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それとこれとは別世界  作者: やまさん
第十二章
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53/54

「それ」 亜実

◆異世界コード『NGY1180』

*「それ」世界

*田島・亜実がいる側の平行世界


◆異世界コード『NGY1150』

*「これ」世界

*矢崎・望美がいる側の平行世界

 豊川は現場マンションで、救急隊員に応急処置を施された。肋骨部分は固定され、止血がなされている。とはいえ、病院への搬送を断るには不自然な状況だった。現地消防の丁寧な対応に、豊川は罪悪感を覚えた。

 病院へ搬送される道中で、「同行」の亜実と安藤は救急車を奪取した。交差点が信号待ちの車で詰まっていた際に、亜実たちは動く。ピストルを抜き、救急隊員に車から降りるよう告げた。豊川はストレッチャーに寝かされたまま、持ちこんだスーツ内からピストルを取り出した。

「いったい何のつもりですか!?」

 突きつけられた銃口を前に、救急隊員は戸惑う。しかしすぐに、亜実たちが本気だと悟り、運転手含む救急隊員と共に車から降りた。

「迷惑かけてすみません」

 世話になった豊川はそう言ったが、車道上の救急車から大急ぎで離れていく救急隊員の耳には届かない。後続車がクラクションを鳴らし、救急車の脇を通り過ぎていく。急いで離れなければ、現地民の通報で救急車の位置がバレてしまう。

「運転を任せます」

 亜実が安藤に言った。彼女は助手席に座り、車載端末を操っている。気休めだが、救急車のGPSをオフにするため。

「えっ? 私が運転を?」

「豊川さんは安静が必要そうなのでお願いします」

 亜実にそう言われ、安藤は恐る恐る運転席に座る。救急車の運転は当時が初めてだった。セダンやコンパクトカーの運転経験はあるが、ミニバン以上の大きさの自動車はほとんど運転していない。車庫入れを任せたくない手合いだ。

「あの、ぶつけても怒らないでくださいよ」

「乗り捨て前提なのであまり気にせずに」

 端末を操りながら亜実が言った。彼女は安藤の運転経験を知っていたものの、もう少しで終わる任務中の足として、安心安全は重視しなかったようだ。救急車に乗りこむ際にプリウスを放置した事と同じく、選択肢を淡々と選んでいる。

 シフトレバーやメーターに目を配る安藤を横に、スマホの通知を確かめる亜実。田島と柏崎を尾行した岡崎からメッセージが届いている。八王子駅の駅前で二人の姿を見失ったという悲しい知らせだ。ただ、見通しが効く所で駅の改札やホームを見張っており、あの二人が電車で逃げた可能性は無いとの話。

「サイレンを消し、八王子駅の南口へ急いでください」

 亜実は安藤にそう言い、岡崎には見張りを続けるよう返信した。また、別行動の久保には駅周辺を見張るよう伝えた。七月の猛暑日の炎天下、子供が徒歩で動ける範囲は広くない。万能でなくリスクはあるが(無論コストも)、街中の監視カメラを使い、田島を見つける選択も取れた。当日中に任務を終わらせる覚悟および計画のため、もはや隠密さは優先されない。マイクロマシンを回収した後、例の公衆トイレの「扉」を通れば、現地警察には捕まらずに済む。複合体オリジンの治外法権的な力で守られるのだ。現地日本社会は憤るが、それも一ヶ月足らずで鎮まった。オリジンとの立場は平等じゃない。

 八王子駅へ向かうべく、救急車は十字路の交差点でUターンする。トヨタのハイエースをベースに造られたハイメディックの救急車だ。そのため車体は、プリウスやカムリより一回り大きい。安藤のドライビングもあり、救急車は大きな半円を描く。救急車相手でなければ対向車はクラクションを鳴らしただろうな。よく見返すと、その交差点にはUターン禁止の標識があった。今さら、だから何だという話に過ぎないが。


 八王子駅南西にて、亜実は路肩にカムリを停めた久保を見つける。彼女は救急車をカムリの後ろで停めさせた。まだ無事故で済んでいることに、安藤は安堵していた。

 ちょうど久保はスマホで亜実に連絡しようとしていた。岡崎からは悪いニュースを届けられたが、彼のは比較的マシなニュースだ。

「二人はすぐそこの交番へ逃げこみました。無人じゃなく、警官が何人か詰めています」

 救急車よりも先に八王子駅へ向かえていた久保は、岡崎が見失った田島と柏崎の姿を、駅前で偶然見つけられた。ただ当時は車を走らせ、交番の前を通り過ぎるしかなかったらしい。前述した事だが、仮設のそこには警官三人がいた。お気の毒に。

「豊川さんに短機関銃を渡して」

 亜実がそう言うと、久保はカムリの荷室を開け、サブトランク部分から短機関銃をそっと取り出す。

「豊川の体はもう大丈夫ですか?」

「座ってなら撃てるはずです」

 久保は荷室から短機関銃の予備マガジン二つも取り出し、救急車の後ろへ回った。

「戦えそうかい?」

「血は止まってる。威嚇射撃ならできるよ」

 車内のストレッチャーに座る豊川が言った。彼は短機関銃と予備マガジンを受け取ると、「いつでもいける」と久保に言った。久保はストレッチャーの固定を確かめた後、亜実の方へ戻る。

「岡崎がじきにこちらへ向かっています。彼がきたらすぐ交番へ」

 久保と安藤に亜実が言った。

「すばやく制圧できても銃声で警察きますよ? さっきの爆発でピリピリしてるでしょうし、流しのパトカーをもう呼ばれてるかも」

 遠くから聞こえるサイレンに耳を傾けながら、久保がそう言った。

「私と豊川さんで交番前を守ります。一人も通させません」

 安藤は救急車を盾代わりに使うことを提案した。カムリの車体も用いれば、道路の両方向を警戒できる。また、救急車の赤色灯を点ければ、一定の目晦ましになる。

「じゃあ頼むわね。回収道具はすぐ使えるようになってる?」

「先に電源入れておくよ。ただ自分一人でターゲットを押さえつける自信は無いから、あなたか岡崎にそれを頼みますよ?」

「わかったわ。交番を制圧後、岡崎に手伝わせるから」

 亜実がそう言うと久保は納得し、カムリに乗りこむ。助手席上のアタッシュケースを開け、マイクロマシン回収機の電源を入れた。前日までの待期期間で久保は回収機の取り扱いを暗記し、本番では速やかに使えるように練習していた。しかしながら、ターゲットが動かず、落ち着いた状況を前提とした練習に過ぎない。まあ、電源を入れておいたおかげで、数秒分はマシな展開につながったか。

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