村奪還および駆逐作戦開始ー!〈後編〉
あぁ、疲れたー。
積み上がったゴブリンの死体の山を燃やし尽くして、ようやく息を吐いた。
安全な場所から見ていただろう兵士達がやって来た。
「お疲れ様です。討伐は完了と思ってよろしいですか?」
周囲に討ち漏らしたゴブリンがいないか、念入りに確認もした。
「はい、これでこの村の制圧は終わりです」
「……魔女は膨大な魔力を持つ存在だと聞いてはいましたが、本当に凄いですね」
リーダーらしき兵士が言った。
「魔女も色々いると思います。私は双子のエレンがいることと、天狼達がいるからこうやって戦えてるだけです」
「私一人なら無理です」とエレンも言う。
私達は二人と四匹でセットで、だからこそやれるのだと分かってる。もっと魔力の多い賢者や、頭脳戦を得意とする魔女や、連携プレイで上手く戦う冒険者もいるだろうし、鍛え抜かれた統率力で戦う兵士達もいる。要するに戦って勝てれば良い。どれだけ時間がかかったとしても、怪我を最小限に討伐できたら、大成功なんですよ。
討伐は完了したものの、これで終わりではないんだよね。村全体の被害状況を確認して、はっきりとゴミと分かるものは焼却処分し、村人達がすぐに再建に取り掛かれるようにしなくては。
オークやオーガと違ってゴブリンは建物を破壊したりしないので、この村の再建は早いかもしれない。
餌として捕まっていた家畜達を集めて、兵士達に手伝ってもらって囲いの中に入れておく。水と餌も与えておく。餌はファゴットに頼んで集めてもらっておいた。井戸も無事かどうか確認して、問題ないことを確認。
ひと通り対応を終えたところで、兵士が領都に向けて伝書鳥を送った。なるほど、こうやって逐次報告するのか。
さて、最後の仕上げとして、村全体を防御壁で囲わなくては。兵士達とどのくらいの大きさがいいのかを相談しながら、土魔法で壁を作り上げていく。領都と同じように住居エリアを一つ目の防御壁で囲い、家畜の放牧や畑を作るのに十分となるように二つ目の防御壁を作る。
魔導石を使用しての防御ができなかったことを想定して、防御壁の中から外的に攻撃できるよう、壁の上に通路も作っておく。それから防御壁の周りを掘り、水を張り、橋をかける。緊急時は橋を巻き上げれば水が張ってあるから攻撃しにくくなる。土壁なんで一点集中で攻撃されると壊れるけど、掘りがあるから攻撃はしにくいはず。堀の幅、かなり大きく作って水を張ったからね。穴を掘って地下から攻め込めないように、かなーり深い掘りにしてる。やれるもんならやってみろー、っていうぐらい深く掘ったよ!
攻城兵器もあるだろうけど、魔物は使わないだろう、たぶん。
「村というより、簡易的な要塞ですね、これは」
「防御力を少しでも高めておいたほうがいいと思うので、村らしからぬ形ではありますが、村人は安心して住めるかと思います」
「間違いないですね。これで村の中に通信用の伝書鳩の小屋を用意しておけば、襲撃と同時に領都へ連絡を飛ばせますし、時間稼ぎをしている間に領都から兵も出せます。それに近隣の村から避難してきた場合にも最適です」
リーダーと思しき兵士さん、実は上級兵士なのでは……? 話が早くて助かるけど。
さて、耕作地に適していそうな場所の土起こしでもしておきますかね。畑作りなら森にいた時に散々やってましたからね、手慣れてますよ!
村人達が戻ってきて、やること山積みでメンタルやられないように、やれることはやっておいて、これならまたここで生活できそう! って思ってもらいたい。
「アナベラ殿は様々なことを貴女達に教えたのですね」
「そうですね。十二年しか一緒に過ごしていませんが、多岐に渡って様々なことを教えてもらったと思います」
「魔力依存な部分もありますが、得難い経験でした」
防御壁やら掘りやらなんやら、全部終わるのに七日ほどかかったけど、むしろこれを人力でやったらもっと時間かかるだろうから、時短だと思う。
そろそろ次の村へ向かおうかな、と思っていたら領都の兵士達に護衛されて村人達が戻ってきた。
領都をこれ以上移民で溢れさせないためにも、早々に村に戻したんだろうな。
村人達は以前はなかった防御壁に喜んでいた。
家畜は大分減っていたから、以前のようにはいかないだろうけど。
護衛の兵士達が畑に撒く為の種なんかも村人に支給していた。食料は十分ではなさそうだったので、羊肉を十頭分ほど村長に預けた。十分とは言えなさそうだったから、村の外で魔物達を見つけては倒し、追加で二十頭分くらい補充し、村人と一緒に森に行って薬草やら食べられる木の実なんかも採取した。
村長達には何からなにまで、といたく感謝されたけど、彼らはまたここで村を建て直さなくてはならない。それは一朝一夕でできることではない。私達のやったことはほんの少しの手助けでしかないから、気にしないでほしいと伝えた。
明日にはこの村を出て、次の村を目指す。
まだ一つ目。奪還しなくてはならない村は残り五つ。それが終われば領地の境界線に防御壁を張り続けるという大変なお仕事が待ってる。自分でやり始めたことなのに、一つ目でちょっと疲れてるけど、やると決めたのだから頑張らねばね!
