我、冒険者ぞ
連日失礼しまっす!
バステさんのお店に再度やって来た我ら。
「おや、また来てくれたのかい?」
「卵かけご飯の感想とお礼と新商品発掘に来ました!」
「ご馳走様です」
「そこまで喜んでもらえると取り寄せた甲斐があるよ」
昨日と同じゆっるーい反応が返ってきた。
「美味かったかい?」
「美味しかった!」
「卵がこっちのものと比べて濃厚でした」
「卵を生で食べようだなんて、本当に君ら転生者は恐ろしいことをやるもんだよ。まぁオレは魔族だから卵を生で食べても人間のように重症化しないけどね」
バステさんは卵かけご飯を食べないのかと尋ねたら、料理をしないから米が炊けないという回答だった。
食材中心に扱う店なのに、自炊しないんだ。あと作ってくれる人もいないんだ、というのは分かった。そこらへんの空気はちゃんと読みたいと思います。
さて、今日は並ぶ棚を隅から隅までチェックです。
お? パースニップだ。姿形は人参なんだけど、白いんだよね。煮たりするとホクホクした食感と甘みがある。鑑定リングで見ると、霜に当てると甘みが増す、とあった。
雪下人参みたいだけど、人参じゃないんだよねぇ。
ポタージュにしてよし、煮込みにしてよし、マッシュにしてもよし、で何にしても美味しいので好きな野菜。
パースニップを手に取っていたら、「これを使うといいよ」とバステさんが、前世スーパーでお世話になったカートをガラガラと音をさせて押してきてくれた。
……外ののぼりといい、このカートといい……絶対転生者が再現したんだろうけどさ、なんかこう、本当に異世界来たのかな、って思う瞬間がある。
パースニップはいくらあっても困らないので、全部買い占める大人げない人です。
ポロネギと、ケールと、ラディッキオ、ノヂシャをカートに入れる。アーティーチョークだ。シルルに揚げ物にしてもらおうっと。素揚げにするとホクホクした百合根みたいな味で好き。炒めものにしても美味しいけど、個人的には素揚げ派です。
「ポルケッタが食べたい」
バジルやアーモンド、チーズを細かく細かくして、ロースした豚肉で巻いてタコ糸でしばり、オーブンで焼いた料理で、こっちに転生してから食べた料理。豚肉好きなお母さんがシルキーによく作ってもらってたなぁ。
「いいね。それにアーティーチョークの素揚げとパースニップのマッシュ添えてほしい」
食べたいものを口にすると、エレンにサムズアップされた。あの組み合わせ美味しいよねぇ。
「こんなに買ってもらえるならまた、色々仕入れないとなぁ」
本当に商売する気がないな、この人。
買い込んだ食材をマジックバッグに入れて馬車に戻る。ファゴットがむくつけき男になって出かけていった。
ウィシュカはヴェネツィアのような(って行ったことないけど)島が点在しているかなり大きな都市だ。
全部見て回るのは大変そうなので、ファゴットの地図起こしはありがたい。それを見て行きたい場所の優先順位が決められるから。
今日買った食材はシルルにとって使い慣れたものなのと、私達のリクエストが得意料理だったのもあって、シルルがご機嫌である。
卵かけご飯も美味しかったし、和食も食べたいけど、シルルが作ってくれる料理が、思った以上に私達に馴染んでいるのを感じる。
「バステさんの店に行くと時間とお金がなくなるね」
「そうだね。卵でも思ったけど、鮮度がもの凄く良いよね。魔族ならではの秘術でもあるのかな」
「秘術で食材管理とか贅沢」
「ありがたや」
勝手に秘術とか言ってるけど、何かしらの仕入れ手段があるんだろうなぁ。
旅行記にバステさんのお店のことを書く。
魔族の店長で、長いことここで暮らしていそうなこと、他の魔女や賢者とも面識があること、なんかを書く。
日記と違って書きたいことを書けばいいんだと分かってからは、とても書きやすくなった。
「明日、天気が悪くなかったらギルドに行こう」
「そうしよう」
フュリンガーと違って、ここは山から遠いし、雨は降っても雪はあんまり降らなさそうだなぁ。
リクエストしたポルケッタとアーティーチョークの素揚げ、パースニップのマッシュ、とても美味しゅうございました。
ホクホクしたものってなんでこんなに美味しいんだろう。バジルで肉の臭みが消えて、にんにくの香りが食欲を引き立てる。更にアーモンドの香ばしさもあり。とろりとしたチーズが豚肉の旨味と相まって大変、大変美味しゅうございます。
「シルルのご飯は本当、何を食べても美味しー!」
「幸せ」
満足気な私達を見て、シルルさんも満足そうである。
美味しいご飯って、人を幸せにするよね!
