コヴァルシャの領都は水上都市らしい
キトラ達のもふもふに包まれて眠るのは最高なんだけど、夏場は暑いから仔犬サイズになってもらってる。
馬車の中にエアコンが付いてるので、夏でも涼しい。冷えは万病の元だからね、エアコンの設定温度はほどほどです。異世界なのにエアコンあるの本当凄いよね。魔道具には感謝しかないよ! といっても、前世の日本みたいな酷暑ではないから、夜は窓を開けて網戸にするぐらいで平気。日本の暑さは殺人的だったよ。体温より高かったりするんだもの。
季節は移り変わって今は秋。朝晩がだいぶ涼しくなってきた。天狼のもふもふが気持ち良いです。しあわせー!
気持ち的にはまだ眠れるけど、階下からベルの音がする。朝ごはんができたみたい! いい匂いー!
「おはよー、シルル、ファゴット」
「おはようございます」
〈おはよう〉
シルルは笑顔で挨拶してくれる。
洗面所で顔を洗ってからリビングダイニングに行く。ファゴットはもうテーブルに着いていた。
最近ファゴットは食事を共にする。エレンは旅行記も好きだし、地図を見るのも結構好きみたいだから地図の話で盛り上がる。興味のない私とシルルはその話題に参加しないけど。
〈もう少し走らせると関所だ〉
「予定どおりに着いたねー」
関所を越えたらコヴァルシャかー。
「コヴァルシャはどんな所なんだろう?」
スライスしたブールパンにバターを塗り、目玉焼きをのせる。この世界の卵は生で食べられないんだよねー。何処かにTKGを食べられる国とかないかなー。
時間をかけて煮込まれたスープに、目玉焼きのせブールパン、水耕栽培で収穫したサラダ。
いやぁ、魔女馬車様々、シルル様々です!
サクッとしたパンの食感に半熟の目玉焼きの美味しさ! 塩胡椒が効いてて美味しい! 個人的にはこの上に醤油をちょっとたらしたいところ。
絶対、前世の日本みたいな国を魔女か賢者が作ってるはず!(自分でやろうとしないところが私!)
「コヴァルシャは貿易都市みたいだよ」
「貿易都市! 商業ギルドが幅を利かせているってこと?」
王権が弱いとか?
「私も旅行記の情報しかないけど、商業ギルドのトップが領主の一族みたい」
あー、それなら問題なさそう?
経済に精通している領主、頼もしい。
商業ギルドだから私達が関わることはなさそうだね。そもそもフュリンガーの冒険者ギルドのだって、ゴブリンやオークに占拠された村がなければ関わることもなかったわけだし。
朝食を食べ終え、歯磨きをする。
歯ブラシや歯磨き粉はどうしてるのかって? 勿論、魔女通販ですよ。
魔女馬車に乗りながらカタログを見て、注文を使い魔で送る。そうすると数日から数週間後に注文したものと次回用の注文用紙が届くので、代金をまた使い魔で送る。
洗濯用洗剤や柔軟剤、食器用洗剤も魔女通販で買ってる。ティッシュペーパーやトイレットペーパー、キッチンペーパーといった日用の消耗品も。実家ではせっけん関連は母のシルキーが作っていたけど、シルルは手洗い用せっけんやボディソープは自作しても、それ以外は魔女通販のものを愛用してる。正直、魔女通販で買ってるシャンプーやコンディショナー、化粧水や乳液のおかげでつやつやです。
ここ、本当に異世界なの? ってツッコミたくなるくらい不便がない。魔女通販があるからだけど。普通の人は使えないから、生活の質が私達とは違うんだろうな。
なお、払わないと回収人が来るらしい。すっごい怖いのよ〜と母に脅かされた。払わないという選択肢はないので、ご縁はないと思う。
着替えて身支度を終えた頃、フュリンガーとコヴァルシャの領境にある関所に到着。
馬車を降りて並んでる列に並ぶ。当然狼より少し大きいサイズになってる天狼の上に乗って。
「次の者、前へ」
やっと順番になったー!
あれ? 関所の人、なんか見覚えがあるような?
