第615話:零人の元カノ
☆間宮 零人sides☆
「リベルタ! 右足から先に動かせ!
そうすりゃ左手が使えるぞー!」
「ういッス! よっ…」
「ナイス! その調子だぜ!」
目の前には絶壁…に設置された凸凹を伝い、上へ上へと登っていく若人たち。
ここは『ヒルクライム』という、こっちの世界でいうボルダリングと似た競技を遊べるスポーツセンターだ。
広告のチラシで知って以来、前からずっと来てみたかったのだ。
「よい…しょっと! わはは、パイセン!
アンタがちょくちょくアドバイスしてくれるおかげで、僕の方が先に頂上着いちまいましたよ!」
「や、別に競走してるつもりはなかったよ!
ちょっと待ってろ、俺ももうすぐ着くから!」
着色されたホールドを掴み、ひとつ…またひとつと身体を押し上げていく。
まったく、あいつ調子に乗りやがって…リベルタを先行させるんじゃなかったな。
やっとの思いで、リベルタのいるてっぺんへ俺も到達する。
「ほら、パイセン。お手」
「犬じゃねーぞ俺は」
差し出された手を掴み、引き上げてもらった。
さすが男の子。やっぱ力強いな。
「よくこんなとこ見つけましたねーパイセン。
僕ヒルクライムなんて初めてやりましたけど、意外とおもしろいッスわこれ」
「だろ? 前から行こうと思ってた所でさ。
むしろ提案してくれてちょうど良かったよ」
「へへ〜、んじゃ大いに感謝してください」
受付でレンタルしたタオルを渡すと、リベルタは爽やかに汗を拭い、笑った。
もともと俺の休日の過ごしかたは、インドア寄りだったが、日ごろの冒険業をこなしていくうち、こういったお出かけの方が好きになってきている。
起床時間は相変わらずだけど。
「ところでリベルタ。喉は乾いてないか?
悪いな、さっきカフェでコーヒー頼まれてたのにブッチしちまって」
「あー別に構わねえッスよ。どっちみち姫サマが同じ店にいたんじゃ、ゆっくり味を楽しむこともできなさそうだったんで」
ハアと、ため息とともに肩をすくめるリベルタ。
ルーシーさんには悪いが、俺も同意見だ。
「あはは、そりゃ言えてる。よし、ちょっと待ってろ」
「?」
ポケットから財布を取り出しつつ、近くのドリンクコーナーに座標を設置…そして、転移。
ブン!
「きゃっ!? な、なに!?」
「おっと、すみませんお姉さん」
近くにいた他の客を驚かせてしまった。
軽く謝罪して、改めてラインナップを見る。
カウンターの前に、カラフルな色をしたドリンクがたくさん並んでいる。
うーん、どれにしようかな~?
「らっしゃい! お決まりかい兄さん?」
「そこの『ブルーローズ』と、あとはそうだな…『ナイトダリア』ってやつください」
「あいよ! まいど!」
カウンター越しにいるオヤジに金を渡し、要求したドリンクを受け取る。
名前だけ聞けばオシャレなカクテルみたいだな。
両手に持ったカップを零さないよう慎重に、再び転移でリベルタの元へ戻る。
「ほいリベルタ。とりあえずこれで勘弁な」
リベルタには『ナイトダリア』を渡した。
シュワシュワした炭酸が、カップに添えられたストローを揺らしている。
いわゆるスカッシュ系のドリンクだ。
「お、あざッス。アンタ適当に買ってきたわりにはセンスが良いッスね。僕これ好きなんスよ」
「そっか」
飲み物のおかげで少し機嫌が直ったようだ。
リベルタの言うとおりチョイスは適当だが、俺のブルーローズもなかなかイケていた。
帰りにまた買っていこうかな。
「ねーマミヤパイセン、ちょっと聞いてもいいスか?」
「んー?」
ズゾゾ~と、吸いながらリベルタの方を向く。
「ずいぶん気の利かせ具合が輝いてますけど、元の世界に遊びのオンナとかいましたか?」
「ブフッ!?」
いきなりなに言い出すんだコイツ!?
「ゴホッゴホッ…ん、んなもんいるか!」
「へー。んじゃあ、恋人は?」
「いや、だから! そういうのはいないって…」
何気に元の世界のことを聞かれたのは久しぶりかも。
興味を持ったのだろうか?
…いや、それにしては質問の方向が偏りすぎだろ。
「でも、絶対アンタ女はいたことあるでしょ?」
「……」
ニヤニヤと、イタズラっぽく詰め寄ってきた。
なんでんなことわざわざ言わなきゃ…
「正直に答えてくれたら、さっきカフェで言ってたリュックの件、僕が上にかけ合ってあげますよ」
「えー…」
むう…そう来ちゃう?
リュックの件とは、先週ノルンに行った際、シトロン・ワーグさんから依頼されたものだ。
魔族の開発したある〝薬〟の被害者となってしまった、蛇女族のリュックの生体検査をしたいという内容。
今日、俺はリュックの身柄を預かっているリベルタにその話をしたのだ。
「ふう、仕方ないな。少しだけなら教えてやる」
「うぇーいやりぃ。じゃまず、その子のお名前はなんて言うんスか?」
「しょっぱなから結構深いパーソナルエリアに踏み込んでくるな…」
過去、俺がお付き合いした人はひとりだけ。
その人の名は…
「アスカ。飛ぶ鳥と書いて『飛鳥』だ」
その名前を口にしたのは、いつぶりか。
ルカやフレイにも喋ったことないのに。
なんで俺、こんな奴に教えちゃってんだか。
「おー聞き慣れない名前ッスね、さすが異世界。
じゃあ、そのお方の年齢は?」
「え…俺の一個上だけど」
「住所は?」
「地球に決まってんだろ」
「ご職業はなにされてます?」
「事情聴取なのコレ!?」
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
ここに来て、零人の関係者の名前が出ました!
悪夢という形で、名前は前から登場しております。
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




