気にマスコットを探しているだけなのに、心を激しくざわつかせる。
「ん? どうしたの、なんか可愛い声出たね?」
クラウさんは手を止めず、ニヤリと笑いながら私の顔を覗き込む。そのいたずらっぽい笑顔は私をヒヤッとさせる。
「な、なんでもない! ただ、くすぐったかっただけで!」
必死にごまかそうとするが、声が上ずってしまう。クラウさんはますます楽しそうに笑った。
「ふーん、くすぐったい? へぇ、リーシュ君って、すごーく敏感なんだ? じゃあ、もっとちゃんと探っちゃおうかな~!」
両手の指をニギニギと動かして見せ、今度はわざとらしく上着の内側をまさぐるように手を動かす。
「やっ、やだって」
「わぁ、リーシュ君の慌てる表情、貴重過ぎるんだけど!」
指先がポケットの奥をうろつくと見せかけて、身体に触れるように動く。触れられるたびに微妙なゾワゾワした感触が全身を駆け巡る。反射的にビクッと身体が震え、思わず両手で上着を押さえた。
「や、やめて! ほんとに恥ずかしいから! みんな見てるよ!」
つい声が少し大きくなり、周囲の生徒がチラチラと振り返る。端から見れば、可愛い女の子が男の子にじゃれているだけ。そんな微笑ましい光景にしか見えないだろうけど、私にとっては男性に上半身を触られている状態なわけで。心臓がバクバクと鳴りやまない。妙なドキドキと妙な嫌悪感が入り混じる。
「おい、クラウ! あんまり男の体まさぐると、男として反応しちゃうぞー!」
その言葉に、周囲の女子生徒たちがキャーキャーと沸く。心の中で叫ぶ。
男として反応するものないから! !
だが、クラウさんは男子生徒の言葉を聞いて、ふと私の下半身に視線を落とす。そして、そこに何の変化も見せていないことに、ホッとしたような笑みを浮かべた。
「ちゃんと友達と思ってくれてるんだなー!なんか感動。」
クラウさんは無邪気に笑いながら、私の肩をポンと叩く。その笑顔は純粋で、どこか安心したような表情。だけど、その言葉に一瞬戸惑い、ムッとする気持ちが大きくなる。
友達と認められたのは嬉しい…けど、いっぱい体触られたのは…
隠しているのは自分だけど、あんなに体に触れられるのは凄く嫌だった。
好きな人なら、どんなに触られても嫌じゃないものかと思ってたけど…違うみたいだ。
◇ ◇ ◇




