第1章 「黙殺」 第22話 運営者の影
午後の光が傾きはじめた頃、魚沼のパソコンから小さな電子音が鳴った。
強行犯係の部屋にいた全員が、その音に反応した。
「魚沼さん、何か出ました?」
「はい。“動画チャンネルの運営者”の手がかりです」
刀根が椅子ごと滑って近づく。
「おおっ、ついに来たか!」
「近いです。椅子ごと来ないでください」
「お前、今日ツッコミ辛辣すぎないか?」
そんなやり取りをしていると、片桐係長がコーヒーを片手に戻ってきた。
「お前ら、騒ぐ前に説明しろ」
魚沼が画面を指し示す。
「動画チャンネルの投稿者情報、表向きは“海外サーバー経由”で匿名化されています。
でも、編集データの中に“日本語環境の設定”が残っていました」
「つまり……日本人ってことか?」刀根が言う。
「はい。そして──この編集ソフトの“ライセンスID”が残っていました」
「ライセンスID?」秋月が身を乗り出す。
「個人登録です。つまり、持ち主が特定できる可能性があります」
片桐係長が低く唸った。
「で、誰だ?」
魚沼がキーボードを叩き、画面に名前が浮かび上がる。
“宮田工業 元広報部 佐久間亮介”
「佐久間……?」
秋月が目を細める。
「佐久間さんって、黒瀬さんと一緒にいた……あの?」刀根が驚く。
「はい。宮田工業の広報担当。
動画編集の経験があり、社内の情報にも詳しい人物です」
「じゃあ……動画チャンネルの編集は佐久間がやってたってことか?」刀根が言う。
「編集は、です」魚沼が強調する。
「脚本は別の人物。
佐久間さんは“指示された通りに編集しただけ”の可能性が高いです」
そこへ、宮本班長が会議室から出てきた。
「秋刀魚、来て。佐久間の件で話がある」
会議室に入ると、宮本班の杉下が資料を広げていた。
「佐久間亮介。宮田工業倒産後、フリーの動画編集者として活動。
ただし収入は不安定。
なのに──最近、急に“高額の入金”があった」
「裏金……?」秋月が呟く。
「可能性は高いわね」宮本班長が言う。
「佐久間は黒瀬と繋がっていた。
黒瀬は“誰か”に逆らえなかった。
そして佐久間もまた、その“誰か”から金を受け取っていた」
「じゃあ……佐久間さんも黒幕の駒?」刀根が言う。
「駒というより……“使われた側”ね」宮本班長が答える。
秋月がホワイトボードに書かれた名前を見つめる。
「佐久間さんは、宮田さんを悪者にする動画を編集した。
でも、台本を書いたのは別の人物。
黒瀬さんも佐久間さんも、その人物を恐れている……」
「そして直樹さんもだ」魚沼が静かに言う。
「全員が怯える“黒幕”……」
秋月が呟く。
その時、金崎が慌てて会議室に飛び込んできた。
「班長! 佐久間が……いなくなりました!」
「いなくなった?」宮本班長が眉をひそめる。
「はい! 自宅にもいない、携帯も電源オフ!
近所の人の話だと──“黒い車に乗って出ていった”と」
「黒い車……」秋月が息を呑む。
「またかよ!!」刀根が叫ぶ。
「黒瀬の時も黒い車だったろ!」
「黒幕の車かもしれませんね」魚沼が淡々と言う。
「淡々と怖いこと言うなよ!!」
宮本班長が立ち上がった。
「佐久間は“黒幕”に連れ去られた可能性がある。
秋刀魚、すぐに動くわよ」
「了解です!」
「了解っす!」
「了解しました」
秋月は深く息を吸った。
「佐久間さん……あなたも巻き込まれたんですね。
必ず見つけます」
事件は、ついに“黒幕の手”が動き始めた段階へと突入した。




