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【全年齢版】可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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ヘトヘトの文化祭



 完全に諦めかけていた文化祭。


 それでも、さっきのやり取りで不思議と笑えてきた。まだ目が赤いかもしれないけれど、もう大丈夫って伝えたくてクラウさんに笑って見せる。


「ありがとう、元気でた。でも文化祭そろそろ終わっちゃうね。」


 少し寂しいけれど、文化祭を楽しむ余裕が私には残ってない気がした。クラウさんは私のそんな顔を見て、励ますように笑ってくれる。


「まだ間に合うし! しっかり休憩したら、やりたいこといっぱいやろう?希望を言ってくれたらボクがイチオシを案内するからさ。」


 そう言って懐から何かを取り出したクラウさん。それは変な形の眼鏡で、それを私にかけてきた。


「なにこれ?」

「さっきゲームして当てた残念賞の変な眼鏡。まさか役に立つ日が来るとはね!」


 誇らしげに言うクラウさんだけど、目元を赤くしたまま過ごすのと、変な眼鏡をかけて歩くのどっちが恥ずかしいだろう?どっちも恥ずかしい。でも、今は文化祭。文化祭らしい恥ずかしさを選ぶことにした。眼鏡をかけたまま、疲れた足で立ち上がる。


「お言葉に甘えて…もいいかな?お腹空いちゃって、何か美味しいもの売ってるところ教えて欲しい。」

「よっし、まかせて!!案内するよっ。」


 この日。


 残り少ない時間だったというのに、クラウさんのガイドで文化祭の良い所だけを満喫することに成功した。


 イチオシドリンクはさっき飲んで、イチオシ食べ物は鉄板で焼いた黒いソースたっぷりの料理。とても美味しかった。景品が豪華なチャレンジ系の催しも、変な眼鏡かけたままやってみた。


 とっても楽しかった!楽しくて、楽しくて。


 学園祭を知り尽くした彼女が、私以上に隣ではしゃいでくれるから私も思いっきりはしゃぐ事が出来て…本当に嬉しかった。



 そんな文化祭の夜。



 中庭では、学生たちが魔法で作った星形の照明が浮かぶ。生徒や先生達が音楽を奏で、ダンスパーティーで締めくくられるのがこの文化祭。


 本物の星空の下、中庭にたくさんの星が落ちてきたみたいに幻想的で、自分の作った星に願いを書いた。


「恋をして、その人と幸せに過ごせますように。」


 私が今、一番叶えることが難しく欲張りな願いを書いた。書いた文字は、星の中に溶けて消えていく。それを見るだけでもどこか切ない、文化祭の終わりを感じた。


「願い事書いたのー?」

「うん。クラウさんは?」

「ボクも書いた。」


 クラウさんは、多くのクラスメイトからダンスに誘われて人気者だった。私は彼女から十分な時間を貰ったから、笑顔で送り出す事が出来て、さっきまでゆっくり休んでいた。


 星形の照明が中庭を柔らかく照らし、遠くから響く音楽がダンスパーティーの華やかさを運んでくる。みんなが笑顔で踊る姿は、まるで別世界のように眩しかった。


「リーシュ君、ほんっとに疲れてるね。」


 彼女は私の隣に再び腰を下ろした。ハート型の風船が夜風に揺れている。


「うん…クラウさんのお陰でとても楽しめたけど、今日は限界かな。」


 私は小さく呟き、自分の星形の照明を握りしめた。クラウさんは、そんな私の様子をじっと見つめ、ふっと息を吐くと急に立ち上がる。彼女の動きに驚いて顔を上げると、私の手をぐいっと掴み、立たされる。


「ダンスの気分じゃないなら、ボクがリーシュ君を元気にしてあげる!」


 思わず彼女の手を握り返すと彼女の温もりが、冷え切った指先にじんわりと広がる。


「クラウさんが??」

「文化祭の夜は、ただ踊るだけじゃないよ。ついてきて。」


 彼女に引っ張られるまま、私は中庭を抜け、校舎の裏手のさらに奥へ進んだ。さっきも感じたのだけど、彼女が傍にいると不思議と元気が出る。ヘトヘトで動けなかった私の足は、そんな疲れを忘れて彼女の背中を追った。そうしていると、普段は誰も近づかない古い温室の前で立ち止まる。ガラス張りの温室は、月明かりに照らされてほのかに輝き、内部には色とりどりの花々が影のように揺れている。クラウさんは鍵のかかっていない扉をそっと開け、私を中に招き入れた。


「こんな所あったんだ。」


 驚きながら中を見回した。温室の中は、昼間の喧騒とは別世界のように静かで、甘い花の香りが漂っている。月光がガラス越しに差し込み、色とりどりの花弁に反射して夢の中にいるみたい。本当に妖精とか出てきそうな雰囲気だ。


 クラウさんは私の手を離し、くるりと振り返って微笑んだ。


「ここ、文化祭の準備で少し使ってたんだけど…今しか開いてないんだってさ。それならここも、文化祭ならではの特別な場所だよね。」


 彼女はそう言うと、温室の中央にある小さな木製の椅子に腰掛け、足を軽く揺らした。自然と引き寄せられるように近付くと、彼女の指先が私のシャツの襟に軽く触れる。その綺麗に彩られた指先は私のネクタイを緩め、そっとほどいていく。


 ネクタイを完全に外し終えると私の頬にそっと手を置いた。されるがまま、その温もりに目を閉じる。頬に触れたままの指先は温かい。


 次の瞬間、柔らかい感覚が私の額にそっと触れる。温かく、優しい感触。目を開けると、少し照れたようなクラウさんがいた。


「頑張ったね、お疲れ様!」


「今の…」


「どう?元気出るっしょ?」


 私は少し驚いて彼女を見ると、彼女は胸を張り微笑んだ。


「母上がね、ボクが頑張った時に、いつもこうして『よく頑張ったね』って褒めてくれたの。元気が出るおまじない。家族以外にやるのは初めてだけど、元気でた?」


「…元気…出たかも。」


 私はようやく言葉を絞り出した。


「 それで、ダンス戻る? それとも…もうちょっとここにいる?」


 彼女の気遣いに、少しだけ笑顔を取り戻す。疲れ切った心の奥で、友人と過す青春のキラキラが確かにあった。この夜が、クラウさんと過ごす特別な時間になる予感がする。


「もう少しここにいても良い?」

「もちろん!」


 遠くに聞こえる賑やかさとは裏腹に、ここには二人の静かな時間が流れた。温室の夜に浮かぶ幻想的な光景を眺めながら、どうでもいい話をして笑って。


 私の初めての文化祭は、友人と過ごす最高の文化祭となった。





 ◇ ◇ ◇

本日21時頃にもう1話投稿予定です。

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