恋人のふり。
間接キッスになっちゃう!と戸惑う私に、お店の人は笑顔でスマートに対応してくれた。
「あらあら♪でしたら、こちらも使ってください。最初のキスはタイミングが大切ですからね!」
なんて応援され、もう一組カトラリーを用意してくれた。元からもう一組持っていたようにも見えたけど…茶化された?…なんてことはないか。客から追加の要望が多いのだろうか。勘違いはされたけど、貰えたから良かった…気がする。
はぁ、とため息をついてフォークを見る。フォークの形もウサギさんで可愛い形。そんな私を観察したクラウさんは、何やらニヤリと微笑みフォークを持つ私の手をそっと握る。
「え、なに?」
手…
手!!
クラウさんは、そのまま私の手を使い、クリームとイチゴをすくった。何かのマナー…とか?と考えた時。それをゆっくり自分の口元に「あーん」と持っていく。私がクラウさんの操り人形のようにあーんをしていた。
「あー…ん!おいしぃ。」
「!?」
男の子に、あーんしてしまった!!あーんとか!あーんとか物語のやつ!!顔にグッと力を込めて、心を落ち着けてから彼の顔を見る。
「…クラウさん、面白がってる?」
「ふふーん。バレた?緊張してる姿が新鮮で可愛いなってさー。」
意地悪だなぁ…と呟いて、他のお客さんに迷惑にならない程度に声を出して笑い合う。すると近くの女性客の声が耳に入る。
「ねぇ、あのカップル、初々しくて可愛い! 初デートかしら?」
「ほんと! あの彼氏美形だし、女の子も可愛いー!」
視線が私に集まり、頬が熱くなる。真っ赤になった私を見て、クラウさんが意地悪く微笑む。
「今はボクの彼氏だもんね、リーシュ君?」
「そうだけど…ほんと、照れるから。」
クラウさんがさらに身を寄せ、耳元で囁く。
「可愛いー女の人多いけど、よそ見しちゃダメだよ?」
「よそ見なんてしないよ。」
よそ見なんて出来るわけない。
私は男性が好きな女で、クラウさんが男性と知った瞬間から完全に意識してしまっているんだから。
あぁ、もう…心臓がバクバクと煩い。熱くて仕方ない…。
なのに…
なのに幸せで苦しい…。
私はこれを『恋』と認めざるを得ない。
例え、それがどんなに不純でも。
優しくて、可愛くて、守りたくなる。なのに自分の意見はしっかり言えて、自信に溢れるクラウさんが好き。
今にも気持ちが溢れてしまいそうだ。「私は女で、男性であるクラウさんが好き。」と言ってしまいたくなる。
…
いや、言って良いんじゃないかな!?
この気持ちを告白しないまでも、女だって言っても良いんじゃないかな?クラウさんなら…「早く言ってくれればよかったのに。」って流れになるのでは!?
そう思って意を決して口を開いた。
「あのさ、クラウさん。」
「ん、な~に。」
「実は…」
「お待たせしましたー♪カップル限定プレゼント中のお揃いマスコットです♪」
「私は男装しているだけで、女なんだ!!」って…言おうとした。すると、そこにお店の人が現れて「限定アイテム」を持ってきてくれる。
それを見て「今は恋人のふりをしなきゃいけないんだった!!」と思いだした。
貰ったマスコットを見ると、形がパンケーキに乗っていた大盛クリームみたいにふわふわなウサギちゃんの形をしている。なんて可愛いんだ。
「うそ!可愛いすぎる♪」
「そうだね、可愛い。鞄に着けようかな。」
「リーシュ君が?」
「変かな?」
私が可愛いものを身につけたら変…か…。と思い、目の前のマスコットに申し訳なく思ってきた。だけどクスクス笑うクラウさんの答えは違うものだった。
「これ学校に付けて行ったら『恋人居ます』って言って歩いてるようなもんだし。」
「あぁ、そういうこと。」
「お揃いで付けたら、またボクと付き合ってるって思われてさ、からかわれるっしょ。」
「…?…クラウさんは学校に付けていくつもりってこと?」
「もちろん、可愛いーもん。」
「えー、私も付けたいのに。」
「ははっ」
せっかくクラウさんとお揃いなのに私だけつけれないのか。
「そんなに付けたい?」
「うん。クラウさんと遊んだ思い出だし、落ち込んだ時に元気貰えそうだから。」
マスコットをニギニギと握り、意味もなく片手を上げさせると自然と頬が緩んだ。
「もー、そんなん言われたら…いーよって言いたくなるじゃん。」
「いいの?」
「いーよ。特別に許可をやろうではないか!でも、なんか周りに言われても知らないよー。」
急に上から目線な許可の出し方をするクラウさん。偉そうな口調の割に少し視線を泳がせていた。その珍しい彼の表情を見ていたら秘密を打ち明けることをすっかり忘れていた。
明日も9時頃と21時頃に投稿予定です。(2分〜10分の間)




