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目黒の秋刀魚  作者: 双鶴


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第1章 「黙殺」 第33話 直樹、消える

 秋刀魚トリオは、宮本班から受け取ったタブレットを抱えたまま、全力で駆けていた。

 画面には、直樹のスマホの現在地が点滅している。

 だが、その点は一定ではなく、細かく揺れながら移動していた。


「秋月さん……これ、歩いてる速度じゃないです」

 魚沼の声が震える。


「車だな」

 秋月が低く言う。


「直樹さん、連れ去られた……?」

 刀根が拳を握る。


「まだ断定はできない。でも──急ぐぞ」


 


 タブレットの示す位置は、目黒区の住宅街を抜け、環七方向へ向かっていた。

 秋刀魚トリオはタクシーを捕まえ、乗り込むなり叫んだ。


「環七! 全力でお願いします!!」


 運転手が驚きながらもアクセルを踏む。


 


 その頃、宮本班の車も後方から追っていた。

 杉下がタブレットの複製画面を見ながら言う。


「班長、直樹さんの位置、環七に向かってます!」


「速度は?」

 宮本班長の声は冷静だった。


「時速40前後……一般道を走ってます」


「なら、まだ間に合う。金崎、最短ルートで追うわよ」


「了解!」


 


 タクシーの中。

 秋月はタブレットを凝視していた。


「……止まった」


「え?」

 刀根が身を乗り出す。


「位置が動かない。ここ……」

 秋月が地図を拡大する。

 そこは、古い倉庫が並ぶ一角だった。


「倉庫街……」

 魚沼が呟く。


「田川の“仕事場”かもしれない」

 秋月の声が低くなる。


「行くぞ!!」

 刀根が叫ぶ。


 


 タクシーを降りると、そこは街灯の少ない薄暗いエリアだった。

 倉庫が並び、夜風が鉄の匂いを運んでくる。


「直樹さんの位置、この倉庫の中です」

 魚沼が指差す。


「よし、突入──」


「待ちなさい」


 背後から鋭い声が飛んだ。

 宮本班長だ。

 杉下と金崎も駆け寄ってくる。


「秋月、あなたたちだけで突っ込むには危険すぎる」


「班長……直樹さんが中にいるんです。

 待っていたら──」


「分かってるわ」

 宮本班長は短く言った。

 その目は鋭く、しかし冷静だった。


「だから、私たちも一緒に行く。

 あなたたちを一人で行かせる気はない」


 秋月は一瞬だけ息を呑んだ。

 そして、深く頷いた。


「……お願いします」


 


 倉庫の前に立つと、内部から微かな物音が聞こえた。

 秋月が手で合図を送る。


 刀根が右側へ。

 魚沼が左側へ。

 宮本班は後方で包囲を固める。


 秋月がドアに手をかけ──

 一気に開け放った。


 


 倉庫の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。

 奥に、誰かが倒れている。


「直樹さん!!」

 刀根が叫び、駆け寄る。


 だが──


「違う……!」

 魚沼が声を上げた。


 倒れていたのは直樹ではなく、

 見知らぬ男だった。


 その胸元には、紙が一枚貼られている。


 秋月が震える手でそれを剥がす。


 そこには、短い文字が書かれていた。


『追いつけるか? 秋月』


 秋月の拳が震えた。


「田川……!」


 その瞬間、魚沼のタブレットが再び点滅した。


「秋月さん! 直樹さんの位置が──動きました!!

 別の場所に移動してます!!」


「くそっ……!」


 秋刀魚トリオは、再び走り出した。


 田川は、完全に“遊んでいる”。

 秋月を挑発し、翻弄し、追わせている。


 だが──

 秋刀魚は止まらない。


 直樹を救うまで、絶対に。


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