羊毛とジンギスカン
ギルドに着いて早々、賢者くんに絡まれた。なんか慣れてきたなぁ。
「オレもランクアップしたぞ」
めっちゃドヤ顔。
「おめでとう」
「良かったね」
素直に拍手して祝ったら微妙な顔をされた。前から思ってたんだけど、なんで私達に絡むのかなー? と思ったので直球で聞いてみることにした。
「どうしてそう私達と張り合ったり、魔女を敵視するような態度をするの?」
先日のフレディさんの時もそうだったけど、魔女に酷いことをされたとしても魔女違いだし。これまで何人もの魔女に出会って酷い目に遭ったのならこういった態度も納得がいく。ただ、自分達は賢者くんを敵視してないからこういうのは止めてほしい。
「魔女と賢者なんだぞ。ライバルに決まってるだろ!」
動機がシンプルー!
「偏見よくない」
「迷惑です」
基本エレンちゃんは思慮深く、思いやりのある言葉を選ぶんだけど、逆鱗とまではいかないけど、スイッチを押してしまったらバッサリと切り捨てられる対象になるのです。なので賢者くんには遠慮しなくなってる。
「そっちだって無双すんのに賢者邪魔だろ?」
「全然」
「無双に関心ないので」
「えっ! なんでだよ! せっかくの異世界転生だぞ!? チートで無双しないで何やんだよ!」
「普通に旅」
「そう、旅」
私達の反応に賢者くんが愕然とした表情になる。そこまでショック受けること??
「え、じゃあオレ、勝手に絡んでたってこと?」
「あ、そこには気付けるんだ、良かった」
理解不能な精神構造だったら困るなーって思ってたから、ちゃんと理解してくれたようで助かる。
「マジで旅が目的なのか?」
「旅に出ろと家を出されたし、せっかくなら世界を楽しく巡ってみようと思ってるだけ」
「そう」
賢者くんの顔が真っ赤になる。あー、これまでのことを思い出して恥ずか死にそーになってるな、これは。
「くっそ恥ず」
「本当にね」
「最初から酷かった」
「そこはそんなことないよとか優しい言葉をかけてくれてもいいだろ!」
「初対面から失礼だった人にそこまではしてあげないかなー」
クルックさんのお店でのことを思い出したようで、苦い顔をしてる。
「ごめん」
「もうやらないでほしい」
「分かった」
たまに言語は同じなのに意思の疎通難しい人いるけど、そうではなかったようでひと安心。ちょっと時間かかったけど。
「改めてランクアップおめでとう。同じ前世を持つ者として、今生がより良い生になることを願ってる」
「お互いに楽しみましょう」
「待って、二人さ、何歳まで生きた?」
「あ、前世でもノンデリだったタイプだ」
「女性に年齢を聞くのはタブーだと思いますよ、どの世界線でも」
賢者くんは慌てた様子で謝ってきた。
「わ、悪い。オレ、高三の時に事故死してさ」
「なんだと!」
「それはノンデリでも仕方ないかも?」
いや、高校生でも備わってたほうがいいけどさ、デリカシー。高校生男子かー、なんか色々納得。
「というかその若さで事故死したのかぁ……今生は無双してね」
「がんば!」
「……オレより年上ってことは分かった」
「ノンデリはモテないよ?」
「いくら能力がチートでも、ラノベみたいに出会って即モテとかありえないからね」
あれは空想。ガチファンタジー。願望。もしくは美人局。
この世界に生まれ変わってみて思ったのは、チートな能力持ってるけど、ここは現実なんだってことなんだよね。
ちょっと頭に浮かんだ苦い記憶を、軽く頭を振って追い払う。
「旅ってことは、領都にずっといるわけじゃないんだな」
「うん。ある程度お金貯めたら移動する予定」
「金? なんで?」
「魔道具都市に行きたいの」
「魔道具かー、確かにあったほうが良いよな」
賢者くんの言葉に私達は頷く。
すっかり言葉からトゲがなくなったので、話しやすくなりました。
「何買うんだ?」
「カメラ」
「カメラあんの? え、オレも欲しい」
「高いらしいよ」
「だよなー。つかさ、魔女って馬車あんじゃん、ズルくねぇ?」
「魔女特典。魔女通販もあるよ」
「ネットショップまで!?」
めっちゃ驚いてる。
「賢者はないの?」
「分かんねぇ。魔女は魔女から生まれるけど、賢者は普通の家に生まれるから」
「あー、そうかー」
他の賢者を探さないといけないんだね。あるのかな、賢者通販。
「この世界魔女の方が優遇されてねぇ?」
「生まれはそうかも。でも賢者のほうが魔力多いよね。お母さんが倍は違うって言ってたよ」
「え、そうなん!?」
「そうそう」
無双を妄想したのか、賢者くんが嬉しそうな顔をする。
「ドラゴンスレイヤーとかなりてーっ」
「頑張って」
前世私の家は龍を祀る宮司の家系だったのもあって、ドラゴンを倒すことに抵抗感がある。まぁ、襲われたら対応はすると思うけど。
賢者くんは私達を見て、「本当に旅をするのが目的なんだな」と言った。
「うん。生きる糧を得るために冒険者になっただけ」
「ダンジョンとかあんまり……」
「つまんなくね?」
「つまらなくないよ。色んなものを見つけるの楽しい」
そんな心底理解できないという顔をせんでも。
「でもそういうのが好きな魔女もいると思う」
「私達はそうじゃないだけで」
荒ぶる魔女もきっといることでしょう。
シルルさんから切実な訴えがありました。
フェルト作りたいらしいです。天狼の毛があるといえばあるけど、黒毛ばっかりだからなぁ……。
季節的にはちょうど羊毛の毛刈りシーズンだと思うけど、領都では羊は飼育していないようで、見かけたことがない。ヤギは多い。牛はいるけど乳牛がいないから必然的にヤギミルクになってるわけですね。あ、でもクルックさんのお店で牛のミルクご馳走になったなぁ。なんかツテがあるのかな?
