戸惑う自分の気持ち
彼に会うたび、ドキドキとして…いつもよりぎこちなくなってしまう。
男性に対して意識してるだけ…と、自分の気持ちが整理しきれないまま時間だけが過ぎていく。
そんなある日の休み時間。
校庭のベンチで、クラウさんが私の乱れた髪を直してくれていた。
クラウさんはリボンを手に、「リーシュ君、これつけたら絶対カッコいいよ。」と私の髪をそっと撫でる。
その指先が肌に触れるたびにソワソワと居心地が悪くなる。今までは、ただ楽しい時間だったのに。
男性と知ったあの日から、私は彼の男性らしい仕草を目で追うようになってしまった。
長い袖に隠れた手は、よく見れば確かに大きくて。目をパチッと開けてると可愛らしいのに、気だるそうに目を細めた時の視線は少し鋭く格好いい。触れてくる彼の力は結構強いし。
「ねぇ、リーシュ君。王都に新しいパンケーキ専門店がオープンしたの、知ってる?」
ウキウキを隠せない様子で話してくれるクラウさん。前のめりになり、私を覗き込む顔が近い。心臓がドキドキとうるさくなるけれど、相変わらず感情を隠すのが得意だった。軽く微笑み誤魔化すと、そのパンケーキのお店について集中しようと試みる。
「パンケーキ専門店? そんなのあるんだ」
「そーなの!ふわっとした生地に、クリームが雲みたいにたっっっぷり! フルーツとシュガーパウダーも盛り盛りでさ~、店内がピンクと白のカワカワ仕様なの! んで、んで、カップル限定のハート型パンケーキがあって…一回食べてみたいなぁ、なんて♪」
「へぇ、美味しそうだね。」
想像したら普通に美味しそうだと感じて呟くと、クラウさんは瞳を潤ませ、胸元で両手を組み、可愛らしいお願いのポーズをとる。
これが男性??本当に??
今でも疑いたくなる。
「ね!ね!奢るからさ~!お願い、一緒に行こ?」
「いいけど…そのカップルメニュー狙うつもり?」
「やっぱ狙うでしょ! カップルメニュー。絶対食べたいじゃん!!期間限定!今だけなの!」
男装の私と、男の娘の彼なら…まぁ…いけるのだろうか?なんてややこしいカップルだ。
「ちょっとだけ…恋人同士のフリしちゃおうよ。」
「恋人のふり…。大丈夫かな。」
「おお?ボクの可愛い女の子姿は完璧だぞぉ!!」
どうやらクラウさんの女装を疑っていると思われたようだ。
問題はもちろん私だ。
「ボクの可愛さなら、誰も疑わないって! ね、行こうよー?」
「うん、…わかった。」
「イエーイ!ありがとうリーシュ君!」
「故郷では、友達と行くのは魔物狩りくらいだったから。パンケーキ楽しみだな。」
「おー。遊びが命がけ…」
王都の街で何をするか軽く話した後、クラウさんは「 週末、約束ね!」と私の手を握る。
その一瞬の温もりに、時間が止まったような気がした。
「ん?リーシュ君どうした?」
「え?何が?」
「最近、どこか上の空ってゆーかさ…なんか悩みでもあるの?ボクじゃ話せない内容?」
自分の気持ちを態度や表情に出さない自信があったのだけど…。クラウさんにはなんとなく読み取れてしまうらしい。
今の私には、悩みしかない。混乱している今、それらの本音を素直に打ち明けられる気がしなかった。それでも話せることとなると…
「クラウさんは、いつ見ても男の子に見えないほど可愛いな…って思って」
自分からポツリと溢れたその言葉に、自分の色んな悩みが乗っかっていた。
彼は男性でありながらこんなにも可愛い。そんな彼にドキドキとしてしまう自分。女性でありながら、男装を一切疑われない自分…。光と影の様に反する悩み。
「まーね!ボクって昔から可愛いんだよね〜」
こうして、嘘偽りのない自分に自信のある彼。本当に…彼は凄い。そんな悩みを察したわけでは無いだろうけど、クラウさんはベンチに座る私の前に屈んで視線を合わせてきた。
「でもさ、親友にならボクの男らしいところ…見せちゃおっかな〜」
男らしいところ?な、何を見せてくれるというのか…、ダメだ、変な想像してしまう。そんな変な想像を私の頭から追い出した時。彼は髪を無造作に一つに結う、そして私に視線を合わせて…
「ふっ」
少し角度をつけて流し目を向けてくる。
「どうよ」
「…どうって?」
「いつか、好きな女の子が出来たら見せようと思って練習した『男らしいキメ顔』」
男らしい…キメ顔…
「ふっ、ははっ、可愛い」
「な!?なんだとー!ちょーカッコいいでしょーそこは!凄く研究したのに!」
多分、彼は自然体の方がカッコいい。
笑う私を見て、クラウさんは「もうっ!」と頬を膨らませて唇を尖らせた。その仕草すら計算されたかのように愛らしく、やはり彼が「男性」であることを忘れそうになる。
けれど、結い上げた髪の隙間から覗く首筋は、確かに私の知る女性の友人たちのそれよりもしっかりしていて。
笑いながらも、私の胸の奥はまたちくりと疼いた。
いつか、好きな女の子が出来たら…か。
「ごめん、ごめん。でも、クラウさんはやっぱり……可愛さが勝っちゃうから」
「不本意だなぁ。……あ、そうだ」
不意に、クラウさんの瞳がいたずらっぽく細められた。
彼はベンチの上で膝をつき、逃がさないと言わんばかりに、私の肩にひょいと腕を回して顔を近づけてくる。近い近い。
「ボクは見せたんだしさ。リーシュ君も見せてよ、キメ顔。女の子を落とすキメ顔、だよ?ボクのを笑ったからにはカッコよく出来るんだよね?」
耳元で囁かれた弾むような声に、心臓が跳ねた。クラウさんは期待に満ちた目で私を覗き込む。
女の子を落とす顔……。そんなもの、考えたこともなかった。落とす気がないから。
「ほらほら、週末はカップルのフリしてパンケーキ食べるんだよ? 練習しとかないと、ボクの可愛いに釣り合わないぞ?」
そう言って、彼は楽しげに私の背中を指先でつつく。
断りきれない雰囲気と、彼に見つめられている気恥ずかしさから逃れたくて、私は小さく息を吐いた。
「……一回だけだよ」
私は覚悟を決め、少しだけ顎を引く。
クラウさんの瞳を、じっと、見つめ返した。それは、あくまでクラウさんの真似。私が彼を男性として意識してから…カッコいいと思ったクラウさんの眼差しだった。
「……これで、いい?」
ほんの数秒の沈黙。
先ほどまで茶化すように笑っていたクラウさんの動きが、ぴたりと止まった。
「…………」
彼は回していた腕をゆっくりと解き、瞬きも忘れたように私を見つめている。変だった…かな?不安になった時、隣から「……あー……」という声が聞こえてきた。
おそるおそる隣を見ると、クラウさんが片手で自分の顔を半分覆い、耳まで真っ赤にして俯いている。
「変だったなら笑っていいよ。」
「うーん?…あ、いや…そうじゃない。君ばかり…ズルいなぁって思っただけ」
ボソボソと呟かれた声は、いつもの高いトーンよりも少しだけ低くて。それでいて色気があった。彼は知らないんだろうな…ズルいと言ったそれが自分の真似だなんて。
いつも可愛い君は、そのままで格好いい。
◇ ◇ ◇
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