2.記憶の世界
「さて、どうしよう。」
ベンチでこれからの事について考えること30分。
なかなかいい案が思いつかず、時間帯はもうお昼の鐘が鳴る頃になってきた。
「いやぁ、捨てるなら最低限金を持たせて欲しかったんだけど……
これじゃ僕にこのまま死ねって言ってるのと同じだよ?」
まあ実際僕みたいな役立たずはとっととのたれ死んでしまえ、みたいな考えなんだろうけど。
しかしこのままでは両親の思惑どおり、本当にのたれ死んでしまう。
問題点は3つ。
1つ目はさっきも言った通りお金がない。
一応コツコツ貯めてきた貯金を念の為こっそり持ってきたが、この貯金の量じゃもって3日だろう。
2つ目はこの街の地理がわからない。
選定の儀を受けるために隣街からこの街に来ていたため、全くと言っていいほどこの街について知らないのだ。
そして最後の3つ目。
これが1番深刻で、お金を稼ごうにも10歳の僕がすぐに働けるような場所など、おそらくないのだ。
その上僕はとあるわけから無駄に見栄えだけがいい礼服を着ているため、そこら辺の人に頼み込んでも貴族と思われ関わってくれないだろう。
「まずこの服からどうにかしないといけないけど、新しい服を手に入れるには結局お金を使っちゃうし……」
こうやってまとめてみるとわかる通り、現在僕は割と絶望的な状況だ。
とりあえずの目標はお金を稼ぐために働く場所を探すことなのだが、そのためにはまず服を買うためにお金を使い、さらに働く場所を探すために街の地理を把握しないといけない。
結局お金を稼ぐためには1つ目と2つ目の両方を解決しないといけないのだ。
「うーん、久しぶりにあれを使うしかないかな。
あんま好きじゃないんだけど……」
こうして悩んでいる間にも時間は刻々と過ぎていく。
最後まで悩んだが、もうこれしか頼れる物もないと僕は覚悟を決める。
そして集中するために目を閉じると、僕だけが知ってるおまじないを唱えた。
「記憶跡」
そう唱えた瞬間景色が移り変わり、目を開くと僕は星空が広がる青い世界に浮かんでいた。
「記憶の世界。
いつ来ても変わらないなー」
僕が記憶の世界と呼ぶこの世界は、僕ではない誰かが歩んできた人生の結晶だ。
僕が物心ついた頃からアクセスできた謎の世界であり、信じられない事にビルや飛行機、銃などといった、この世界にはない異界の知識を多く得ることができた。
僕がやけに大人びているのもこれのおかげだったりする。
気になって前、お兄ちゃんに見てもらったら、この世界で魔法を使うのに必要な魔力は一応消費しているらしい。
しかし選定の儀の前に魔法が使えるなんて前例を聞いたことがないので、最終的に正体は謎のままだ。
しかも情報の量が多過ぎて、この世界に入ると次の日から最低1日は寝込む事になる。
だから最近はここに来ていなかったのだが……
「……あんなのあったっけ?」
前来た時と同じように輝き続ける星の中に、周りの星より一回り大きい、黒い異質な光を放っている星がある。
確かに今までは無数にある星の光で、あの黒い星の光が消されていたと考えれば説明はつくが、あの黒い光を放つ光はその程度の光で遮ることは出来ないと、不思議と確信してしまう。
「なんでこんな現実で忙しい時に、よりによってこっちの世界でも問題が起きるんだろ……」
そう文句を言いつつも、僕は好奇心につられてその星に近づき、手をかざす。
こうすることでいつもは記憶や知識が流れてくるのだが、この星は違った。
『………』
「––––っ!?」
流れ込んできたのは感情。
それも、悲しみや後悔などといった、マイナス感情や、楽しいとか嬉しいとかのプラスの感情が入り混じって、僕の頭に直接流れてくる。
僕は頭を押さえてその場にうずくまるが、その感情の流し込みは数秒経てば収まり、顔を上げればさっきと同じように黒い星が浮かんでいた。
「……この星、何?」
この星は異質だ。
この世界で僕が見てきた記憶や知識には、必ずある共通点があった。
それは、感情がないこと。
ただそこで行ったことと、知識としてこういうものがあるよというのを見れただけで、楽しい、嬉しいなどの感情を感じることはこの5年間で一度もなかった。
しかしこの星は感情がないどころか、この世界に存在したはずの感情を、すべてこの星に集約させたのではないかとすら思えた。
「とりあえずこれ以上何かしても今日は何も頭に入ってこなさそうだし、一回現実に戻ろっかな。
進行世界……」
また案を考えないとな、なんて考えながら僕は帰りのおまじないを唱える––––その時だった。
『わたしはここに……』
「––––っ誰!?」
突如聞こえたその声に、現実への帰還が止まる。
声のする方向を見ると、さっきの黒い星が浮かんでいた。
「……まさかここから?
だとしたらもう異質なんて言葉で片付けていいレベルじゃないんだけど。」
そうして星を見つめていると、ふと、一つの考えが頭に浮かんだ。
これがたまたまなのか、それとも神の導きなのかはわからないが、レクトは自然に手を黒い星に向け、魔法を唱える。
「鏡魔法 写鏡」
この鏡魔法 写鏡はペアとなる鏡魔法 映鏡と合わせることで効果を発揮する。
魔法の効果は写鏡で写したものを、映鏡を発動させることで、好きなタイミングで発生させることが出来るというものだ。
「この魔法でこの黒い星の内側を写すイメージで………多分できた、かな?」
この黒い星は他の星と違って感情を放ったり、中から声が聞こえたりといったところから、レクトはもしかしたら、この星の中に、この世界の基盤となっている人生を歩んだ本人の意思が入っているのではないかと考えた。
そしてその予測は大きく的を外しているわけではないようで、確かに何かを写す感覚がした。
「さて、何が写ったのか確認しよっか。」
吉と出るか凶と出るか。
僕は抑えきれない胸の高鳴りを感じながら、魔法を唱えた。
「……映鏡」




