第1章 「黙殺」 第26話 沈む夕陽、浮かぶ動機
夕方の光が差し込む捜査本部。
秋月はホワイトボードの前で腕を組んでいた。
佐久間のPCから見つかった“消された声”──あれが頭から離れない。
「……50代の男。苗字の頭文字は“田”。
宮田工業の外側……」
呟きながら、秋月は資料をめくる。
裏金の流れ、倒産直前の資金移動、宮田の行動記録。
どれも断片的で、まだ一本の線にならない。
そこへ、宮本班長が入ってきた。
「秋月、裏金の件で新しい情報が入ったわ」
「裏金……動きがあったんですか?」
「ええ。宮田工業の“裏金ルート”を追っていたら、
倒産の半年前から“特定の団体”に金が流れていたことが分かった」
「団体……?」
「名前は伏せるけど、政治色の強い団体よ。
ただし、表向きは“企業支援”を掲げている」
秋月の表情が引き締まる。
「宮田さんは……その団体の裏金を止めようとしていた?」
「可能性は高いわね。
宮田は裏金の存在を知り、内部告発を考えていた。
でも──その前に“誰か”に止められた」
「黒幕……」
「そう。
宮田を黙らせ、黒瀬を使い、佐久間を利用し、
今は証人潰しを始めている人物」
そこへ、捜査本部の扉が開いた。
直樹だった。
昨日よりもやつれ、目の下には深い影が落ちている。
「……秋月さん。
兄貴のこと……話したい」
秋月は静かに頷いた。
「会議室に行きましょう」
会議室に移動すると、直樹は椅子に座り、深く息を吐いた。
「兄貴は……倒産の少し前から、誰かに会ってた。
“会社を救うために話をする”って言ってたけど……
俺には、何か隠してるように見えた」
「その“誰か”は……?」
「分からない。
兄貴は絶対に名前を言わなかった。
でも……一度だけ、こんなことを言った」
直樹は拳を握りしめた。
「“あいつは……会社の外にいる。
でも、俺たちより会社のことを知ってる”って」
「外にいるのに……内部より詳しい?」
秋月が眉をひそめる。
「兄貴は……その人に逆らえなかった。
黒瀬も、佐久間も……みんな同じだ。
あいつは……俺たちを“使ってた”んだよ……!」
直樹の声は震えていた。
「直樹さん。
あなたは黒幕の正体を知っているんですね?」
直樹は目を伏せた。
「……知ってる。
でも……言えない。
言ったら……俺も……」
その瞬間、直樹のスマホが震えた。
画面には──
“非通知”
直樹の顔が青ざめる。
「……まただ……
昨日から……ずっと……」
「直樹さん、出ないでください」
秋月が制止する。
直樹は震える手でスマホを握りしめた。
「秋月さん……
あいつは……俺を見てる……
ずっと……どこかで……」
会議室の空気が凍りついた。
宮本班長が静かに言う。
「秋月。
黒幕は“直樹を監視できる位置”にいる。
つまり──この事件は、まだ終わっていない」
秋月は深く頷いた。
「直樹さん。
あなたを守りながら、黒幕を追います。
必ず……兄貴の真実に辿り着きます」
直樹は唇を噛み、かすかに頷いた。
夕陽が沈む捜査本部。
その赤い光の中で、
黒幕の“動機”が、ようやく輪郭を帯び始めていた。