ご褒美にとシルルが作ってくれたふわふわパンケーキが五臓六腑に染み渡るー!
シルルありがとー! 明日からも頑張れそう!
「疲れたぁ……」
シュナのふわふわなお腹に顔を入れたまま呟く。はぁ、良い匂い。あとで肉球のにおいも嗅ぎたい。ポップコーンの香りを味わいたい。なんでこんなにいい香りなのか不思議。何でできてるんだ、肉球。
「あと残り二つだよ、ファイト!」
一つ目の村を奪還した後、同じようにゴブリンやらオークやらに占拠された村を奪還し、再建の下地を作ること三回。依頼された六つの村の内、四つを取り戻した。
領都に逃れていた村人達も戻って、再建に向けて頑張ってくれるのは嬉しいんですけど、六つは多い!
分かってて受けたけど、ちょっと疲れたよー!!
一つ目と二つ目はゴブリンの巣窟で、三つ目と四つ目はオークだった。オークはゴブリンほど知能はないけど体力があるというか、倒すのに時間がかかる!
しかも村の住居を破壊してたりするから、その片付けやら建て直すために木材を近くの森から切り出したりする必要があった。
戻ってきた村人の手伝いとして何度も木材を切り倒しに森に行って、魔物がいたら倒して、薬草摘んで、食用の木の実も収穫して、をひたすら繰り返した。
天狼に乗ってるけどさ、魔法使っての資源調達だけどさ、疲れるんですって!
四つ目の村は川が通ってるから水車とか作り直して、しかも粉挽き機も作ったし、石窯を組み立てる用の石も石切場まで行った。村人達、おずおずしながらもしっかり要求してきたよ! 手伝いましたけどね!?
魔法は万能じゃないし、同じ大きさに石を切る作業なんて初めてだったから凄い神経使ったよ……。
「さすがに私達も兵士の人達も疲労が蓄積してるだろうから、この村で一日二日お休みするのもいいと思うよ」
うむ。兵士さん達も戦闘には参加してないけど、村の復興は一緒にやってるからね、疲れているはず! 絶対疲れてる! よって、二日間の休息を求めます!
「じゃあ私、伝えてくるね」
そう言ってエレンは馬車から出て行った。疲れを微塵も見せず、颯爽と。……アレ? 我ら双子だよね? 体力も前世の引き継いでる? もしそうなら、私だいぶ虚弱なんだけど?
好き嫌いなどの諸々も前世のままだし、もしかして、本当にそうなのか……?
伝えるだけだったからか、エレンはすぐに戻って来た。
「エレン、もしかして体力も前世のとおりなのかな?」
「たぶんそう」
恐る恐る聞いたのに、バッサリ答えられてしまった!
でもどうりで、エレンはピンピンしてると思った! 前世のエレンは健康優良児だったし!
魔女への転生、特典ばっかりじゃなかった!!
いや、普通に生活はできてるんだけどさぁ……。
「……今生も同じ病気になるのかな?」
「お母さんに確認したけど、それはなさそうだよ」
いつの間に確認を!?
でも、違うのか、それなら良かった。ホッとした。
まぁこのファンタジーな世界なら、前世不治の病だったものも治癒可能かもしれないけど。
「兵士さん達、休息を取ることに反対してた?」
依頼中なのに休息なんてけしからん、って思われたりするかなー? と思って一応確認。これまでに何度も会話して、そんな風には見えなかったけど、なにが地雷かは分からないからね。
「彼らも疲れていたみたいで、ほっとしてたよ」
「そっか、それなら良かった」
私達は魔法使ってるけど、彼らは肉体を酷使してたからね……いくら鍛えられているとはいえ、疲れていてもおかしくない。戦場のような緊迫感はなくても、肉体を酷使すれば当然疲労する。そうそう、疲れるのが普通なんですよ。
「エレンちゃんは疲れてなさそう」
「そんなことないよ、ちゃんと疲れてる」
ちゃんと疲れてるって表現はどうなの。まだまだイケると言われないだけいいか。
肉球のかおりを嗅ぎながらお昼寝。キトラやシュナ、ミトラとシエに囲まれながらのもふ昼寝、控えめに言って最高です。愛狼のもふもふに包まれてのお昼寝、幸せ!!
うぅ……オークめぇ……。
やっと六つ目の村を奪還した。最後の村は一番破壊されていたのもあって、復興が大変だった。ほぼほぼ作り直したと言っていい。
これで村は全て奪還。あとの復興は村の人達に頑張ってもらうとして、我らは他領との境界線に防壁を張りまくるのです。それが終わったら街道を設置して、領都と繋ぐ。最後に魔導石に魔力注いだら依頼完了。
…………まだやることいっぱい。でもね、村人達すっごい喜んでくれたし、私達も報酬もらえるはずなんで! 頑張って、私とエレン!
