第1章 「黙殺」 第24話 黒瀬の崩れた言葉
佐久間が“黒い車”に連れ去られてから一夜。
目黒署の空気は、昨日よりさらに重く沈んでいた。
だが強行犯係の部屋だけは、いつも通りの騒がしさを保っている。
「刀根さん、そのラーメン……朝じゃないのに匂い強いです」
「昼ラーメンも文化だろ」
「文化でも限度があります」
「お前、最近ツッコミが鋭利すぎないか?」
「昨日も言ってましたよ」
「……デジャヴか?」
そんな空気の中、宮本班長が会議室から顔を出した。
「秋月、刀根、魚沼。黒瀬の供述に“重大な矛盾”が出たわ。来て」
会議室に入ると、ホワイトボードには黒瀬の供述が整理されていた。
・佐久間は関係ない
・直樹が押した
・自分は駒にすぎない
・黒幕の名前は言えない
・宮田を恨んでいた人物がいる
宮本班長がペンを置き、静かに言う。
「黒瀬は“佐久間は関係ない”と言っていた。
でも佐久間は黒幕に連れ去られた。
この時点で、黒瀬の供述は破綻している」
「黒瀬さん……嘘ついてたんですか?」秋月が呟く。
「嘘というより、“隠していた”のよ。
黒瀬は佐久間が黒幕と接触していたことを知っていた。
でも言えなかった。
言ったら自分も消されるから」
「黒瀬さん……そんなに追い詰められてたんですね」
魚沼が静かに言う。
その時、取り調べ室から声が響いた。
「やめろ!! 俺は知らない!!」
黒瀬の叫びだ。
秋刀魚と宮本班は急いで取り調べ室へ向かった。
黒瀬は机に突っ伏し、肩を震わせていた。
刀根が声をかける。
「黒瀬……何をそんなに怯えてるんだよ」
「……あいつが……動いたんだ……」
「あいつ?」秋月が身を乗り出す。
「佐久間が連れていかれた……
あいつが……“証人潰し”を始めたんだ……!」
黒瀬の声は震え、目は恐怖で濁っていた。
「黒瀬さん、“あいつ”って誰ですか?」
秋月が優しく促す。
「言えない……言ったら……俺も……!」
「黒瀬、佐久間はまだ生きてる。
お前が知ってることを言えば、助けられるかもしれない」
片桐係長が低く言う。
「……無理だ……
あいつは……宮田を恨んでた……
宮田を潰すためなら……何でもする……
俺も……佐久間も……直樹も……
全員……“使われた”だけなんだ……!」
「使われた……?」秋月が息を呑む。
「裏金の流れも……動画も……
全部……“あいつ”が仕組んだ……
俺たちは……ただの駒だ……!」
取り調べ室が静まり返る。
宮本班長が静かに言う。
「黒瀬。
あなたは“宮田を恨んでいた人物”を知っているのね?」
「……知ってる……
でも……言えない……
言ったら……俺は……!」
黒瀬は口を閉ざした。
会議室に戻ると、宮本班長がホワイトボードに新しい線を引いた。
「黒瀬の供述は崩れた。
でも、重要な情報が出たわ」
・黒幕は宮田を恨んでいた
・黒幕は裏金を動かせる立場
・黒幕は動画チャンネルの台本を作った
・黒幕は証人潰しを始めた
・黒幕は“田”のつく苗字の可能性が高い
「黒幕は“宮田工業の外側”の人間よ。
内部だけでは動かせない金額、動かせない情報、動かせない人間がいる」
「外側……」秋月が呟く。
「政治か、企業か……」刀根が腕を組む。
「どちらにせよ、佐久間は“黒幕の正体を知っている”」
魚沼が静かに言う。
「だから連れ去られた……」
片桐係長が低く言う。
秋月は深く息を吸った。
「佐久間さんを見つければ……黒幕に辿り着ける」
「秋刀魚、動くわよ」
宮本班長が言う。
「了解です!」
「了解っす!」
「了解しました!」
黒瀬の崩れた言葉は、
黒幕の影をより濃く、より近く感じさせていた。




