4.冒険者になろう
僕が記憶の世界から現実に帰ってきたのは、ちょうどお昼の鐘がなり始めた頃だった。
「ふ〜、帰ってこれた!
さて、どうしようかなぁ……」
メモが生まれたのはいい事だが、結局働ける場所を探すという事に関しては何も進展がなかったので、状況はふり出しに戻ってしまった。
「そもそもここまで考えて何もないとなると、目標が無茶なのかもしれないなぁ。
一回考え直してみようかな……」
レクトがそう目標を諦めかけた時、早速頭の中に声が響いた。
[思案中––––冒険者組合にいくことを提案します。]
「おお!ありがとう––––って、冒険者組合?」
[はい、その通りです。]
「えーっと、冒険者組合っていったらあれしかないと思うんだけど––––だとしたら、なんで?」
[レクトの出した3つの条件、お金、地理、働く場所、の全ての条件に当てはまります。]
「いやそういうことじゃなくてね?」
さっきから話に出ている冒険者組合だが、簡単に言うと戦ってお金を稼ぐ場所だ。
そして僕の身体能力は、言わずもがな大人より劣っている。
つまる話そんな大人でさえ危険と言われている場所を、こんな僕みたいな子供が生き残れるとは思えないという話だ。
[レクトの戦力を分析した結果、問題ないと判断しました。]
「本当に!?
もしかしてメモって意外にポンコツなんじゃ……」
そうした会話を交わしてからしばらく考えた結果、結局僕は冒険者組合に一回行ってみる事にした。
メモの話を完全に信じたわけではないが、メモの話によると登録料などはかからないとのことなので、このままベンチで何もしないよりは行ったほうがいいと思ったのだ。
おそらく行って損することはないと思うしね。
「そうえば登録料がなんで無料だってわかったの?」
[レクトが忘れているだけで、昔に一度だけ組合のチラシを見たことがありますよ。]
「なるほどね〜。
そりゃあ覚えてないわけだ。」
そんな昔のことまでわかるとは、やはりメモはこれから大きな助けになってくれそうだ。
少し露店を回って街の地図をチラ見すると、僕はメモの指示に従いながら冒険者組合にたどり着いた。
「ここ、だよね?」
[間違いないかと。]
冒険者組合は貫禄のある木造の大きな建物で、中から笑い声や叫び声などが聞こえてくる。
「じゃあ、お邪魔します……」
僕は勇気を出してドアをゆっくりと押し、組合の中の様子を確認する。
すると組合の中は冒険者らしき人達で溢れかえっており、酒に酔っているのか乱闘が起こっていた。
僕は無言で開けたドアを閉め、組合から一刻も早く離れようと大通りの人混みを早歩きで抜けていく。
「……こんな真っ昼間なのになんであんな人が多いの?大人って暇なのかな?」
[おそらく酒場が中にあるからではないかと。]
「それを先に言ってよ……」
あまり沢山の視線に晒されるのは、嫌いだ。
あの視線を向けられた後に起きたのは、全てが全て嫌なことばかりだった。
「一回組合は諦めるかぁ……
その間に忘れてた服でも買いに行こっと。」
僕はさっきと同じくメモの案内に従って服屋を何軒か回り、5軒目の古着屋でようやく服を買うことができた。
「服を売って買うのに1時間かかるとは……
やっぱり貴族っていうのはどこに行っても嫌われてばかりだなぁ。
領主が変わってから緩和されてはいるみたいだけど。」
僕が買ったのは動きやすい服と、フード付きの服の上から着る上着のようなものだ。
なぜこんなものを買ったのかというと、僕の赤髪かなり希少なので、ただ街の中を歩いていると噂が流れて、ぼくの親まで届いてしまう恐れがあったからだ。
出費は痛いが家の汚点と言われた僕が生きていると知れば両親は何をしてくるかわからない。
この街でこれから暮らしていくのであれば、少しお金を割いてでも警戒しておくに越したことはないだろう。
それに意外に僕の着ていた服が高く売れたから、お金には少し余裕があるからね。
そうして改めて冒険者組合の前にやってくると、先ほどと同じように中の様子を伺う。
さっき来た時よりは確実に人は減っているようなので、これ以上時間を無駄にしないためにもそろそろ覚悟を決めた方がよさそうだ。
「よし、これくらいならいける。」
そう自分を鼓舞しながら、目立たないようにゆっくりとドアを開けて、僕は組合内に足を踏み入れた。
(すごい……よし、登録するときはどこにいけばいいの?)
[登録はカウンターにいる受付嬢が担当をしていることが多いです。]
(受付嬢……あれか!ありがとうね、メモ)
[お褒めに預かり光栄です。]
減ったと言っても冒険者がいなくなったわけではないので、珍しいものを見るようにこちらを見てくる冒険者がかなりいたが、気づかないふりをして受付の列に並ぶ。
(ふ〜、ひとまず登録までいけそうだね。)
[いえ、おそらくこのまま素直に登録––––ということは出来ないと思います。]
(なんで?)
