81.不吉な気配
入学式の翌日。
「ここで、あってるよね……?」
煌びやかな制服に身を包んだ僕は、朝のクラス分けで指定された教室へとやってきた。
「ここであってそう––––なんというか、他と比べて地味だね。」
「正直はいいことだけど、場所は考えた方がいいと思うわよ。」
隣にいたレミーから呆れ気味に言われるが、実際寮などの他の施設より見劣りはするのだ。
「ここが5年間の学院生活で一番使う場所だと思うんだけどなぁ。」
「まあそれはそうでしょうけど、こんな実習にも使う場所を豪華にしてどうするのよ。」
「……確かに!」
考えてみればその通りかも。
せっかく豪華に飾りつけても、魔法で壊れてしまったらお金の無駄遣いだからね。
「レクト、遅いわよ?」
「あ、ごめんレミー。」
考えている間にレミーは教室に入るところまできている。
急いで追いかけて、レミーに続く形で教室に入ると、教室の視線が一斉に僕達に向いているのがわかった。
『あれが実質首席のテルペト・レミーか。』
『後ろについているのは誰だ?見たことない顔だが。』
『もしかして例の平民なんじゃ……』
同じクラスの貴族達の視線は、僕達を品定めしているかのように感じる。
微かに聞こえてくる声を気になったので身体強化で聞き取ってみると、だいたいの貴族が僕達に好奇心に近い感情を抱いていることがわかった。
(本当にレミーと同じクラスで良かったぁ。)
[友達を隠れ蓑にするのは倫理的にはどうなんでしょうか。]
メモから冷静な指摘が飛んでくるが、実際レミーがいなければ注目を全て浴びてたのは僕だったはずだ。
レミーに心の中で感謝しつつ指定された席について授業が始まるのを待っていると、後ろの席にいた女貴族に話しかけられた。
「ねえねえ。違ってたら悪いんだけど、もしかして君って昨日アルマと一緒にいた子?」
「?はい、多分そうだと思います。」
そう言うと緑髪の小柄な少女はパァァと笑顔になり、興奮気味に僕に質問をしていく。
「ねえねえ!アルマとレミーとはどんな関係なの?あとどこで知り合ったの?あと、あと……!」
「そ、それは……」
いきなりの質問攻めに言葉を返せずにいると、目の前の緑髪の少女はどんどんヒートアップしていく。
「どうしてそんなに親しげなの?仲良くなれた秘訣は?あと……」
「だから、えーっとね……」
僕は、どう返そうかな、なんて必死に頭を働かせる。
そんなことをしていたから、すぐに周りの異変に気づかなかったのだろうか。
いきなり目の前の少女の雰囲気が変わった。
「さっきから使ってるその魔法は何?」
そんな少女の言葉と共に、僕の浮ついた思考は一気に目の前の少女への警戒へと変わる。
なぜならそれを言った少女の目はさっきの楽しそうなものではなく、まるで獲物を見つめる狩人の目だったからだ。
「……何のこと?」
「あ、誤魔化すんだ……まあ、普通の人間じゃ身体強化を使ってるのなんて気づかないもんね。
まあ、そんなことはどうでもいいや。」
そう言う少女は、最初と同じように笑っているはずなのに、僕の目にはもう、冷たくこちらを見つめる狩人の笑みにしか見えなくなっている。
「まあ君はすぐには………………とりあえずレクト君、これから仲良くしようね!」
「お前、なんだ?」
さっきとは明らかに違う異質な魔力を放つ少女は、もはや最初の明るい少女とは別人。
警戒しながらこの異常な状況を察せられる可能性がある人物––––魔力感知が使えるレミーに助けを求めようと後ろを見るが、なぜかレミーがこちらに気がついている様子はない。
なぜかと思いよく周りを見てみると、あの時と同じように白いモヤ––––つまり霧が教室に発生していた。
(なんで、なんでこれがここに!?)
「あれ、もう時間か。
まあ今日は成長具合も見れたし、このくらいにしておくよ。
また会おうね。」
そんな言葉が聞こえて少女に視線を戻すと、異質な魔力は弾けるように霧散していき、同時に教室に発生していた霧も消えていく。
残されたのは、『スーピー』と寝息を立てる少女だけだった。
平和な章にするつもりだったのに、どうしてこうなった?




