壁作成だけで結構時間かかったよママン
壁、壁、壁。
作ってるのは自分だけど、なかなかの拒絶感。
絶対侵入させないぞ、という強い意志を感じ取っていただきたいですね!
そうじゃないとこの作業、かなり大変でね……心折れちゃう。
「あとどのくらいか、分かってても言わないでね」
私の言葉にエレンと兵士達が笑う。
「残り少なくなってきても言わないほうがいいですか?」
「それは聞きたい気もします……」
ワガママですまぬ。
さ、愚痴も済んだのでやりますか!
どんなものも始めないと終わらないからね!
「子供の頃から疑問に思っていたことがあるんです」
ランチを食べ終わってまったりお茶を飲んでいたところ、一人の兵士さんが口を開いた。いつも口数の少ない兵士さんだったので、ちょっと驚き。
「魔女や賢者は前世の記憶があって、その前世はこことは異なる世界で生きたものだと。その、頭では分かっているつもりなんですけど、ちょっと想像できなくて」
異世界での記憶があるなんて、確かに想像もつかないよね。我らは異世界転生だの異世界転移だのをラノベやらコミックで目にしていたから、まさかの異世界転生きたー! だったけど、彼らは受け入れる側だからね。受け入れがたいのは当然の感覚。でもこの世界には定期的に来るんだもんね、転生者が。こんなに迎える意味はなんなんだろう?
私個人としてはこちらの神様には感謝しかないんですよ。前世の記憶があるから、魔女としての生が楽しくて仕方がない。
「私もエレンも、別の世界で生きた記憶がありますよ」
「どんな世界なんですか? 過去の魔女や賢者は高度な文明を有していたと口を揃えて言いますが、聞いてもピンとこないというか」
「まず魔法がないです。魔道具のようなものはありますけど、それは魔力で動いているものではないです。あと、魔物はいません」
電気を説明ってどう言えばいいの。火力だとか原子力だとか風力とか。風力や水力はこの世界でもあるから大丈夫か。
「魔物、本当にいないんですね」
「いませんね。冒険者は、いるにはいますけど、この世界の冒険者とはちょっと意味合いが違うというか、前人未到の難所を冒険するって感じです」
「魔物がいないとなると、魔物暴走もないということですよね」
「そうです。でも人間同士の争いはあるので、平和ではないですよ」
あ、人間同士と言って思い出した。
「ホビットやエルフ、ドワーフも存在しません」
「仕事はどんなものがあるんですか?」
サラリーマン、は仕事じゃなかった。
「うーん、農家、漁師、領主様の元で働く文官みたいな人達もいますし、大工なんかもいます」
こっちの世界では不動産仲介業は商業ギルドがやってたりするなぁ。とにかく色んな職業があるけど、上手く説明できる気がしない。ごめん。
そう、私達は冒険者で商業とは無関係だから出入りしたことないけど、あるんだよね、商業ギルド。賢者くんならそっちも登録してそう。彼の前世の年齢を知ってしまったからね、今生を目一杯満喫してほしい。やり尽くしてほしい。
「うーん、どれだけ高度な文明だったのかどうもよく分からないんです」
まぁそうですね、これだけじゃね。
「そうですね、まず通信手段が発達しているので、伝書鳩がいりません。瞬間的に伝えたい相手に情報や絵なんかを送ることができます。あとは物を注文したら、最短でその日に受け取ることができたり」
具体例を挙げたら驚かれた。
ただね、ネットワークの説明はできません。
「移動手段も徒歩や馬車ではなく、魔力ではない別の力というか仕組みによって大量の人数や物を運べますし、大陸間を渡る場合は船だったり飛行機と呼ばれる空を飛ぶ機械を利用します」
「空を!?」
これが一番驚くよね。
その後もポツポツと話した結果、兵士さんは満足したようだった。
「この世界に転生した魔女や賢者からしたら、不自由に感じるでしょうね」
「そういう人もいるとは思いますけど、むしろそれを商機と捉えた魔女のお陰と、魔力のお陰で私達は不便さをあまり感じていないんですよ」
むしろ魔法がある分こちらの世界のほうが良いこともある。マイナス面も勿論あるにはあるけど。
私はこのちょっとした不自由さも楽しんでるので、イライラすることもないかなー。
質問をした兵士は大変満足してくれたようなので、良かったです。
フュリンガー領を囲う防壁を作るだけで三か月かかったよママン。これだけ広大な領地なんだから当たり前なんだけど。
村奪還と村復興を計六回。そこに防壁作りプラスで六か月。いや、むしろハイペースなんだけどね。途中食糧尽きかけて魔物狩りもしたし。
もっと早くにマルングリティに向かってる予定だった。でもギルドランクもまだEだからお金も貯まってなかっただろなぁ。
結論として、急ぐ旅でもなし、まぁいいか、となる。
防壁にはきちんと関所も配置したし、なんならその関所を兵士が何十人も常駐できる要塞にした。我ながらよくやった!