[それは……]
メモが言葉を続けようとしたとき、今後ろに並んできた人が突然大きな声で喋り始めた。
「おい、どうしてこんなところにガキがいるんだよ!ここはおままごとする場所じゃねえんだぞ〜!」
笑いながらそう言う後ろの男は別世界ではモヒカンと呼ばれる髪型をしている。
「なに?」と頭の中でハテナを浮かべていると、周りからこんな会話が聞こえてきた。
『お前、あいつ止めてこいよ。』
『やだよ。あいつ見た目の割にBランクで強いんだ。』
他の周りにいた冒険者も似たり寄ったりの会話の内容で、少なくとも周りの大人は僕を助ける気はなさそうだということはハッキリとわかった。
(……みんな色々騒いでるけど、結局こいつらはなんなの?)
[この方たちはラノベでいう定番に当てはまります。]
(定番?)
[冒険者ギルドでは、主人公は必ず1回は冒険者に絡まれるというイベントが起こるのです。]
(ふーん。でもそれいちいちやるのが大変じゃない?)
[そこは個人の自由ですので。]
(よくわからないな〜。)
こんな会話をしていると、「聞いてんのか!」と怒鳴られてしまった。
「聞いてるよ。定番のお仕事、ご苦労様です。」
「定番?仕事?何言ってんだこのガキ。」
男は自分の話が無視されていることが気に入らないのか、どんどん顔が険しくなっている。
「まあいい。おいガキ、ちょっと裏までこいよ。」
「なんでですか?」
「いや〜、Bランクの俺、モヒカン様が世間知らずの坊ちゃんに色々と教えてやろうと思ってな〜!」
モヒカンと名乗った男は僕を見下ろしなら、僕に圧をかけるような大きな声で組合の入り口を指差す。
(えーっと、つまりどういうこと?)
[推測––––レクトが子供に見えたので、少しイジメてやろう、という考えだと思われます。]
(ん?それじゃ僕、かなりピンチなのか。)
[はい、相手の実力的にもレクトが真っ向から勝てることはないでしょうし、会話を始めてしまった以上逃げることも難しいです。]
つまる話、面倒な事になったようだ。
(どうしよっかなぁ……)
[一つだけ方法があります。]
(え、本当!?)
いざとなったら死に物狂いで組合の外にダッシュするという手も考えていた僕だが、さっきから素晴らしい?アドバイスをくれるメモの言うことに乗らない手はない……!
[それは……]
(それは……!?)
[相手を正面から迎えうつという方法です。]
(……ん?聞き間違いか。
メモ、聞こえなかったかも。)
実際頭の中から直接響く声が聞こえないわけがないが、こんなの現実逃避したくなるだろう。
(変わらないじゃん!?
遠回しにやられろって言ってるでしょ!?)
[いいえ、いまから説明しますので……]
そうしてメモと会話していた僕は、目の前にいるモヒカンが我慢の限界に達したのに気が付かなかった。
「……ふざけんなよ。
黙っていりゃあガキが俺様を無視しやがって!
お前みたいなガキは家に帰ってママにあやしてもらってればいいんだよ!」
モヒカンはそういうと、レクトに向かって拳を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
「おらぁ!」
「え!?うわっ!」
僕は咄嗟に飛び下がって避けると、モヒカンの拳はそのまま僕がいた床に直撃し、大きな音と共に床が砕け散った。
「ちょ、まだ話してる途中なんだけど!?」
「うるせぇガキがぁぁぁぁ!」
「なんでそんなに怒ってるの!?
一回落ち着いてよ!」
しかしそんな言葉は既にモヒカンに届くことはなく、モヒカンは僕に休む間もなくラッシュをかけ続ける。
僕はひらひらと全ての攻撃を躱しきり、一度距離をとろうと後ろに下がる。
しかしモヒカンは僕が子供だから反撃する手段がないと考えてのことか、ただ力任せに突っ込んできているかはわからないが、素早いステップで距離を詰めてひたすら拳をぶつけにくる。
そしてしばらくそれを繰り返しているうちに、いつのまにか僕は組合の端の方に追い詰められてきてしまった。
(–––どうする?このまま躱し続けてもすぐに限界がくるのは目に見えてるし……
でもだからと言ってこいつに反撃する手段があるわけでも……)
実際これまでもメモの攻撃予測がなければとうに僕はあの拳に当たって死んでいる。
だがあくまで予測は予測なので、体力切れで僕の動きが少しでも鈍くなってきたら避けられないのは必然だろう。
そんなことを考えている間にもモヒカンの拳はレクトに迫り続ける。
そしてついに、レクトは壁すれすれのところまで追い詰められてしまった。
「ちょこまかと動きやがって……だが、これで終わりだ!」
(っ!避けきれない––––)
その拳は完全にレクトを軌道に捉え、レクトの命を刈り取らんとばかりに迫ってくる。
ここまでかも。
そう、レクトが覚悟した瞬間に、その声は聞こえた。
[反射鏡の使用を推奨。]
「–––っ!反射鏡。」
僕は咄嗟に聞こえた声に従い、感覚に任せて魔法を使う。
するとモヒカンの拳がレクトに直撃する寸前、レクトとモヒカンの間に見えない壁が生まれ、モヒカンの拳が弾きかえされた。
「っ!?手が––––!?」
「–––っおりゃあ!」
モヒカンはパンチの衝撃がそのまま自分に跳ね返り、手を押さえて苦しみ出す。
僕はその隙を逃さず、全体重を乗せて相手の顎に頭突きし、相手がふらついたところにさらに近くにあったコップで相手のことをぶん殴る。
その攻撃でモヒカンはよろめき、トドメにもう一発喰らわせると、呆気なく床に倒れ込んだ。




