第1章 「黙殺」 第21話 偽りの映像、浮かび上がる影
午後の目黒署は、妙に静かだった。
直樹の沈黙が、捜査全体に薄い膜のような緊張を張りつめさせている。
だが強行犯係の部屋だけは、やっぱり例外だった。
「魚沼さん、また動画見てるんですか?」
「“また”じゃありません。仕事です」
「いや、仕事なのは分かってるけど……ずっと無表情で動画見てると怖いんだよ」
「刀根さんが横でラーメン食べてる方が怖いです」
「おい、朝ラーメンはもう終わっただろ!」
そんなやり取りをしていると、宮本班の金崎が勢いよくドアを開けた。
「秋刀魚! 動画チャンネルの件で新しい情報だ!」
「動画チャンネル……?」
秋月が椅子から立ち上がる。
「宮田さんを悪者にした、あの“暴露チャンネル”です」魚沼が補足する。
「そう、それ!」金崎が指を鳴らす。「あれな、証言動画の“編集パターン”が全部同じなんだよ!」
「同じ?」刀根が首をかしげる。
「つまり──“演出”だ」
宮本班長が会議室から姿を見せた。
会議室に移動すると、スクリーンには複数の動画が並んでいた。
魚沼がリモコンを操作しながら説明する。
「この証言動画、全部“同じ編集者”の癖があります。
カットのタイミング、テロップのフォント、音量の揺れ……」
「そんな細かいとこまで分かるのかよ……」刀根が呆れる。
「分かります。
そして──この編集パターン、黒瀬さんの過去の仕事と一致します」
「黒瀬……やっぱり関わってたのか」秋月が呟く。
「でも黒瀬さんは“自分は駒だ”と言ってましたよね?」
刀根が言う。
「そう。黒瀬は編集をしただけ。
“脚本”を書いたのは別の人物よ」
宮本班長が言う。
「脚本……?」秋月が眉をひそめる。
「証言者のセリフが不自然に揃ってるのよ。
“宮田は裏金を知っていた”
“宮田は社員を裏切った”
“宮田は危険な人物だ”
どれも同じ言い回し。まるで台本があるみたいに」
「つまり……宮田さんを悪者にするための“偽証動画”ってことか」
秋月が静かに言う。
「そういうことだ」
片桐係長が腕を組んだまま言った。
「黒瀬は編集をしただけ。
証言者は“台本”を読んだだけ。
じゃあ台本を書いたのは誰だ?」
その瞬間、杉下が資料を持って入ってきた。
「班長! 証言者の一人から連絡がありました!」
「連絡?」宮本班長が振り返る。
「“あの動画は……頼まれて読んだだけだ”と。
“本当は宮田さんのこと、悪く思ってなかった”と」
「頼まれた……?」秋月が身を乗り出す。
「誰に?」刀根が問う。
「それが……“名前は言えない”と」
「またかよ!!」刀根が叫ぶ。
「黒瀬も直樹も証言者も……全員“名前は言えない”って言うんですよね」
魚沼が淡々とまとめる。
「つまり──全員が同じ人物を恐れてる」
秋月が静かに言う。
宮本班長がホワイトボードに大きく書いた。
“動画チャンネルの台本を書いた人物=黒幕”
「宮田を悪者にするための偽証動画。
裏金を隠すための世論操作。
黒瀬を使い、証言者を使い、直樹を黙らせた人物。
そいつが事件の中心よ」
「黒幕……」刀根が呟く。
「黒瀬の暗号ファイルの黒塗り部分……
あれが読めれば、黒幕の名前が分かるはずです」魚沼が言う。
「魚沼さん、復号は?」秋月が尋ねる。
「あと……二歩です」
「近づいたな!」刀根が拳を握る。
「二歩って言っても、昨日は三歩でしたよね」
秋月が苦笑する。
「刀根さんが横でラーメン食べなければ、もっと進んでます」
「関係ねぇだろ!!」
宮本班長が締める。
「秋刀魚、次は“動画チャンネルの運営者”を洗うわよ。
黒幕に繋がる糸が必ずある」
「了解です!」
「了解っす!」
「了解しました」
偽りの映像が暴かれた今、
事件はついに“黒幕の正体”へと向かい始めた。




