表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目黒の秋刀魚  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/40

第1章 「黙殺」 第18話 黒塗りの名前

 黒瀬の取り調べが続く中、秋月と魚沼は強行犯係のデスクに戻っていた。

 朝の喧騒は落ち着き、署内は少しだけ静かになっている。だが、秋刀魚の周りだけは例外だった。


「秋月、これ見てみろよ」

 刀根が紙コップのコーヒーを片手に、魚沼のパソコン画面を覗き込む。


「近いです。コーヒーこぼれます」

「おっと……危ねぇ」

「危ないのは刀根さんの距離感です」

「お前、朝から辛辣だな……」


 そんなやり取りを横目に、秋月は魚沼の画面に映る“黒瀬のクラウドフォルダ”を見つめた。


 昨日見つかった第二の暗号ファイル。

 その中には、元役員三名の名前と──ひとつだけ“黒塗り”された名前があった。


「魚沼さん、復号はどこまで?」

「ここまでです」


 魚沼が画面をスクロールすると、黒塗り部分の周囲に“復号の痕跡”が浮かび上がっていた。

 黒瀬が自分で消した形跡だ。


「黒瀬さん、かなり丁寧に消してますね」

「ええ。普通の削除じゃなくて、“上書き消去”です。復元が難しいタイプ」


「つまり……絶対に見られたくない名前ってことか」刀根が腕を組む。


「そういうことです」


 


 そこへ、片桐係長が戻ってきた。

 手にはコンビニの袋。中身はおにぎりと缶コーヒーだ。


「お前ら、朝から難しい顔してんな」

「係長、黒瀬さんの暗号ファイル、あと一歩なんです」秋月が言う。


「一歩ってどれくらいだ?」

「あと……三歩くらいです」

「遠いじゃねぇか」


 係長がため息をついたその時、宮本班長が会議室から顔を出した。


「秋月、魚沼。ちょっと来て」


 


 会議室に入ると、ホワイトボードには新しい情報が書き込まれていた。


・黒瀬のスマホは“二重の位置情報”

・元役員二名は“黒瀬の背後に誰かいる”と証言

・黒瀬は裏金の存在を知っていた

・黒瀬は“誰か”を庇っている**


「黒瀬は、宮田さんを呼び出したことは認めたわ。でも“押したのは俺じゃない”と言い張ってる」


「黒瀬さんの言葉、嘘じゃないと思います」秋月が言う。


「私もそう思うわ。黒瀬は嘘が下手。隠す時は黙るタイプよ」


「じゃあ……押したのは誰なんですか?」刀根が尋ねる。


「そこよ。黒瀬は絶対に言わない。

 でも──“黒塗りの名前”がその答えだと思う」


 宮本班長が秋月を見る。


「復号、進んでる?」


「はい。魚沼さんが……あと三歩です」


「遠いわね」


 


 魚沼が静かに口を開いた。


「黒塗り部分の周囲に、微妙な“文字の跡”が残っていました。

 完全に消したつもりでも、データの端に“圧痕”が残ることがあります」


「圧痕?」刀根が首をかしげる。


「紙に強く書いた時、下の紙に跡が残るでしょう? あれと同じです」


「おお……なんかすげぇ……!」


「刀根さん、褒めても何も出ませんよ」


「出ねぇのかよ!」


 


 魚沼がキーボードを叩くと、黒塗り部分の“圧痕”が浮かび上がった。

 ぼんやりとした線。

 かすれた文字。

 だが、確かに“名前”の形をしている。


「秋月さん、これ……読めますか?」


 秋月は画面に顔を近づけた。

 線の流れ、文字の癖、筆跡の傾き──

 それらを丁寧に追っていく。


「……これ、“直樹”って読めませんか?」


 会議室が静まり返った。


「宮田直樹……?」

 宮本班長が呟く。


「黒瀬さん、直樹さんを庇ってる……?」秋月が言う。


「でも直樹さん、黒瀬を殴りに来たんですよ?」刀根が言う。


「兄弟ってのは複雑なんだよ」片桐係長がぼそっと言う。


「係長、経験あります?」

「……黙れ」


 


 宮本班長がホワイトボードに“直樹”と書き足した。


「黒瀬は直樹を守っている。

 大塚も藤森も“黒瀬の背後に誰かいる”と言った。

 そして宮田さんを追い詰めたのは──“身近な人物”。」


 秋月が静かに言う。


「直樹さん……あなたは何を隠しているんですか」


 


 その瞬間、署内のスピーカーが鳴った。


『至急、強行犯係は正面玄関へ。至急。』


 片桐係長が顔を上げる。


「なんだ……?」


 秋月、刀根、魚沼が走り出す。


 正面玄関には──

 直樹が立っていた。


 顔色は真っ青。

 手は震え、目はどこか虚ろ。


「直樹さん……?」秋月が声をかける。


 直樹はゆっくりと秋月を見た。


「……俺、話したいことがあるんだ」


 その声は、今にも崩れ落ちそうだった。


 事件は、ついに“核心”へと踏み込もうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