いよいよパンク寸前
軽い気持ちでジンギスカンとシルルに言ってしまったけど、羊肉はマトンとラムでにおいが違うんだったなー。サフォーク種だったら成羊でもにおいもなく美味しくいただけたんだろうけど。乳牛が食用に適していないのと同じで。
私達が討伐した羊、顔とか黒くなかったし、サフォーク種じゃなかったんだろう、っていうか違ったのです。
マトン独特のにおいがあっても食べられるけど、ないほうが嬉しいのが正直なところ。
「血抜きしてるし脂も取ってるからにおいが減ってるけど、やっぱりゼロにはできないんだね」
血と脂がにおうんだ、知らなかった。大人になったら体質変わるぐらいに思ってたよ!
シルルに作ってもらったジンギスカンは美味しかったけど、前世どおりの味ではなく。当たり前なんだけどね。シルルさんは顧客満足度がMAXじゃないと許せないタイプなので、今後改良すると決意していた。
それはそれとしてお肉の量が(四十頭分)あるので、薄切りにして炒めたり、煮込み料理なんかにしてもらって食べることにした。シルキーは料理上手だからどんな料理も美味しい。
ジンギスカンじゃなきゃ絶対嫌だってことじゃないんだよね。前世を懐かしんだだけで、シルルが作ってくれるならマトン料理も美味しいに決まってる。
「そういえばマトンはステーキに向かないのかな」
骨付き肉をガブってしてみたい。トマホークですよトマホーク。骨付きリブロースステーキ。
できるよ? と言いたげな顔をしているシルルさん。頷いたり首を横に振ったりで意思表示してくれる。もういっそ◯とか×と書いたプラカードみたいなの渡しておこうかな。嫌がりそうだけど。
「できるなら食べてみたい!」
「肉肉しいですねー」
八歳児で時間を止めてるのもあって大量には食べられないんだけど、夢があるよ、骨付き肉に齧り付くの!
シルルがサムズアップする。
◯×プラカードは持ってくれそうにないけど、サムズアップはいつの間にか覚えてた。「いいね!」的に使ってくれてる。
今日はギルドに角の報酬をもらいに行く。
双子コーデをしてもらって、天狼に乗る。
「あ、何か必要なものある?」
シルルに聞くも、大丈夫だと首を横に振るので、いってきますと声をかけて馬車を出る。
夜中に羊毛を洗ったみたいで、朝から乾燥機がフル稼働してた。魔導石に魔力も補充したから私達がいない間フェルト作りやら料理やらを楽しむことでしょう。
「シルル、楽しそうだったね」
「念願の羊毛を入手したからね」
「前は機織りとか興味ないって感じだったけど、いつか欲しがりそう」
「わかる」
エレンと顔を見合わせる。
「……すぐにでも言いそうだから、あらかじめ用意しとく?」
「いや、道具にもこだわりがあるから、やりたいと言い始めてから購入がいいんじゃないかな」
「魔道具を欲しがると思う?」
いわゆる電動。動力源となる魔力持ち双子がおりますしね。
「うーん、どうだろうね。割とアナログ派だから魔道具じゃないほうが喜びそう」
「確かに。ミシンも足踏みだもんね」
そうそう、とエレンが頷く。
良い音なんだよね、足踏みミシン。カタカタカタ、と一定のリズムがシルルの部屋から聞こえてきて、よく眠れる。
「いつ言われてもいいように、お金を稼げってことですね」
「そうですな」
カメラが遠ざかるー。
いや! 頑張って稼げばいいのだ!
ギルドの建物に入ると、なにやらざわついていた。どうしたんだろう?
賢者くんが私達に気付いて寄ってきた。
「よぉ」
「こんにちは」
「こんにちはー」
「なんだかざわついてる?」
ギルドの事務員さん達がバタバタ走っているのと、あまり見たことのない制服姿の人もちらほら。
「最近移住者が増えた所為で食糧が足りないんだと」
連日の行列を目にしている者としては、さもありなんといった感じ。
「それに第三城壁の冒険者キャンプ場所じゃあ足りなくなってきてるらしくってさ、いよいよヤバいって話」
一時的な避難じゃなく移住を認めるとなると、城壁を増やさないとだろうけど。
「なるほど」
魔物暴走の被害から回復できてないって話だったもんなぁ。領主様からしたら元の場所に戻って暮らしてもらったほうがいいんだろう。それなのに王家が邪魔してるんだったっけ、確か。
「賢者くん、これ協力したらオレtueeeやれるんじゃない?」
「そう思ったんだけどさ、まだ実績の浅い賢者じゃ駄目だった」
世の中そんなに甘くなかった。
「むしろおまえらのほうがいけんじゃねぇ?」
「あー、お母さんのネームバリューかぁ」
「そそ」
確かにお母さんの名前を出せば話はできるかもしれないけど、まだできることも少ないひよっこ魔女なんですよねー。
「どういう理由で村を捨てているのかが分からないから、協力できるか分からない」
「どうもオークやらゴブリンに襲われて」
「よしやろう!」
「最後まで言わせろよ!」
ゴブリンやオークと聞いたならば、やらねばならぬのです!
