91.わかってしまった
ちょいとダークです。
『ダメ、×××を置いていくなんて!?』
『×××、しっかりしろっ!』
何か、聞こえる。
知らないはずなのに、どこか、聞き覚えのあるような……
『に、げて……………………………………………』
――――――――――――――――――――――――
「うわぁぁぁぁっ!?」
[どうしたのですか、レクト。]
時刻は夜中の2時。
僕の悲鳴が宿全体に響き渡る。
「なにか、悪い夢を、見た気がするんだけど……」
[観測失敗。レクトが夢を見ていたという記憶は残っていません。]
そう言いながらはぁ、はぁと息を整えていると、隣の部屋から壁をドンッと叩かれる。
「わっ、ご、ごめんなさい……」
僕は小声で起こしてしまっことを謝ると、こっそりと宿の外に出た。
**
さっきので完全に目が覚めてしまった僕は、曇った空を見上げながらぼーっと村を歩き回る。
「久しぶりに悪夢でも見たのかな……すっごい汗。」
どうせ鏡魔法で映し出した寝巻きなので洗濯やらの問題はないのだが、もう一度寝るあたって少し面倒だがもう一度寝巻きは映し出したほうが良さそうだ。
正直、ベタついて気持ち悪い。
「まぁ、たまにはそういう日もあるか。
宿の人には悪いことしちゃったけどね……」
そんなことを考えているとちょうど睡魔が襲ってくる。
宿に戻ってもう一度寝よう。
そんなことを考えて、宿への道をふらふらと戻っていた時だった。
『………が……!』
『…………がう……………な。』
こんな夜中なのに、どこからか話し声が聞こえる。
(こんな夜中に?声が聞こえるのは……あっちの方かな。)
ただ晩酌の延長でこの時間まで話しているだけというなら特に問題はない。
しかし僕の勘が、何か怪しいと告げている。
(ちょっと行くだけならいいよね……)
街から少し離れた村だからなのか、道に魔力灯は最低限足元が見えるくらいにしか置かれていない。
念のため改良を重ねたことで魔力消費が大幅に削減された幻鏡を使い、透明になってから声のする方へ近づいていく。
そしてたどり着いたのは村長の家。
窓から見た時中で灯りはついていないが、間違いなくこの家の中から話し声が聞こえてくる。
罪悪感を覚えつつも壁に耳を当てると、映鏡を使って自身に身体強化をかけ、中の会話を盗み聞きしてみる。
すると聞こえてきたのは村長の娘の声と、不気味なオーラを感じさせる何かの声だった。
『何が違うというの……わたしは約束を守りました!父を……いえ、村長を返してください!』
『いえいえ、あなたが報告を怠ったせいで私たちは仲間を1人失ったんですよ。
もっと働いてもらわないと割に合いませんねぇ。』
『っ本当にあと一つですよ。それで村長と村が守れるなら……』
(……そっか、そうだったのか。)
少ししか聞いていないが、誰と、何を話していたのかは、なんとなくわかった。
いや、わかってしまった。
そして、今僕がやるべきことも。
『それじゃあくれぐれもバレないようにお願いしますよ。バレたなら、その時は……』
『……わかっています。』
その言葉を最後に会話は途切れ、裏口で窓が開いた音がした。
僕は急いで屋根の上に跳び、夜闇に紛れて飛んでいく存在––––魔族を視認する。
「メモ、いくよ……映鏡×10000。」
[演算処理完了、展開します。]
僕にしては、驚くほど冷たい声がでた。
最近教科書で読んだ、魔族についての一文にはこう書かれていた。
『はるか昔、魔王軍との戦いの最中。
魔族と戦って死んだものは、恨みらから化けて出て人を襲う、という言い伝えがあったという。
しかし最終的にそれは魔族の卑劣な魔法、魂喰偽化によるものだというのがわかった。
この魔法の効果は––––––』
(死した人の魂を喰らい、その姿を模倣すること。)
湖での魔族。
村長の姿と声で近づいてきた魔族が、村長の姿になれたのは何故なのか。
最初は相手が使っていたであろう未知の魔法、闇属性魔法によるものかと思った。
だが、違った。
だとしたら帰ってきた際に僕が魔族の亡骸を渡した村長は、いったい誰だったのだろうか。
答えは簡単。
目の前で飛んで村から離れて行っている魔族だ。
湖で殺した魔族だけではない。
あの魔族もまた、村長の魂を喰らっていたのだ。
飛んでいく魔族の周りを、数千もの魔力壁で出来た円球が囲みこむ。
『グッ、なんなんだ。
一体何が起こって……な、これは圧縮結界!?
こんな高等魔法がなぜこんなところに?いや、私が閉じ込められているというのか!?』
「うるさいなぁ……まぁいいか。
魔族から魂を喰らわれ死んでいった村長さんの痛みを、今ここで知れ。」
そう言って打ち出されたのはこの暗闇ではほぼ不可視の刃となる、昼間の魔族の翼を切り裂いた風刃––––を1000。
自分でもわかっている。
あの状態なら遠距離から風刃を数発当てれば相手は耐えられないということを。
だからこれは、打算はあっても確かに心配しながら僕を湖へと送り出してくれた、そんな村長さんを守れなかった自分への怒りと、ただの、八つ当たりだ。
「さっさと、死ね。」
『やめろぉぉぉぉぉぉっ!?』
瞬間、空中で赤い爆発が起きた。
魔力灯 魔力で光るこの世界でいう街灯。