あとはフュリンガー領と関係性が良いとされるコヴァルシャとの関所からフュリンガーへの街道を作りながら戻って、魔導石に魔力ためて、冒険者ギルドに報告したら完了!!
冒険者稼業も楽じゃないなって思ったけど、旅が目的で終わりがないから、やっぱり急ぐ旅でもなし、まぁいいか、となるのだった。
石畳で凸凹の少ない道を作ってる。街道が整っているとそこを通る行商人達や旅人も行き来がしやすいだろうし、なんなら商人の数も増えるかも?
領都が栄えて、面白いものが手に入ったらクルックさんがお母さんの元に持っていくかもしれないね、ってエレンに言ったら、お母さんも昔旅をしてたし、魔女通販があるからどうかな、と冷静に返されてしまった。しょんぼりしていたら、でも手に入りやすくなれば魔女通販より安く買えるかもね、とフォローされてしまった。ありがとうエレン。
マルングリティはフュリンガー領からコヴァルシャ領を経由して行くから、今私達が作ってる街道の恩恵を自分達も受けることになりそう。
「領都に戻る頃には秋かぁ」
エレンの言葉に頷く。
「ね、もう秋になる」
「前に話したきのこのこと、覚えてる?」
「!!」
実家がある森と領都を隔てるあの山で採れるというきのこ!!
話を聞いた時は何年後になるやらなんて思ってたのに、全然先に進まずフュリンガー領内を移動してたら秋になってたでござる!
「なんかちょっと嬉しいような嬉しくないような」
「ひと仕事終えて美味しいきのこを入手して、ちょっと休もうよ。クルックさんに頼んでた紙も出来上がってるだろうし」
「!!」
わ す れ て た !
「私よりエレンが旅行記を書いたほうがいいんじゃないの?」
「私は書くより読むほうが好きだから、キリエに書いてほしい」
「日によっては三行かもよ?」
「日記じゃないから、書きたい時に書けばいいと思うよ」
あー、そっか、日記じゃないんだから、書きたいことがあったら書けばいいのか。当たり前なのに、なんか安心した。
紙ができるまで別の紙に書いておいてとクルックさんに言われて毎日書いてたけど、なんか上手く書けなくって悩んでたんだよね。清書する時には無理に書いたところは省いておこうっと。
ホッとしたらおなかが空いてきた。シルルにおやつをもらおう。
そうそう、この半年の間にシルルが水耕栽培で育てた野菜もスクスク育ち、何度も食卓に上がった。
領都では見ない野菜もあったから兵士達が驚いてたっけ。
生鮮野菜は他領から持ってこれないから、旅に出てその収穫地にでも行かないと食べられないんだよね。さすがにこれは魔女通販でも解決しない問題。
マジックバッグに入っていれば時間経過を止められるけど、マジックバッグはとても高価なものだから行商人は持ってない。持っていても行商時には持たないんだって。もしマジックバッグを持ってるのがバレたら盗賊に襲われてしまう。だから持ってるのは冒険者が多いらしいよ。マジックバッグを持って行商するとしたら、護衛をたっぷりつけていくとかなんとか。
クルックさんも普通のバッグで来てたのを思い出す。
一番行商人が必要そうなのに、使うのも条件を整えないといけないのは大変すぎる。
あぁ、あれに見えるは領都じゃないですか……! 実に六カ月ぶりですね!!
以前は移民の行列で凄かった門も、今は行商人や旅人くらいのもの。これが本来の姿だったんだろうなー。
「嬉しくて小躍りしたい」
「終わったら好きなだけどうぞ」
いや、踊らないよ?
