72話A 思わぬ拾い物をしたのじゃ!
最初Bを描きましたが、展開に誤りがあったので書き直したのがこれとなっております。
Bは消すのが惜しいのでBとして残しておきますが、あくまでオマケのようなものです。あしからず。
人身売買の描写があります。気を付けてください。
さて、あれからしばらく経つ。すっかり冬である。
まず夏ごろに知り合ったヴォーバン達の土木学研究室兼建設技術開発室兼機械工学研究所であるが、妙な事になっている。
まず、私がゲルデ・シュレッターに手紙を出す。そして数日で転移魔法でこちらに来た。
高い金を払って来たらしいが、それより驚いたのは、ゲルデがこの学園要塞の先生の一人であるクリスティアナ・ホイエンヌなる女性教師と友人で、そのクリスティアナに遺品の設計図の写しを渡していたり等していて、一悶着あった。
「いや、私専門は天文学なんですけど」
そういってはいたが、既に設計図に書かれていた火薬の爆発で運動を機械に伝える機械、通称『火薬機関』の試作品を作っていた。
話合いの末、そのまま土木学研究室兼建設技術開発室兼機械工学研究所の三人組と共に開発を進めるという事が決まった。
「いや、でもこれ研究するとか金掛かるわよ」
「マウテリッツ殿やクラリエルに出資させるのじゃ」
「え、そこの従者の子に?」
「うむ、こう見えてクラリエルは経営者なのじゃよ」
そう、かのガストビ商会の件であぶれた奴隷の子供を従業員にする為のあの料理店の経営者はクラリエルなのだ。
出す料理は宮廷料理の残飯。しっかり焼き直すし、足したり切ったりして見てくれは整えている。
残飯と聞いて身構えるかもしれないが、物はそこらの飯の食いかけではない、文字通りこの国最高峰の食事である。例え残飯でも食べてみたいという者は多い。なので連日行列ができてちょっとしたブームになっている。
そんな訳で利益を少し回すことができるのである。
さて。
前回、公園で読書しながらタピオを食べて、帰路へ着いた訳であるが、その道中に思わぬ拾い物をしたのだ。
あれは帰り道、乗り合い馬車を使用しましょうというクラリエルの提案に「いや、歩こう」と言って歩いて帰っていた時の事である。
「た、助けてください!!」
そういって裏路地から助けを求めてきた女子がいたのである。
本来ならこういう助けはほおっておく。
当然である、ディバタールのような人口の多い都市である。痴話喧嘩も当然比例して多いので、いちいち気に掛ける事もないからである。
しかし、今回ばかりは話が違っていた。
薄桃色の髪、ホビエルフ特有の低身長と長耳。そして赤い瞳。
そう、痩せていて肌艶も良くないが、私に顔が似ていたのである。
もう三人ともびっくりである。
「あれ!?私に似てる!?」
助けを求めた女子本人もびっくりする始末である。
「ああ!やっと追いついた!お願いだから逃げないでくれっ!って二人に増えてる!?」
女子を追って来たであろう男……革製の鎧に貴族の所属を示す布がオシャレが特徴的である。
その布やファッションに見覚えがある。忘れもしない。
「お主はマウテリッツの兵か?」
そう、マウテリッツの兵、しかも割とマウテリッツ殿の側に控えている側近3であった。
何度も見覚えがある。
「おお?!! お、オドレイ様!?何故こんな……あ、いや、これは、その」
側近3は居る筈のない私に遭遇してしまい、どう説明していいかわからない様子であった。
それにしても顔が良い。マウテリッツとは違う良さがある。というか現世で言う処の『いけめん』という奴である。
「ちょっとまって。お兄さんさっき私に『さる貴族様のお嬢様に顔が似てるから来てくれ』って言ってたけど、ひょっとして、この人の事?」
女子が言う。
うむ、確かにさる貴族様でお嬢様ではある。聊か位が高い気がするが。
「そういう事になる。なぁ本人もいるし、一緒に来てくれないか? オドレイ様もご一緒に」
側近3はそう言って私達も誘う。
「嫌なんだけど……」
「拒否権があると思うのかの?」
女子の言葉に笑みを浮かばせて逆に尋ねる。オレイユは足が速いから逃げおおせるのは無理であろう。
「なんか喋り方変だこの子?! 私この子の影人なんかやだあ~!」
「オドレイ様をこの子呼ばわり!?」
「まぁ庶民と言えばこの程度であろう? そういう事だ。マウテリッツの処へ連れて行って欲しい。ええと……名は……」
さて、先ほどから側近3と言っていたが、肝心の名前が思い出せない。
「マーティアス・レマー。マーティアスとお呼び下さい。オドレイ様」
「うむ、よろしく頼むのじゃマーティアス」
そうそう、マーティアスであった。うむ、覚えた。
「語尾にのじゃが付くとかおかしくない?」
「あまり口が過ぎるともう一か所口を開けますよ?」
女子の言葉にオレイユが静かな怒りを燃やすのを目尻に、私達はマーティアスの案内でマウテリッツの処へ案内された。
「なるほどの。こやつが私に似ているから、マウテリッツが確保しようとしていたとはのう」
場所はマウテリッツの屋敷である。少し距離があったので馬車を使用した。
「でもまさかオドレイと一緒だとは思わなかったぞ」
そうマウテリッツは笑って答えた。
「しかしまぁ。なんだ。こうしてみると。化粧と肉付きさえしっかりしてれば本当に見分けがつかねぇな」
続けて、まじまじと私と女子を見比べるマウテリッツ。
「そうでしょうか」
クラリエルは不満げである。私に似ているというだけで不機嫌そうである。
