3.メモ
「……映鏡」
そう唱えた瞬間、世界が揺れる。
まるで今レクトが行おうとしていることをこの世界自体が拒絶しているような、そんな感覚だ。
だがその揺れに必死で耐えていると次第に揺れは収まっていき、最後に大きく揺れたかと思うともうこれ以上何かが起こることはなかった。
「––––終わった?結局何だったんだろ?」
これだけ反応があったんだから、流石に何もないというわけではないと思うんたけど……
今起きたことを整理しようと考えていると、いきなり頭の中から声が聞こえてきた。
[記憶整理––––完了。
初めまして、マスター。]
「わっ!?」
「誰!?」とか、「なんで!?」とかの疑問が真っ先に浮かんだが、冷静に考えてさっき使った魔法が原因かと思い至る。
「初めまして。
あなたは……誰ですか?」
僕はなんとか平静を取り戻して、今1番知りたい質問を相手にぶつける。
[私はマスターの魔法によって、記憶の中に残った意思から生まれた存在です。]
つまりあの魔法が成功したことで、この頭の中の声は生まれたようだ。
「つまるところ、あなたはあの記憶の持ち主さんってことであってる?」
[いいえ、私はマスターの記憶に意思が芽生えた存在です。
おそらく関係はないかと。]
てっきりあの記憶の持ち主がそのまま再現されたのかと思ったが、どうやらそういうことではないらしい。
「まあいいか。
それで、あなたに感情はあるの?」
[私に感情という概念は存在しておりません。
出来るのは記憶の整理や魔法の補助などです。]
まとめると、頭の中の声は僕の記憶から生まれた存在であり、現実世界に干渉するようなことは出来ない。
そのかわり魔法の補助や記憶の整理など、間接的な部分でなら手伝ってくれるみたいだ。
「じゃあ、最後に。
あなたの名前は何?」
記憶の世界での記憶のおかしなところは感情がない以外にもあって、この記憶の持ち主の名前がどこにもないのだ。
まだ完全に全部見たわけではないが、5年間で一回も出てこなかったのは流石に違和感を感じる。
[検索中––––私に固定の呼び方はありません。
マスターが好きなようにお呼びください。]
「それってこの記憶の世界の記憶の中に一つも名前がないってこと?」
[はい。]
やはり名前自体の記憶が存在していなかったようだ。
「ま、一回この話は置いといて……
あなたの名前を決めないとね!」
おそらくこの頭の中の声はどんな名前をつけてもその名前を使い続けるだろう。
しかしせっかくつけてあげるのだったらいい名前をつけてあげたい。
「メモリー、メモリ、メモ……
よし決めた!今からあなたの名前はメモだ!」
[はい、マスター。]
メモリーからもじっただけだが中々いい名前なのではないだろうか。
メモ帳?なんだいそれは。
[これからはマスターのお役に立てるよう頑張ります。]
「マスターはやめて。
僕のことはレクトって呼んでね!」
「はい、レクト。」
こうして色々ありつつも、僕に頼もしい相棒ができた瞬間だった。
[ ]はメモが喋っている言葉です。