念の為に依頼書を確認してみると、あるじゃないの、ゴブリンの巣討伐が!
ただちょっと場所が遠い。馬車を依頼された村の跡地で召喚すればいいだけなんだけど、そうすると今キャンプ場に設置している場所は他の誰かのものになる。領都の城壁の外でも、相手が私達の防壁を破れるほど強い存在じゃなければ問題ないんだよね。
「エレン」
「うん、私は大丈夫だよ」
依頼にない他のゴブリンやオークの巣を殲滅していくのもこの際あり。領都にはクルックさん達が住んでるんだから、彼らを守るためにも頑張りたいところ。ありえないけど、山を越えればお母さんがいる。お母さんなら負けないのは分かってるけど、そういう問題じゃないんだよね。
「待てよ、オレも行く」
「駄目」
「無理」
「なんでだよ」
「私達はこれまでいくつものゴブリンやオークの巣を殲滅してきてるけど、賢者くんはあるの?」
私の言葉に賢者くんは痛いところを突かれたという顔をする。
「乱戦になればお互いの攻撃を避けないといけなくなるでしょ。連携が必要。でもそんな余裕はないから」
「……だよなぁ……」
お、意外と素直に受け入れたぞ?
「無事に帰って来るよな?」
「勿論」
依頼書を持って受付に行く。
私達のやりとりが聞こえていたみたいで、受付のお姉さんはいいのかな、みたいな顔をする。
「その……こちらとしては大変助かりますが、こちら以外はお二人では受けられないランクですので、討伐を達成されたとしても報酬をご用意できません」
「大丈夫です」
ゴブリンとオークの殲滅はお母さんから厳命されているというのもあるし、被害を目の当たりにして、やっぱりアイツらはやっつけねばならんと心に決めてるからね。
それでも渋る受付の人に止めのひと言。
「母から命じられているんです」
「……分かりました。ですが無理なさらないでください。ゴブリンの集落の規模はかなりのもののようですし、オークは数がいれば熟練の冒険者でも手こずるほどです」
「ご心配ありがとうございます」
私達が引かないので、諦めたようだ。
ちなみに私達はゴブリンの耳を切り落として持ってくるつもりはない。そんなことをしている暇があったらゴブリンを燃やし尽くしたほうが早く次の場所に行けるから。
「少々お待ちいただけますか?」
なんだろう? 行くのを止められても行くけども。
待つこと十分。たぶんギルドの偉い人と思われる人と、見慣れない制服の人のいる部屋に通された。
「初めまして、アナベラ殿のお嬢さん達」
「初めまして」
「初めまして」
お辞儀をすると、椅子に座るよう促されたので、エレンと並んで座った。子犬サイズになってる天狼達は足元で丸まった。制服姿の人がマジマジと天狼達を見てる。
「ワシは領都の冒険者ギルドのギルマスを務めとる。こちらは領主様の補佐官だ」
紹介された制服の人が会釈をしてくれた。我ら子供の姿なのにね。侮ったりしないの好印象です。それにしても補佐官が直々に来てるとなると、領主様も本腰をやっと入れられる状況になったってことかな。王家め。既に感じ悪いぞ。
「ゴブリンやオークの巣討伐に行ってくれると聞いた」
「はい。でも討伐報告はできないと思います」
「ちまちまと耳なんぞ切ってる暇はない、という意味であってるか?」
ギルマス、話が分かる人ですな。
「今、ここには高ランクの冒険者がおらん。領都の軍を出すにしても直ぐには動けん。正直、魔女であるおまえさん達が動いてくれるのはありがたい。本来ならまだ今のランクでは受けられない依頼だが、特別指名という形で依頼させてもらいたい」
お? まさかの特別指名。
「ワシらギルドもな、四角四面にルールを押し付けておったら存続できんからな」
それは確かにそう。
「おまえさん達の馬車の後ろを、兵士数名が付いていき、討伐の邪魔にならん場所から見させてもらうことで、依頼達成の確認をする」
「分かりました」
「それでお願いします」
ドアノックの後、受付の人が入ってきた。書類をギルマスに渡す。ギルマスは書類を確認し、私達の前に置いた。内容は今聞いたものと同じ。
「ではお願いするが、構わんな?」
「はい」
「勿論です」
ギルマスの部屋にも受領用の魔道具があった。こういう特別依頼の時に使われるんだろうな。私達は依頼を受領した。
「出発は一週間後にさせてくれ。さすがに準備の時間が必要なんでな」
「一週間は長いです」
「そうなんだが、食糧の調達がな」
「何名ですか? 数人であればこちらで用意します」
「五名です」と補佐官が答えてくれた。
ちょうど大量の羊肉があるし、問題ないかな。
エレンを見ると、エレンが頷いた。
「食糧が準備不要となればいつ出発が可能になる?」
「明後日には」
ギルマスは二度頷くと、私達を見た。
「明後日の朝、ここに来てくれ」
「了解です」
「分かりました」
帰ったらシルルとファゴットに報告して準備せねば。
ファゴットが渋りそうー。でも行くよ!




