青春のクッキー。
目の前に繰り広げられたやり取りは、眩しく輝く青春の一幕。
私は間近で、他人のキラキラとした青春を目の当たりにした。心に花畑が広がり、甘酸っぱい風が通り抜けた気分。男子生徒は、彼女のクッキーをひとつ取ると口に運ぶ…そしてフワッと微笑んだ。なかなかに爽やかに微笑む男子生徒だ。こういう所に彼女は触れたのだろう…と、無駄に考察する。
「美味しいよ。ありがとう。」
「い、いえ!」
頬を染め、見つめ合う二人。
わぁーーーーーーーーー!!
青春だぁーーーーーーーーーーー!!
その場にいた皆が、温かく二人を見守った。するとどうだろう?続々と女子生徒がラッピングを始めるではないか!?きっと想い人がいるのだろう。
羨ましい。
皆チャンスを掴むために行動している。カッコいいよ!しかし、私はどうしよう。男装するせいで、私はこの絶好の青春チャンスを逃してしまうのか…。
それは…あまりにも勿体ない!!
クッキーを作る機会なんて早々ないのだから。何か…何か私にも出来る青春は無いの!?…そう考えて周囲を確認する。すると一つの男子生徒が集まってできたグループが目に入った。
「わー!お前の旨いな、俺の少し固い。」
「僕も食べてみたい。そっちのも食べていい?…うん、美味しい。暫定一位だ」
「ヨッシャ!」
「俺も混ぜて」
男同士で誰のが一番美味しいクッキーを作れたか選手権をしていた。これはこれで楽しそう。
…
…待てよ?
ここに混じれば『私の焼いたクッキーを男の子に食べて貰った青春』を味わえるのではないだろうか。そうだ、これだ!と思い立った私は、自分のクッキーを一口食べてみて美味しくできている事を確認する。
うん、悪くない。
口に広がる甘さとサクサクした食感、バターの香り。お店のには負けるけど、まぁ美味しい。モグモグと食べて、手に持ったクッキーを口に放り込んだ瞬間、なんとなく「クラウさんも食べるって言うかな?」と考える。いつも髪の結いかたを教えてくれて、お世話になっているし。
私は一番綺麗にできたものから順に選び、数個取って小さな袋に詰めていった。袋にリボンを飾れば、見た目は売り物のように見えなくもない。
結構可愛いかも。
小さな袋にリボンを結ぶ時、クラウさんが楽しそうに髪を結う姿が浮かんだ。そうして完成したクッキーを手に、クラウさんの姿を探して周囲を見渡すと…。
「わー!君のも美味しそうー!ね、ね、一個ちょーだい。」
「いいですよ。」
「私のも食べてみる?」
「食べるー!」
他のクラスだというのに、いろんな子からクッキーを貰い摘まみ食いをしていた。そんな姿につい頬が緩みながらも「私のはいらなかったかもしれないな…」と、可愛く仕上がったクッキーは上着のポケットにしまった。
気を取り直して残りのクッキーを皿に移して持つと、私は男子グループの輪にクッキーを持って訪れる。決戦の時!
「私も皆の食べてみたいな。今は誰のが一番人気?」
「おお!リーシュも参戦?いいよ!今はコイツのが暫定一位だ!」
「ひとつ食べても良い?」
「いいよ、結構上手くできたんだ。」
そうして差し出されたクラスメイトの作ったクッキー。手に取ると、私は気がついてしまった。「男の子の手作りクッキーを食べるのも青春なのではないか。」少し、ドキドキとしてきた。しかも食べ放題。
私はひとつひとつのクッキーを大切に、噛み締めてモグモグ食べ始める。
「美味しい…」
「いいないいなー♪ボクも混ぜてー」
青春の風を感じながら食べているとクラウさんが輪に飛び込んできた。
「いいけど、クラウはいっぱい女子の食べただろー。その行動力羨ましすぎるぞ。」
「行動した者が勝ち取れる特権だしー♪」
心底羨ましそうに言う男子生徒に、クラウさんは「ひひっ」と笑いながら答えていた。女の子達のクッキーの摘まみ食いを終えて、男の子のを狙いに来たらしいクラウさん。こちらのグループの皿からもクッキーをつまむ。 すると、一人の男子生徒がポツリと呟いた。
「…俺もさっきみたいに女の子からクッキー貰いたい人生だったぜ。」
「待ってないで自分から好きな子にあげに行けばいーじゃん。」
「そんな相手いない。」
「いないんかよー。」
クラウさんが、笑いながらこちらのグループにも溶け込んでいた。クッキー貰う機会なんて、こういう機会でも無ければ難しい。相手がいないのなら尚更無茶な話だ。そう思いながらモグモグと会話の流れを見ていた。
クラウさんは笑いながら会話をどんどん盛り上げていて尊敬する。するとその生徒がこちらを見て閃いたように言い出した。
「なぁ、リーシュ。ちょっと髪下ろしてさ、俺にクッキーくれないか!?女の子っぽく!」
なんで、クラウさんじゃなくて私?しかも、女の私が男装のまま女の子っぽくクッキーを渡すなんて。難しい要求に悩みながらどうすべきか必死で考えた。彼にはクッキー貰った恩がある。やるしかない。私は髪を束ねていたシンプルなリボンをスルリとほどき、さらりと肩に落ちる髪を整えた。手に持ったクッキーを、そっと差し出す。
「はい、クッキー食べてください。」
「義理感すげぇ。でもありがとう…」
私が渡したクッキーを手に、悲しそうに見つめる。それをクラウさんがお腹を抱えて笑っていた。
「よし、ボクがやったげるよ♪」
「お!クラウ頼む!」
クラウさんはふぅと息を吐き、瞳をうるっとさせて言う。
「クッキー、君のために作ったんだ。食べてくれる?」
「くぅ、それ俺が作ったクッキーだ。明らかに俺の為に作ってないのがバレバレ過ぎて複雑な気分だ!でも、ありがとう!」
こうして、みんなで可愛くクッキーを渡す選手権をしながらクッキーを楽しんだ。その楽しげな空気に、なんと女の子達も集まってきた。
「私達もいいですか?」
「わ、私も…」
男子生徒の瞳が、さっきまで無かった輝きを宿したのは言うまでもない。教室が笑いに包まれる中、クラウさんがふと私の方を見た。
「リーシュ君のクッキーはもう無いの?食べたかったなー」
私のクッキーは、後から来た女の子と交換してなくなってしまった。クラウさんの胃袋は強いな…と思いながら、忘れかけていたクッキーをポケットから取り出す。渡すのは少し恥ずかしい。だけど欲しいと言ってくれるなら渡したい。
「実は…クラウさんにもクッキー用意してて、いらないかな、とも思ったんだけど…食べてくれる?」
ソワソワしながら可愛いリボンで結ばれたクッキーの袋を、そっと差し出した。
「へ?ボクに?この可愛くラッピングしたやつを??」
「…うん。」
そう小さく言うと、みるみる目を輝かせるクラウさん。
「やっばい、…可愛いんだけど!」
クラウさんが突然、私をぎゅうっと抱き締める。ぎゅむぎゅむと何回か締め付けられた。そんな様子を見たさっきの男子生徒が「なんでさっきソレを俺にやってくれなかったんだ!?」と騒ぎ笑っていた。
クラスメイトとのクッキー交換は、これはこれでとても楽しい青春になった。
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