比喩的な表現です。
私達が街道を作るのを見て、行商人達はびっくりしてる。そりゃそうだ。ごめん、驚かせて。
あともう一回で街道と領都が繋がる、というところで兵士さん達が列のほうに向かって走って行き、場所移動してもらった。移動が済んだのか、兵士さん達が手を振っているので、こちらも手を振ってから最後の道を作る。
ボコボコボコ、と盛り上がってきた石の道が無事、フュリンガーの入り口と繋がった。
「終わったー!」
「やりましたー!」
エレンと抱き合ってキャッキャしていたら、リーダーがやって来た。
「出来ましたね!」
「はい!」
「魔導石は明日にしますか?」
「いえ、この勢いで終わらせて明日から休息します!」
了解です、とリーダーが笑顔になる。
さて、魔女通販で頼んでおいた特注の魔導石ですが、もう馬車の中に積んであるんですよ。
で、領都と防壁を街道を経由して繋げたわけだけど、領都の入り口に魔導石を置くわけにはいかないんだよね。敵がここまで来れたら易々と魔導石を壊せちゃうから。ただ私達のスタンスは魔導石を勝手に置くけどあとは好きにしてくれって奴で、領主がオッケーを出すと思ってないのです。
「そうしましたら、街道を領主の館まで伸ばしていただけますか?」
お? もしかして領主様から許可が出てたりする?
領都に入ると兵士達が沢山来ていて、領都の入り口から領主の館に繋がる中央通りから人を避けさせていた。ありがたやー。
避けさせられた人達は、避けつつも何だなんだと集まってきている。あ、人だかりの中にクルックさん発見。私達に気付いて手を振ってる。軽く手を振り返して、中央通りを上書きするように作り変えていく。道が波打つようにして一瞬で作り変わっていく。それを見て見学人達(?)がおぉーと声を上げる。
三カ月も作り続けてたから手慣れたもんですよ。横になりながらでも作れそうな気がする。
領都の入り口から中央通りを作り変えながら第二城壁へ。第二城壁から第一城壁へ。第一城壁の中に入るのは初めてだなー、なんて思いながら作り変える。
そうして辿り着いた領都の中心地 領主の館。城っていうか要塞だね。さすが辺境伯の住まい。ここが最終防衛ラインなんだろうなーという感じ。
館には当然ながら堅牢な門があるのだけど、リーダーさんを見た門番達が敬礼をして門を開けてくれた。
リーダーに誘導されるまま道を作った先にお堂が。お堂っていうと和っぽいけど、洋風。小さい教会みたいな感じ。その中まで道を作った。
「ここに魔導石を置けばいいですか?」
「はい、そこの台座の上にお願いいたします」
お庭に魔女馬車を召喚させてもらって、中から特注の魔導石を下ろす。重いので魔法で浮かせてお堂の中に運び入れる。台座にのせた魔導石は魔力を注いでないのでただの石にしか見えない。ここに魔力を注ぐと光る。全体が光るんじゃなくて、シリンダーみたいに下から光っていくのでどれだけ魔力が溜め込まれているのかが分かりやすい。
私とエレンで魔力を注いでいく。満タンになったら防御壁を発動させる。カラカラの土に水を注いだみたいに、あっという間に魔導石は空っぽに。そこにまた魔力を注ぐ。これを何度も繰り返した。
領都からコヴァルシャに繋がる街道、領都を囲う全ての防御壁に魔力を送るとなると、かなりの量が必要になる。
それをやれる私とエレン、というより魔女はやっぱりチートだと思う。
もうおなかいっぱいですと言わんばかりの魔導石を見て、私とエレンは顔を見合わせて頷いた。
振り返ってリーダーを見る。いつの間にか冒険者ギルドのギルマスが来てるじゃないですか。
「終わりました」
「はい、依頼が完遂されたことを確認しました」
「やり切ったなぁ、お嬢ちゃん達!」
終わったー! もうここに座り込みたいー!
そんな気持ちをぐっと我慢する。
「報酬については明日、ギルドに来てくれたら渡すからな」
「はい」
良かった、今から来いと言われなくて。
もうへとへと。
第三城壁内に空き地あるかなぁ。あったらそこで馬車を出してとりあえずお昼寝したい!
兵士さん達とギルマスに笑顔で見送られながらお屋敷をあとにする。第三城壁のキャンプ場に行くと場所が空いてた。良かったー!
移民達が元の村に戻ったからここもパンク状態が解消されたんだね。いやー、殲滅したそばから人を送り返してくる領主様、なかなか鬼だと思うよー。
かぼちゃの魔女馬車を召喚して中に入る。
「シルルただいまー!」
「ただいまー!」
シルルは私達をすかさず着替えさせてくれて、天狼達とベッドにダイブ!
今寝たら夜中に目が覚めるとかもう気にしない!
本日の業務終了です!




