言えない。
「ありがとうございました~」
お店を出る時、可愛らしい声でお店の人が見送ってくれる。
パンケーキを食べ終えて、苦しいお腹を擦ると満腹を越えたそれを実感した。最後の方は楽しんで食べる余裕は無かった。可愛いが激盛すぎて。
「口が甘みを拒否してる。」
「まだまだだなぁ。」
私以上に食べたクラウさんはまだ余裕そう。悔しい。だけど、あーだこーだ言いながら2人で工夫して食べるのは楽しかった。
「リーシュ君がいてくれて良かった。」
「どうしたの、急に。」
「あー…、ボクさ、この見た目だから男友達って言える友達が今いないんだ。皆と均等に話はするんだけど…それだけでさ。こうして遊ぶことが聖女様の流行以降なくって。」
その彼から語られる話は私にとっては意外だった。てっきり、みんな友達!くらいの認識なんだと思っていたから。
「聖女様の流行から…?」
「そう。聖女様の影響か…同性の友人がボクを好きとか言い出すことがあってさ。」
ギクリとした。
クラウさんが『男の友達』という存在をしみじみと喜んでいる。「女です!好きです!」なんて言いにくくなってしまった。なんてことだ…さっき言っていれば!!そう考えたら冷や汗が出てくる。
それに、私にはその「男友達」の気持ちが痛いほど理解出来る。
距離が近いし、気軽に触るし、男だと思えないほど可愛い。クラウさんにとって、恋愛対象外だからこそ気安く触れられるんだとは思う。女子生徒にはそんなに触ってないようにも見えるから。
そうして、クラウさんの過去の男友達に感情移入している間も更に言葉が続く。
「だからさ、ジンクスの花。覚えてる?…リーシュ君が見つけた時さ、見せるために呼びに来てくれたじゃん?」
「あったね。1年生の時」
「そー。あの時、ソワソワしてたから…また友達なくすのかなって一瞬過ったんだよね。でも、リーシュ君はボクの事を『友達として好き』ってハッキリ言い切ってくれたじゃん?花も『渡す相手いない』ってさ。あれ、すっごく嬉しかったんだよね。ボクのこと、本当にただの友達だと思ってくれてるんだって」
「あー…」
確かに、あの時はクラウさんが『女の子』だと思っていたから言った。考えていると、クラウさんが何かを疑うように目を細めた。
「なに?その反応。もしかしてボクのこと好きだった?」
「え?あぁ…そうじゃなくて。」
「違うんか!妙な反応するから勘違いしたんだけど。はっず!」
「ちゃんと…友達として好きだよ。」
「はぁ!さらっと恥ずかしいこと言うな!嬉しいけど!!」
どこかホッとしたように…そして嬉しそうに笑う彼。そんな顔をみてしまったら自然と偽る言葉が出てしまった。
ごめんなさい。
嘘つきました。
好きです。
もう、恋だと自覚してしまっている…。だけど同時に、この恋が純粋な恋には思えなかった。だって、男性だと知ってから意識してしまっているって、それってつまり。
私の恋は、性別が一番重要ってことで…
魂が惹かれ合うとか、相手の人柄に惹かれるとか…そういう純粋なものじゃない。それって、その、異性に対する『欲』みたいな『下心』じゃないだろうか。よくまだ分からないけれど、聖女様の伝えた美しい恋愛とはかけ離れていることは分かる。
私の不純な恋心で、この関係を壊すわけにはいかない。壊したくない。今の関係がとても大切だから。
それに、男友達の存在に純粋に喜ぶ彼を落ち込ませたくない。
このまま、彼の求める『理想の存在』でありたい…。
この考えは卑怯かも…。結局は自分を偽ったまま彼の隣に居座ろうとしている。
男装始めた頃と、何も成長してない…。
でも、もう色々手遅れで…バレてしまうまでは男友達として傍にいたいと願ってしまっている。無駄に感情を隠すのが上手いから、この気持ちも上手くやり過ごせるはず…。
それが、まだ彼の隣を歩ける唯一の道に思えた。
…クラウさんが好きなのはあくまでも『可愛い女の子』なの。私とは真逆…恋心を知られてしまえば、この関係が終わってしまうのは目に見えている。
だから…傍にいたければ隠し通すしかない。
うん。
方針が決まると、さっきまで混乱していた頭もスッキリして外の風が気持ち良く感じる余裕ができた。
「パンケーキ、奢ってくれてありがとう。」
「いいよ、そういう約束で付き合って貰ったんだから。ほとんどボクが食べたし。おいしかったー♪」
当てもなく歩けば、クラウさんが街を見てから帰ろうと提案してくれた。
「ぶらぶら歩くよー♪このまま帰れば太るの確定だもん。」
「しっかりしてるね。」
「まーね!ボクは太っても可愛いと思うけど、素敵な服に出会ったのに、それが入んなかったら悔しいじゃん?オーダーメイドでもいいんだけどさー、こうして街での出会いも大事ってゆーか…」
話していると、背の高い男性がチラチラとクラウさんを見てる視線に気がついた。それは、声をかけようか迷っているような…。ナンパというやつだ。
クラウさんも大変だな…
そう思って、男性達の視線からクラウさんを隠すように立つと彼の背に軽く手を添えた。男連れです!と主張するように側を歩いた。
「おお、急な男気…」
「…わざとらしかったかな?声かけたそうな男の人がいたから…」
「まぁ、慣れてるし。でもリーシュ君いると楽だなー。女の子たちと来ると追い払うの大変でさ。護衛多めが必須なんだよ。楽しめない。あ、ほら、ナンパ野郎も諦めたっぽい。」
クラウさんには色々とお見通しだった。でもこの男装も少しは役に立って嬉しい。
「また、気軽に街を歩きたい時は声かけてよ。クラウさんを守るから。襲われても返り討ちにする自信あるよ。」
少し胸を張って冗談っぽく言う。なのにクラウさんはプンッと頬を膨らませ、ジロリと見る。
「親友を護衛として誘うわけないっしょ~。また遊び行った時、変なの来たら頼らせて貰うけどさぁ。」
「うん、任せて。」
「じゃー、次いつ来る?お金が気になるなら街ぶらぶらするだけでも絶対たのしーし。ガンガン行こうよ♪」
こんなにすぐ次の予定が決まるなんて思わなかった。クラウさんはそんなにも男友達の存在が嬉しいのだろうか…、男装する私は、ちゃんとクラウさんの求める『男友達』なれるのだろうか。
悩みはまだまだ多いけれど、ウキウキと次の予定を話すクラウさんを見たら、私も気持ちがウキウキと楽しくなる。
クラウさんにとって、この男装が役に立つならそれでいい…と、今は思う事にした。
今夜も続きを21時頃投稿いたします。明日は休日なので4話くらい投稿出来たら良いな…