領都の外に羊、もしくは羊の魔物がいればいいんだけど。ギルドで聞いてみよう。ついでに依頼も見よう。この前は出遅れたのもあって、良さそうな依頼がなかった。例によって例の如く誰かさんが依頼沢山受けてたからなんだけども。今度は負けないぜ。
「あ」
私の一言に反応してエレンが寄ってきた。
「あった?」
「うん。羊の魔物退治」
依頼書を持って受付に向かう。すっかり顔馴染みとなったお姉さん達。
「今回は羊の魔物退治になさったんですね」
「はい、ちょっと羊毛が必要になって」
「そうなんですね?」
我らの生命維持装置ともいえるシルルのお願いだから叶えねばならんのです。
「角はお売りいただけますか?」
「はい、売りに出そうと思ってます」
「ありがとうございます。羊の角は薬の素材となるので大変助かります」
なるほど。羚羊角とかいうの、漢方で見たことあるけど、あんな感じかな。
依頼を受領して、天狼に乗って城壁の外へ。
春も終わりだからか少し気温が上がってきてる感じがする。生まれ育った森の中は前世日本の四季に近かったなぁ。領都と森は距離こそさほど離れてないけど、間に険しい山を挟んでるから同じ気候じゃなかったりするかも?
「夏の日差しのことを考えてなかった」
「あぁ、そうだよね」
森の中は樹々があるから夏でもダイレクトに日差しを受けることがなかったからなぁ。だからといって天狼に乗りながら日傘は物理的に無理だし変だ。本格的な夏を迎える前に対策を考えねばだなぁ。
依頼書に指定されていた場所に向かうと、羊の魔物が群れていた。おぉー、これまたいっぱいいるなぁ。
「私、ジンギスカン好きなんだよね」
「奇遇ですな、私もです」
羊毛だけでなく、その身も美味しくいただきます!
天狼達がバッサバッサと倒してくれるのを、エレンと二人、役割分担しながら作業を進めていく。
まず毛を刈る。やってみたら楽しかったので、やらせてもらった。その後エレンが捌いて、捌き終えたのを部位ごとに分けていく作業を私が担当。
刈った羊毛はどんどんマジックバッグへ。捌き終えたお肉もマジックバッグへ。内臓はコツメカワウソスライムとミニブタスライムの出番です。血抜きナイフで捌いてあるから血まみれになることもなく、つるんと口の中に吸い込まれていく。食べられないけどなんとなく美味しそうに見える。食べないけど。
四十頭はいたであろう羊の魔物の討伐を終えた。さすがに数がいたから夕暮れに差しかかってる。早くギルドへ報告に行かなくちゃ。のっぴきならない事態でも起きなければ、夜になると領都の門は閉じられてしまう。
「急いで帰ろう」
「うん」
天狼に乗って領都へごー!
ギルドで四十頭の羊の魔物の討伐報告をし、そのまま角を買い取りに出す。買い取り報酬は次回受け取ることにして馬車に戻った。
シルルが期待に満ちた目を向けていたので、私とエレンはサムズアップした。
「羊毛も羊肉も大量にゲットしたよ!」
「ジンギスカン食べたいです!」
シルルが首をひねる。
あー、ジンギスカンを知らないのか。そうか、そうだよね。ジンギスカンは前世の、というか日本ではそう呼ばれているけど、正式な料理名はなんなんだろう?
前世料理上手だったエレンがジンギスカンのことを詳細にシルルに伝授しているのを、横目に見ながらおやつを食べる怠惰な私。
タレに漬けておいたのを焼いて食べるくらいしか分からん。好きだったお店のジンギスカンは、タレにりんごが入ってたなぁ。
頑張ってシルル!




