83.【フォーマー】(レミー視点あり)
初めての授業は終わり、生徒は寮に帰っていく。
そんな中、僕とレミー、そして別クラスで授業を受けていたアルマは廊下の隅に移動して、さっき件について話していた。
「……なるほどね。もしそれが本当だとしたら、かなりの大事になるわよ。」
「そのとおりだよ。世界指折りの魔法師が教師として集まっているこの場所で、まさかこんな事が起こるなんて……」
2人の話を聞く限り僕の思っていた以上にこの件は大事らしい。
僕なりに2人の話をまとめると、問題はこの国の大物達が集まるこの場所に、教師含め誰も感知出来ないルートで侵入できてしまう何者かがいるということだ。
これは今の『貴族学院の中は安全』という貴族達の信頼に関わる問題で、これが公になれば貴族学院の権威は失われることになるだろう。
「とりあえずこのことは3人だけの秘密にしましょう。」
「私もそれでいいと思うな。どこに侵入者の目があるかわからない状況だからね。
レクトもそれでいいよね?」
「うん!とりあえずこのことについては進展があったら報告するようにしよっか。」
こんな爆弾を初日から––––しかもメモがいない状態で背負わされるなんてつくづく運がないなぁと、どこか楽観的に考えるレクトであった。
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(レミー視点)
レクトとアルマの2人と別れると、私は手がかりを元に女子寮の、ある人物の部屋へと足を進めていた。
「さっきの話の女の子って、レクトから聞いた特徴的におそらくだけど……」
緑髪でお喋り。そんな特徴を持っている人物を、私は1人知っている。
「レ––453……ここがマテオン男爵家の一人娘、マテオン・リリーの部屋。」
マテオン男爵家、階級も低く歴史も浅い、特に気にすることもない貴族家の内の一つ。
実際私はこれまでマテオン家とは直接的な関わりはなかった。
しかしそんなマテオン家には、一部の人しか知らない裏の顔がある。
『チリン チリン』
「はーい……って、次席のレミー様じゃないですか!?
どうしたんですかこんな男爵家の娘の元にわざわざいらっしゃるなんて……」
「こんな、ねぇ。
揃えていない情報はないとすら言われる、貴族なら誰もが知る情報屋––––【フォーマー】を持つ貴族家に、私はそんな言葉は使えないわね。」
マテオン家は2年前まで、名もしれない田舎貴族の一つだった。
しかしいつからか社交界に情報屋【フォーマー】の名が知れると、同時に浮上してきたのがマテオン男爵家の名だ。
なので貴族達はマテオン男爵家が【フォーマー】を所有していると思っている。
「……なるほど、ご依頼でしたか。
ですがそれは私の領分には入っていないので、両親の方まで掛け合ってもらえすか?」
「いえ、用があるのはマテオン・リリー、あなたよ。」
しかし私は、偶然にも目の前にいる彼女の裏の顔を知っている。
「私に?なんのご用でしょうか?」
「正確にはあなたの裏の顔である、【フォーマー】の頭––––【シャドー】にだけどね。」
そう言った瞬間、彼女の部屋から2人の女生徒が飛び出して私を拘束しにかかる。
突如として、生徒とは思えない速度でレミーに迫る彼女らの不意打ちを避けるのは不可能。
そう思ったのは不意打ちを仕掛けた彼女らだけでなく、マテオン・リリーも同じこと。
しかしそんな甘い考えは、次の一瞬で弾け飛んだ。
「危ないわね。部屋から出たいなら言ってくれればいいじゃない。」
「っ!?なんで……」
倒れていたのは不意打ちを仕掛けた側だった筈の2人。
逆に仕掛けられた筈の当の本人は、倒れるどころか無傷でそこに立っている。
「……どうやって防いだんですか?」
「冒険者活動で散々鍛えた不意打ち回避テクニックを舐めないことね。
それとも、私が冒険者になったっていう情報すら掴めてなかったのかしら?」
冷静さを欠かせるため少し煽ってみるがリリーが冷静さを欠くことはなく、こんな状況でもまだ希望を失っていない目をしている。
……やはり早めに伝えておくべきだろう。
「そんな情報知ってましたよ。でも少し想定より強かったってだけで……」
「時間を稼いだって増援はこないわよ。」
「っ!?」
この言葉で初めてリリーのポーカーフェイスが崩れる。
「……なんのことでしょう?」
「隣の部屋と奥の部屋にいた6人はもう風魔法で気絶させてるわ。
これ以上の対話は無駄だと思うのだけど。」
「……そうですね。」
その言葉が本当だとわかったのか、リリーは完全にポーカーフェイスを崩し、諦めたようにため息をついた。
「それで、何が目的なの?」
「目的というより警告よ。あなた、今日の授業が始まる前の記憶はある?」
その質問にリリーは「何を当たり前のことを?」と言わんばかりに首を傾げたが、しばらくすると次第に顔色が悪くなっていく。
「ありゃ、私、これでも記憶力には自信がある方だったんだけどなぁ。」
「気をつけなさい。あなた、狙われてるかもしれないわよ。」
実際狙われてるというレベルを超えて体を一時乗っ取られているようだが、そこまで伝える義理はない。
「わざわざ忠告ありがとう。
……最後に一つ聞いてもいい?
私の正体が、なんでわかったの?これでもうまく隠してたつもりだったんだけど……」
伝えることは伝えたので自室へ帰ろうとすると、去り際にそう問われる。
私は本当のことを話すか少し悩んだが、まぁいいかと微笑して言った。
「あなた、私と一回会ってるわよ。少し前、馬車の運搬の依頼の時に……」
そこまで言うと相手はようやく気がついたようで、恥ずかしそうにお辞儀をして、私を送り出してくれた。
「……あの子、おそらく視察かなんかで来てたんだろうけど、護衛もつけず魔物に襲われ、しかも焦った拍子に【フォーマー】の印章を落とすって……考え直してみれば案外ポンコツなのかしら?」
それが調べると幹部の印章だったのと、持っていたのが私と同じくらいの少女だったので、すぐに彼女だとわかった。
そんな偶然の出会いが今ここで役に立ったのだから、人生何があるかわからないものだ。
レミーの馬車の運搬の件については気が向いたら書きます。
リリーの口調がコロコロ変わっていますが、レミーと最後に話してる時らへんの口調が素です。