「また攻め込まれる前に防壁作って、なんなら堀も掘っておく?」
「そうだね。ロープが足りないくらい深くて広いのだとなお良し」
エレンちゃん、やる時はやる人だからね。敵に回してはいけないタイプです。
でも堀はありかも。村と同じように広くて深ーいのを作っておけば、地下を掘って侵入してくるのもできない。
なお、魔導石を使っての防御ができるなら、堀は不要。地下にも壁を作っておく予定だし。
「ただ、堀を作ってると時間がかかる」
「そうなんだよね」
村の再興で堀作りが上達したけど、手間がかかるのは変わらないし、これだけ広大な領地に防壁を作るだけでも大概だしなぁ。誰よ発案したの、私よ!
どうしようかなーなんて思いながら、境界線に到着。一応あるんだよ、他領との境界に気持ち程度の壁はね。関所もあるし。でもそれがずっと続いてるわけじゃない。境界線上に森なんかがあったりすると、そこから入ってこれちゃうわけです。そう、目の前の森ですよ。森の中に壁作るのは環境破壊で気が乗らないです……。
馬車を降りたら、リーダーさんがいた。
「防壁作成の前に領主から届いた手紙の内容をお二人にお知らせします」
お? 伝書鳩で色々やりとりしてるのは知ってたけど、その中に領主様とのもあったのか。
「今回討伐いただいた村の全てに、ニルアインワ領の特産品が見受けられました。ニルアインワ領で討ち漏らしたものがフュリンガー領に侵入していたことになります。ゴブリンやオークなど集団で襲ってくる魔物に関しては、自領で討伐に失敗した場合、速やかに他領に連絡をすることが義務付けられているのですが、されておりません」
あー、やっぱりわざとなのかー。
「領主は正式にニルアインワ領主に抗議し、その賠償としてこちらの森を丸ごと譲渡していただきました」
視線を森に戻す。
この森結構大きいよ? これ全部譲渡させたんだ? フュリンガーの領主様、やり手なのでは?
……やり手の人は敵を作りやすいよね、うん。でもやられたらやり返さないとだよねー!
「分かりました。では境界線はもっと先ということですね」
「はい」
兵士さん達に案内してもらって、新しい境界線まで移動。
植生やどんな動物が暮らしているのかまでは分からないけど、基本的に森は動植物が豊富だから丸っと入手できたのは良いことだと思う。
私達がいた森のような魔物暴走が発生するほど深い森なのかは分からないけど。この短期間にニルアインワの領主と話をつけられるぐらい優秀な領主なら、そのあたりも考えてはいそう。
村の再興でやったように、兵士達が剣で印をつけていった境界線に防壁を作っていく。私が作った防壁の厚みをエレンが増やしていく。二つの魔力が混じることで防御力が上がる。これはね、魔法の本に書いてあったので防壁作りで活用してる。ありがとう、魔法の本!
地下十メートル、地上十メートルの防壁をどんどん作っていく。日が暮れたら終了。残業はしないのです。
兵士達はてきぱきと野営の準備をしていく。
初めの頃は兵士さん達もシルルの料理を渡すと申し訳なさそうにしていたんだけど、今じゃ慣れたもの(?)で、今日の夕飯は何ですかねと言うようになった。
シルルの気分次第だから私達も分からないんだけどね。
最近は私とエレンも兵士達と一緒にごはんを食べたりもする。主にお昼。夜はシルルが許さない。毎日気合い入れて夕飯を作ってるから、目の前で反応が見たいんだと思われる。
「シルルさんの料理は本当に美味いですね、この依頼が終わったらもう食べられないんだと思うと残念です」
おいやめろ、フラグ立つだろ、っていうのは冗談として、そうでしょうそうでしょう、シルルの作るものは美味しいんですよ。
「シルルに伝えておきます」
見張りがいらないので、兵士達は野営ではあるもののちゃんと眠れているようで、長期に渡ってる割に疲労はそれほど溜まってはいなさそう。
彼らの洗濯物もシルルがやってくれるし、水浴び用に大量の水というかお湯も提供してるし、食事はシルルが毎日三食作ってくれてる。
野営が長期化した場合に辛いのは、食事と休息だと思う。
兵士達に食事を渡したので、私達も食事!
今日は猪の魔物肉をカバーシュテという野菜で包んで煮込んだもの。いわゆるロールキャベツです。さすがにこの世界にトマトはないだろーと思っていたら、過去の魔女が発見して食用に改良したのであるんだよね。いや、助かるけどさ、トマト。
領都の料理屋さんにもトマトを使った煮込み料理があるし、屋台だとミニトマトと肉を交互に串刺しにした串焼きも売ってたりする。
トマトがあるということは、勿論じゃがいももあります。
ありがとう、先人達!




