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目黒の秋刀魚  作者: 双鶴


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第1章 「黙殺」 第36話 矢面

 田川圭介の死亡から一夜。

 強行犯係のフロアは、朝から重い空気に包まれていた。


 テレビではワイドショーが騒ぎ立てている。


『警察の追い詰めすぎでは?』

『強引な捜査が自殺を招いた可能性も──』

『責任の所在は?』


 秋刀魚トリオは黙ってその音声を聞いていた。


「……俺ら、間違ったか?」

 刀根が呟く。


「間違ってません」

 魚沼は即答したが、声は硬かった。


 秋月は何も言わず、拳を握っていた。


 


 そこへ、片桐係長が戻ってきた。

 疲れた顔だが、目は鋭い。


「お前ら、今日は外に出るな。

 署の前に記者が群がってる。

 今出たら、好き勝手に書かれるだけだ」


「……はい」

 秋月は短く答えた。


 片桐は続ける。


「お前らは黙ってろ。

 言葉を切り取られたら終わりだ。

 前に立つのは俺と宮本班長だ」


 刀根が小さく頭を下げた。


 


 昼前、記者会見が開かれた。

 会場はすでに殺気立った空気に満ちている。


 壇上に立ったのは──宮本班長だった。


 背筋を伸ばし、冷静な目で記者たちを見渡す。

 その姿は、矢面に立つ者の風格そのものだった。


「田川圭介の死亡について、警察としての見解を述べます」


 記者が一斉に手を挙げる。


「追い詰めすぎたのでは?」

「強行犯係の若手が暴走したとの情報も──」

「責任はどこに?」


 宮本班長は、一切動じなかった。


「まず、強行犯係の捜査員たちは適切に行動しました。

 彼らの判断に問題はありません。

 責任を問うなら──私に問ってください」


 会場がざわつく。


「現場の判断は、私が許可したものです。

 彼らは正しく動きました。

 以上です」


 それ以上、班長は何も言わなかった。

 しかし、その短い言葉だけで空気は一変した。


 


 署内で会見を見ていた秋刀魚トリオは、言葉を失っていた。


「……班長、すげぇ……」

 刀根が呟く。


「……守ってくれてるんですね」

 魚沼の声は震えていた。


 秋月は画面を見つめたまま、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 


 会見後、宮本班長が静かに署へ戻ってきた。

 秋刀魚トリオの前に立つ。


「あなたたちは、間違っていないわ。

 胸を張りなさい」


 その言葉は、慰めでも叱咤でもなく──

 ただの事実だった。


「……ありがとうございます」

 秋月が深く頭を下げた。


「片桐係長も、あなたたちを守るために動いている。

 だから、余計な罪悪感は捨てなさい」


 片桐が横で小さく頷いた。


「お前らの判断は正しかった。

 田川が勝手に死んだだけだ。

 責任なんか、お前らにあるか」


 刀根が涙をこらえるように顔を上げた。


 


 その時、留置管理係が駆け込んできた。


「宮本班長! 片桐係長!

 田川の部下が……“全部話したい”と言っています!」


 秋月の目が鋭く光った。


 沈黙が破られる。

 真相が、動き始める。


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