「これ、どういう状況?」
女子は不敵にも態度が大きい。だがよく見るとどうなるかが不安で仕方ない様子である。無理もない。
「すまねぇな。お前の親父さんと話付けねぇとなんだ。もう少し待ってな」
「うん、まぁそうなんだけど、ウチのオヤジは飲んだくれでさ……安酒を毎日浴びるように飲んでるから……うん……」
そう言って心配そうにする女子。
オヤジ。と言うところを見るに、どのような家庭で育ったかが分かるというものである。
……最も女子だと言うのに清潔さのカケラぐらいしか感じられないのを見るに、そういう家庭なのだな。とは理解できていた。
「お、来たか?」
マウテリッツがそう言うと、マーティアスが知らせに来る。
「この部屋で待っていましょう」
オレイユが何かを察して私とクラリエルをけん制する。
「よい、マウテリッツと共に行くのじゃ。全てを見届けねばのう……」
とりあえずクラリエルはここに残す。
恐らくとんでもない修羅場になるであろう。
そんな訳で私に似てる女子の父親がいる部屋へ向かう。
「離せ!くそっ!一体なんだってんだ!?」
そんな怒鳴り声が部屋の前で聞こえる。
「オヤジッ……」
「あっ!? お前ッ!何したんだぁ! あ〝!?」
入室し、女子の一瞬の希望と失望を見た顔とその父親が見せたキレてる声が印象的であった。
「キレてんじゃねぇぞ。親父さんや。ガキの前で恥ずかしい真似してんじゃねぇぞ」
マウテリッツがドスの利いた声で飲んだくれの男を黙らせる。
「な、なんの用なんだよ……お、俺の娘が何をした……いや、何をしてしまったのでしょうか?」
流石の飲んだくれも、状況を飲めたらしく、酔いがさめていくのが見て取れた。
「まぁ。なんだ。お前さんの娘さんがな。俺の嫁に似てるからな。彼女を買いたいんだ」
ドスの利いたまま喋るマウテリッツ。
俺の嫁とはなんとも恥ずかしい言葉である……照れる。
「えぇ!? そんな……い、いや、む、娘は売れねぇ。これでも俺の娘なんだ。幾ら積もうが……」
「もちろんタダじゃねえ。それに今は人手が足りなくてな。お前さんのような男でも必要なんだ。色々と使ってやるよ」
「だ、だから娘は売れねぇって……!!」
そう言って渋る女子の父親。
「ほら、これでいいか?」
ドサリ。とマウテリッツが机の上に重い袋を置く。ちらりと見えるが中身は銀貨。あれ程の量なら軽く庶民半年分の資金であろう。
「あっ。へ、へへ……あ、じゃねぇ!だから幾ら積もうがっ!!」
「今ならお前ごときがのめねぇような酒樽も付ける。酒好きのお前にはこれの方がいいだろ?」
そう言って屋敷の使用人が樽を運んできて、男の前に置く。どうやら事前に父親の酒飲みを調べていて、用意していたようだった。
酒樽を出された瞬間、男の目つきが変わる。
「な、中身は入ってるんだろうなぁ!!?」
「ああ。もちろんだ。どうせどぶろくやら米酒しか飲んでないんだろ? しっかりした酒だぜ、それ」
その言葉に男はそうたじろぎ、そして娘をちらりと見る。
ちなみに、意外と思うがこのディバタールでは米酒は安酒として出回っている。少量でも簡単に酔えると好評らしい。
「オヤジ……」
女子の悲しそうな声が悲しい。
「へ、へへっ。これだけありゃあ……」
だが、すぐに視線を戻すと樽に手を伸ばす。
「おい!結局お前は娘を売るのか? 売らないのか? どっちなん」
「売りますぜ!貴族の旦那あ!!」
マウテリッツが言い終わる前に男はそう高らかに宣言する。
こうして、私は『自分に似ている女子』という思わぬ拾い物をしたのである。
つづく。
「さて、お主に名を付けねばならねばのう」
もうすっかり夜になり、クラリエルと「これ明日も休みじゃないと学園に怒られる案件ですよ」「まぁ今日はここで泊まるのじゃ」等と話ていたが、諸々の手続きを終えた女子を見て、話を切り出す。
そうしないと、今にも泣き出しそうな様子であったからだ。
無理もない。良い家庭ではないとはいえ、実の父親に売られたのだ。
……我も似たようなものである。いや、今にして思うとそうではないとは思う。要は京での滞在費や教育費払ってもらってた訳だし。
「私の、名前? 私の名前は……」
女子は自分の名を言おうとする。
「いや、私が決める。……そうじゃの。栴檀というのはどうじゃ?」
「せ、せんだん?」
「確か……長安大陸におけるメリアの樹の名前でしたね?」
不思議そうな顔をする栴檀を目尻にクラリエルは思い出すように言う。
「うむ、じゃから栴檀じゃ」
「しかしオドレイ様。ここは長安大陸ではなくミイソス大陸のエルディバですよ。あまり馴染みのない名前は良くないかと」
「むう。では素直にメリア・アゼダハラにするとするかの」
それでも日ノ本みたいな名前である。安瀬 田原、畔田原 元頼とか。いそうである。
「よりにもよってメリアの樹の正式名称かよ。オドレイらしいなぁおい」
そう言って笑ってみせるマウテリッツ。
「そういう事でよろしく頼むのじゃ。メリア」
「え、あ。は、はい。よろしく……お願いします。……お、お嬢様?」
そうやって不慣れそうに頭を下げる栴檀。
色々と教える事が多そうである。
つづく。
拘りのポイントは誰一人として栴檀の本名を呼ばない・言わせない処です
遅くなりましたが、次回は22日辺りを予定してますが、やはり数日ズレそうですね(諦め
※改変に至り、感想欄にあったL田深愚氏の「安瀬田原とか日本人の名前みたい」という言葉に感化されて入れさせて頂きました。




