第1章 「黙殺」 第31話 秋刀魚、暴走開始
強行犯係の朝は、重い沈黙に包まれていた。
秋月は机に向かっていたが、落ち着きはまったく無かった。
昨夜の“非通知の声”が、まだ胸の奥で燻っている。
その静けさを破るように、勢いよく扉が開いた。
「係長、秋月さん! 緊急です!」
杉下が駆け込んでくる。
その後ろには宮本班長、そして金崎。
「田川圭介の車、見つかりました!」
三上係長が即座に立ち上がる。
「場所は?」
「目黒区の月極駐車場です。
昨夜から“見慣れない黒いセダンが停まっている”と通報がありました。
ナンバー、田川のものと一致しました」
その瞬間、秋月の椅子が大きく鳴った。
「行く」
短く、迷いのない声だった。
「行く!!」
刀根はもう走る姿勢になっている。
「……行きます」
魚沼も立ち上がる。
「おい待て! まだ状況整理が──」
三上が叫ぶが、秋刀魚トリオはすでに走り出していた。
三上が頭を抱えたその横で、宮本班長が静かに言った。
「……動いたわね、秋刀魚。
杉下、金崎。追うわよ。後方は私たちが固める」
「了解です、班長!」
三人はすぐに動き出した。
秋刀魚トリオは、月極駐車場に飛び込んだ。
「秋月さん! あれ!」
刀根が指差す。
黒いセダンが停まっている。
ナンバーは田川圭介のもの。
「……間違いない」
秋月の声が低くなる。
「周囲にカメラ多数。魚沼さん、解析できます?」
刀根が振り返る。
「できますけど……ここでやるんですか?」
魚沼が眉をひそめる。
「やるんだよ! 今すぐ!」
刀根が勢いで押す。
「……分かりました」
魚沼がノートPCを開いた、その時。
「秋月さん、誰か来ます!」
刀根が叫ぶ。
駐車場の奥から、黒いフードの男が走り出てきた。
「田川の部下か!?」
秋月が身構える。
男は秋刀魚を見ると、踵を返して逃げ出した。
「逃がすかぁぁぁ!!」
刀根が全力で追う。
「刀根さん、待って! 危ない!」
魚沼が叫ぶ。
「追うぞ!」
秋月も走り出す。
細い路地に飛び込んだ瞬間、刀根が男にタックルを決めた。
「止まれぇぇぇ!!」
「うわっ!? な、なんだよお前ら!」
男が叫ぶ。
「田川圭介はどこだ!」
秋月が迫る。
「し、知らねぇよ! 俺はただ──」
その時、男のポケットでスマホが震えた。
画面には “非通知”。
秋月の背筋が凍る。
「出ろ」
秋月が低く言う。
男は震えながら通話ボタンを押した。
『……しくじったな』
低い声。
田川圭介だ。
「田川……!」
秋月が歯を食いしばる。
『秋月。
お前が来るのは分かっていた。
だが──まだ早い』
「何が“早い”んだ!」
『直樹は……もう“動いている”』
「直樹さんに何をした!?」
『会えば分かる。
お前らの“次の動き”もな』
通話が切れた。
そこへ、宮本班の車が滑り込んできた。
杉下が降りてくる。
「秋月さん! 状況は!?」
「田川の部下を確保。
だが──直樹さんが危ない」
宮本班長が険しい顔になる。
「三上係長は?」
秋月が問う。
「すぐ来るわ。
……秋月、行くのね?」
「行きます。
田川の狙いは直樹さんだ。
ここで止まれません」
宮本班長は短く頷いた。
「分かった。
杉下、金崎。後方支援に回るわよ。
秋刀魚は前へ」
「了解!!」
刀根が叫ぶ。
秋刀魚トリオは、再び走り出した。
もう後戻りはできない。
ここからは、攻めるだけだ。
秋刀魚の反撃が、本格的に始まった。