オッス、オラ冒険者。
ということで今日は冒険者ギルドに来てみた。
フュリンガーでの指名依頼のおかげでランクDになってる。ランクDだとさすがに薬草採取依頼とかない……ってあるやないか。
私が依頼書をじっと見ていたら、エレンが隣にやってきた。
「ランクDに依頼する薬草採取。そこそこの難易度っぽいね」
「そうなんだよ」
さらーっと◯◯草採取って書いてあるけど、その◯◯草の採取難易度がそれなりなんだろうなと。
依頼日も結構前なのに誰も受領してないあたり、面倒な依頼と見た。
「これを受けるの?」
エレンに聞かれたので首を横に振る。
「このアグパル草が何なのかと、どれだけ大変なのかを調べたらかなぁ」
「あー、嬢ちゃん達、それは止めとけ」
背後から声をかけられて振り向く。いかにも冒険者といった鍛えられた肉体の、四十路の人の良さそうなオジサンが立っていた。無精髭がまた味があるね。
「どうしてですか?」
「嬢ちゃんらが魔女でもアグパル草は手に入らんよ」
私達が魔女だと知ってる。魔女は年齢不詳だと分かっていた上で嬢ちゃん呼びとは。このオジサン、やりおるな。
「アグパル草は妖精の世界にしかないらしいからな」
「それは難しいですね」
うちには妖精が二人いる。頼むとしたらファゴットだけど、自分ができないものを受けて達成してもらうのは違うと思うんだよね。それは冒険ではない。丸投げっつーのだ。
「止めておきます」
「おぅ、それが良い」
じゃあな、と言ってオジサンは去って行った。
「良い人っぽい?」
「もし普通に採取できる草だったとしても、わざわざあんな風に声をかけられるような依頼なんだから、関わらないほうが良さそう」
「それ、真理」
君子危うきに近寄らず、って奴だね。
おっと、ゴブリン退治がある。でもランクEだから受領できないなぁ。勝手に潰しに行っちゃう?
「キリエ、これは?」
エレンが指差した依頼書には、洞窟に住み着いたオークの集団の討伐と書かれていた。依頼ランクもDと書かれているし、我らにぴったりですね。
場所はここからは少し離れてる。天狼で行って帰れる距離ではない。なんで初めて来た領なのに日帰りでは無理なのか分かるのかというと、依頼書が張られた壁の隣にコヴァルシャ領の地図が貼られているから。山や川といった地形情報も描かれてるから、これを見て必要な装備が分かる。親切だよね。助かる。
ゴブリンのほうはどなたかがササッと受領して退治してくれますように。
「いいね」
依頼書を手にし、受付で受領する。
出発は明日にするとして、天幕を張らないとね!
初天幕!
ギルドを出てキャンプエリアに向かう。
今日はバステさんのお店には行かないぞ。
「ひよっこ魔女さん達じゃぁないか」
こ、この声は……!
振り返ると思った通りの人がいた。
「バステさん、こんにちは」
「こんにちは」
「今日も君達が喜びそうなものを仕入れてきたよ」
「!?」
なんですと!?
いや、でも、今日はバステさんのお店に行かないって決めて……。
「豆腐と米麹とにがりなんだけど、要るよね?」
「要りますねっ」
「ありがとうございます!」
駄目だー!
煩悩に負けてしまったー!!
いや、でもさ、豆腐だよ!?
しかも米麹とにがりだなんて、この前買った大豆であんなことやこんなことができちゃうじゃないか!(煩悩)
この誘惑に勝てる者がいるだろうか、いや、いない!(反語)
誘惑に弱くてごめんなさい、って誰に謝ってるんだ私は!
明日から頑張るから! とかダイエットに失敗する人間みたいなこと思ってるけど、本当に!