関所の兵士さんも同じことを思ったのか、表情が和らぐ。
「これは魔女殿。フュリンガーを立たれるのですね」
「はい」
色々質問攻めにされるのかなとか、ちょっと身構えたけど、そんなこともなく、普通の手続きを受けて関所を通過した。
コヴァルシャに入ったぞー!
この世界の貿易都市というものがどんなものか知りたくて、コヴァルシャの領都を目指す。
「コヴァルシャの領都は港町なんだって」
「え、海があるってこと?」
「港町っていうか、ヴェネツィアっぽい感じなのかな。コヴァルシャの北部には山脈があって、その山脈から結構な大きさの川が流れてて、それが領都に流れこんで、そのまま海に向かってるんだって」
「へぇーっ」
さすがの博識っぷり。
前世ヴェネツィアに行ったことはなかったので、というか行こうとする先々で色んな事件や自然災害が発生するものだから、旅行そのものを諦めてたんだよね。なんだったんだあの呪いは。
ある年齢になってそんなものあるはずない! 行きたいところに行くぞ! となったら病気になってしまい、動けなくなる前に少しでもと国内旅行に二箇所ほど行った。
とても有意義な旅だった。美味しいものを食べられたし、温泉も気持ち良かったし、会いたい人にも会えた。やりたいことをやったから悔いはなかったけど、でもやっぱり残していく家族のこと、愛犬のこと、友人のことを思うと申し訳ないという気持ちと感謝と寂しさがないまぜになった。もう少し生きたかったのは嘘偽りのない気持ちだから。
そういえばあの世の記憶はないんだよね。痛いのとか苦しいのは嫌だったけど、死そのものに恐怖はなかった。病気になるまでは自分は絶対地獄にいくんだと恐れていたのに、病気になってからはそういうことは考えなくなり、父や祖母、大好きな祖父や愛犬達にまた会えるんだ、としか思ってなかった。なんというお気楽な性格!
現実逃避だったのかもしれないけど、恐怖に囚われて苦しみ続けるよりよっぽど良いので、ヨシ!
そんな私が異世界に転生して、親友と愛犬達と新しい仲間と旅に出てる。今生の人生のほとんどは旅かもしれない。もしかしたらここだ! と思う場所に定住するかもしれない。たまには定住してもいいし、また旅に出てもいい。
今は毎日が楽しい。記憶があるからこそ、生きてることが嬉しいし、やりたいことをやれる、そのありがたさに感謝しかない。
「ねぇエレンちゃん、死後の世界のこと覚えてる?」
「覚えてるよ?」
当たり前のことを聞いてしまったような反応である。
「えっ、覚えてるの? 私覚えてないんだよ」
「え、そうなの? キリエが迎えに来てくれたよ?」
「おー、迎えに行くって約束果たしたんだ、私」
「うん、ちゃんと迎えに来てくれた」
病気になってから、それまでちょっと気恥ずかしくて言えなかったことなんかを色々と話した。その話の中で、エレンが天寿を全うしたら迎えに行くと約束をした。私は覚えてないけど、ちゃんと約束を果たしたようで安心したよ。
「なんで覚えてないんだろ、私」
「気にしなくていいんじゃない? 約束どおり迎えに来てくれたんだから」
「そう?」
「そうそう。もし迎えに来てくれなかったら探しに行くつもりだったし」
どこまでも優しいエレンに、ちょっと泣きそうになって抱きつく。よしよし、と背中を撫でられてしまう。さすが人生三周目のエレンさん。
少し甘えたあと、お互いに笑顔になって、目的地に話が戻る。
「ヴェネツィアっぽい水上都市かぁ。どんな風なんだろ。やっぱり色とりどりなのかね」
「ね。ガラス製品とかあるかな」
「おぉ、ヴェネツィアングラス!」
コヴァルシャグラス、と呼ぶのかな?
「グラスとか万年筆、いいよね」
「わー! 欲しい!」
私の気まぐれ旅行記を書くのに使っている万年筆は、一般的なもの。ガラスの万年筆とか目にもきれいで楽しくなりそう!
「街中をゴンドラとかで移動するのかな」
「趣きがあるね」
俄然楽しみになってきた!




