第1章 「黙殺」 第32話 秋刀魚、追跡と突破
目黒区の路地を抜けた秋刀魚トリオは、確保した男を宮本班に引き渡すと同時に、すぐ次の動きに移っていた。田川の車がここにある以上、近くに“何か”がある。秋月の目は、完全に獲物を追う獣のように鋭くなっていた。
「秋月さん、さっきの男のスマホ……まだ電源入ってます」
魚沼が画面を見せる。通話履歴は非通知のみ。だが、位置情報アプリが裏で動いていた。
「田川の位置、追えるか?」
「……追えます。完全じゃないですけど、近くに“仲間”がいる可能性が高いです」
刀根が拳を握った。
「よし! じゃあ行くぞ秋月さん! 田川の仲間、まとめて捕まえてやる!」
「刀根、声がでかい」
秋月が言うが、止める気はない。
むしろ、その勢いが今は必要だった。
魚沼の解析で、田川の仲間が向かった方向が割り出された。
駐車場から少し離れた古い雑居ビル。
昼間でも薄暗く、人通りが少ない。
「ここ……怪しいですね」
魚沼が呟く。
「怪しいなら行くしかねぇだろ!」
刀根はもう階段を駆け上がっていた。
「刀根さん、待って! 単独は危険です!」
魚沼が追いかける。
「……行くぞ」
秋月も走り出す。
三階の廊下に差し掛かった瞬間、奥の部屋から人影が飛び出した。
「いた!」
刀根が叫ぶ。
男はフードを深くかぶり、顔を隠したまま逃げる。
秋刀魚トリオは一斉に追った。
狭い廊下を駆け抜け、階段を一気に降りる。
男は非常口から外へ飛び出した。
「逃がすかぁぁぁ!!」
刀根が叫びながら追う。
「刀根さん、足音でバレます!」
「バレていいんだよ! 追ってんだから!」
魚沼が頭を抱えた。
雑居ビルの裏手は、細い路地が入り組んだ迷路のような場所だった。
男はその中を巧みに走り抜ける。
「秋月さん、右です!」
魚沼が叫ぶ。
秋月は即座に右へ曲がり、男の進路を塞ぐように走る。
刀根は真正面から追い詰める。
「止まれ!!」
男は焦って足を滑らせ、ゴミ袋の山に突っ込んだ。
「よしっ!」
刀根が飛びつき、男を押さえ込む。
「離せ! 俺は何も──」
「田川の仲間だろ!」
「違う! 俺はただ……荷物を運んだだけだ!」
「荷物?」
秋月の目が鋭くなる。
「黒いケースだ! 中身は知らねぇ! でも“ここに置け”って言われたんだよ!」
「ケースはどこだ!」
「ビルの三階! さっきの部屋だ!」
その時、路地の入口に車が滑り込んだ。
宮本班の車だ。
杉下が降りてくる。
「秋月さん! 状況は!?」
「田川の仲間を確保。三階に“黒いケース”があるらしい」
宮本班長が車から降り、短く指示を出す。
「杉下、金崎。三階を確認。秋刀魚は下で待機。危険物の可能性がある」
「了解!」
二人が走っていく。
秋月は息を整えながら、宮本班長に問う。
「班長……田川は、何を仕掛けてるんでしょうか」
「分からない。でも──」
宮本班長は秋月をまっすぐ見た。
「あなたたちが動いた時は、必ず“何か”がある。だから追うのよ」
秋月は短く頷いた。
数分後、杉下が戻ってきた。
「班長! ケース、ありました! 中身は……」
「何だ?」
秋月が身を乗り出す。
「直樹さんの“位置情報”が記録されたタブレットです。
しかも──“現在地”が更新されています」
秋刀魚トリオの表情が一気に変わった。
「直樹さんが……動いてる?」
魚沼が呟く。
「田川が言ってた“動いている”って……」
刀根が拳を握る。
「行くぞ」
秋月が言った。
「行く!!」
「……行きます」
秋刀魚トリオは、再び走り出した。
直樹が危ない。
田川が仕掛けている。
ここからは、もう迷っている暇はない。
秋刀魚の突撃は、さらに加速していく。




