89.不意打ち
「うわぁ、これ、どうするの……」
[少なくとも当初の基準であったBランクパーティで処理できる範囲は超えています。]
何度かの戦闘を終え、僕はようやく川の源泉となっている湖に到着した。
あとは依頼された通り水蛇を殲滅すれば依頼達成だったのだが、少し問題が起きた。
前調査では100匹ほどとなっていた水蛇なのだが、今見えている範囲で軽く1000匹は超えているように見える。
「依頼出してから1週間くらいしか経ってないはずなのに……繁殖力が元から高いのかな?」
[いいえ。瘴気水蛇の繁殖は1年に一度で間違いないはずです。]
「じゃあなんで?……ま、気にしても仕方ないか。
パパッと終わらせちゃおう!」
ここがまだ森の中だったのなら諦めて帰らなければならなかったが、幸いにもこの湖の周りは木々がなく開けているためあの魔法を使うことができる。
「まとめて消し飛べっ––––映鏡!」
映したのは僕が写している中での範囲魔法最強格、竜巻。
突如湖に出現した暴風は一瞬にして水蛇達を巻き上げ、終わった頃には手前付近にいた水蛇は全て動かぬ骸となっていた。
「この調子でどんどんいくよー!」
その後湖から追加で数百匹の水蛇が出てくるハプニングはあったものの、なんとかあんなにいた水蛇を全て倒しきることができた。
**
ようやく数千もの水蛇を倒し終わった僕は、ようやくフーッと息を吐き出す。
魔力消費はそんなでもないのだが、咬まれないように気をつけながら数千匹を相手するのはさすがに精神的にキツいところがあった。
「あとは帰るだけ…………で、あって欲しかったなぁ。これ、どうすればいいの……?」
僕の視界に映るのは、湖の底に描かれた大きな魔法陣。
その魔法陣からはいかにも何かありそうな瘴気が漂っており、どう考えても異変の原因にしか見えない。
「今まで水蛇に埋もれて見えてなかったんだろうけど、見ちゃった以上は調査くらいしてから帰るのが筋だよねぇ。」
[魔法陣は人工的に出来ることはありません。
これに関われば何かの策略にハマってしまうかもしれませんよ?]
「それもそっか……いや、でもなぁ。」
どうしても答えが出せずに悩んでいると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。
「あの〜、Bランク冒険者様。
何か見つかりましたでしょうか?」
「あれ、村長さん?」
振り返ってみるとそこには村にいるはずの村長が、不安げにこちらを見つめていた。
[現状分析中––––]
「あの、それで何か見つかったのでしょうか?」
「えっと……あの湖の底に原因らしきものを見つけたんですけど」
「ほ、本当ですか!?それはどちらに……!」
「あっちから見るとよく見えますよ。」
村長がなぜいるのかという疑問は残っているが、とりあえずは案内してから聞こうかな、なんて思いながら足を進める––––その時だった。
[––––分析終了。レクト、罠です!]
「え––––?」
「黒槍。」
メモの声から少し遅れて、後ろで魔力が膨れ上がるのを感じとる。
咄嗟に回避行動をとると真上を黒色の槍が通り抜けていき、槍は軌道にあった木々を豆腐のように貫いた。
(あっぶな!?メモの声がなかった今頃……)
[レクト、追撃が来ます!]
「黒鎖。」
「っ映鏡!」
僕を絡め取ろうと向かってくる黒い鎖は、ギリギリで展開した魔力壁に阻まれ『ジジジジ』と音を立てて消滅する。
「ちっ、人間ごときが煩わせやがって!」
「っ!?魔族!?」
距離が離れ何が起こったのか把握すべく顔を上げると、そこにはここにいてはいけないはずの、不気味な角に黒色の肌を持つ存在––––魔族が立っていた。




