1年生の終わり
文化祭の後。
私が長く働いていた事に謝罪を受けたり、頑張ったから…と皆で山分けする予定だった報酬を多めに貰ったり…あの時の姿がカッコ良かったと褒められ?たり。そうしたやり取りをしていたらクラスの皆と更に話す機会が自然と多くなった。
もう一度あんな文化祭を…と言われたら絶対に嫌だけど、悪くはない結果だ。
そうして穏やかな時間を過ごし、そろそろ1年が終わる。少し長めのお休み期間が訪れた私は、二年へ昇級するための試験勉強に励み、王都の街を探検して過ごした。休みが明けて、無事にテストが終われば、今度は新一年生に寮の部屋を譲るため、同じ棟の上の階へ移動するためにの引っ越し作業に追われていた。
貴族の人は、従者に頼むそうだ。みんなは、自分の私物を他人に見られるのは恥ずかしくないのだろうか。私に男装という秘密があるから余計にそう思うのかもしれないけれど。
でも、それももうすぐ終わる。
そう思うと心がウキウキと弾む。
二年生として、学園に一年生を受け入れる準備も有り、なかなか忙しく、クラウさんに会う機会は少なかった。
廊下ですれ違い、手を振ったりするくらい。
少し寂しいけれど向こうだって忙しい。今はそれでいいんだ。もうすぐ女性に戻るのだから。昨日は男装だったのに、次の日は女の子らしい服装している、なんて状況が気恥ずかしい。普通に驚かせてしまうし。
そして。
やっとその日が来た。
「お金、よし!体調もよし!」
今日は待ちに待ったスカートの制服を買いに学園へ行く日。手持ちのお金をしっかり確認し、鞄に入れると部屋を出る。文化祭で貰ったお金で、制服は買えそうだった。私に集まった文化祭の利益は、本来ならクラスメイト達と山分けされるはずだった。しかし、彼らにとって金額は大した額では無かったようで…頑張ったから…と私の所へ集まってきたのだ。
親へ追加のお金を請求しなければならない事態が避けられてホッとする。
全てがこの日のためにあったように完璧だった。
…のだけど。
「あら、ちょっとリーシュさん!学園からお手紙ですよ。重要なお手紙だから私が預かっているの」
気合十分で寮を出ようとしたところで、寮母さんに話しかけられた。ふくよかで優しくて「みんなのお母さん」と言われている。だけど、こうして呼び止められるのは初めてだった。手紙についても心当たりがない。
「学園からですか?」
「ええ!良かったわね。この時期にこの封筒は、何かの科目で評価されて学費が免除されるお知らせよ。」
「学費免除、それは凄いですね。」
「よく内容を確認して、書類は期限以内に絶対提出するのよ?書けるなら今すぐ確認して書く方がいいわ。忘れて期限過ぎちゃう生徒がたまにいるのよ。」
「わかりました。」
「ご両親にも報告するときっと喜ばれるわよ?この通達はとても光栄な事だもの。」
「はい」
とても光栄な事…
その言葉で更に気持ちが高まった。テストの成績が良かったのかな?ちょうど、スカート制服を買いに学園へ行くし…。その前に確認して買いに行くついでに学園へ提出してしまおう。少し重みのある封筒を受け取ると、自室に引き返した。
そうして、
部屋に戻って書類を確認すると…。
「武術科目による技術が認められ…継続する場合は学費を免除とする!?!?」
目を疑った。
手も震えてくる。
更に、その技術を生かした国内の職に就けば学費だけでなく寮のお金も返還されるそうだ。利用したであろう食堂の料金(一番安い日替わり定食料金計算)も…。
しかし…武術の継続が条件。
女の子に…
戻れなくなる!?
そんな…
でも…。
書類で、担当教師を確認すれば教官の名前がある。教官は嫌いじゃない。むしろ尊敬する。授業自体だって厳しいけれど嫌って訳ではない。筋肉質になるのが嫌だっただけで、その懸念も筋力補助の魔法で解決した。
「ああ~…。」
自室で一人。気の抜けた声を出して頭を抱えた。
一晩悩んで…決定を一旦保留し、学園に向かった私に追い討ちをかける発表があった。
二学年でのクラス発表がされたのだけど…
運が良いのか悪いのか。
「クラウさんと同じクラス!?三十二クラスあるのに?」
掲示板を見た時、ついそう呟いていた。気持ちは複雑で…。友達が既にいる安心感と、再スタートが叶わない現実に悩みは更に深まる。
(クラウさんと一緒のクラスなら、今さらスカート制服で登校してもな…)
この日も、
また次の日も、
学校を終えて部屋で一人考える。
両親にも剣の才があると言われてきた。学園でも、こうして認められている。これはとてもいいことだ。評価されているのだから…。でも評価されるほどに、みんな私が剣を持つことを望んでるように感じてしまう。
そんなことは無いと分かってる。
自分で決めていい。両親だって剣を持たず、生きられる道を探す為に送り出してくれたのだから。
でも、他に何ができる?
自分にそう問いかけると、何も出てこない。
ただ私は「青春を楽しみたい!男の子と恋がしたい」と生活していただけ。
提出期限も迫っている。
頭に浮かぶ事実が、自然と書類に記入する筆を進めていた。武術の道を進むなら…もう男でもいいじゃないか。学園関係者は私が女性だと知っているけれど、手合わせなどする生徒は、何も知らない。手合わせするなら相手に気を使わせることはない男装のままが理想。今さら女だと言わなくても…なんて、本心とは別に前向きに考えようと努力した。
努力はするけど、男の子と恋する学園生活が遠のく事は確実で…書類を記入する手が遅くなる。
今では、当初予定していた同性好きな男性を狙う事も難しいと理解している。だって、あんなに仲のいいクラウさんを『女の子』だと言うだけで恋愛対象として見れないのだから。
私がそうなのと一緒で、恋愛対象の性別はそうそう変わらない。
書類提出直前まで悩んだ末、二年生でも武術を継続する書類を提出した。男装のまま二年生としての生活を続けることになる。
でも、クラウさんにはいつか言わなければ。
彼女なら、きっと悪くは言わない気がするから。
◇ ◇ ◇
明日も、9時頃・21時頃に投稿します。よろしくお願いします。




