第616話:両性族
「あー遊んだ遊んだ。僕もうクタクタッスわ」
「だな。メシでも食って帰んべ帰んべ」
ヒルクライムをひとしきり楽しんだのち、外ではまもなく日が落ちようとしていた。
スポーツセンターを出た俺たちは、そんな街灯が点き始めた街中をゆっくりと歩いている。
やはりたまには良いもんだな。
こういう男くさいっていうか、汗くさい遊びも。
今日はリベルタを誘えて良かった。
「おろ? なんスかなんスかパイセン~。
あんだけ連れ回してまだご飯まで誘ってくるなんて…そんなに僕と別れるのが名残惜しいんスか~?」
メシの誘いをしただけなのに、リベルタは挑発するようにからかってきた。
いい加減ちょっとナマイキだし、少し仕返ししてやるか。
「…楽しい奴ともっといたいって思うのはダメなのか?」
「えっ!?」
「冗談だよ。ナディアさんにメシ要らないって言っちまったからただのついでだ」
「あっ…くう~ッ! そんなカウンターするなんて卑怯ッス。やっぱタラシッスよ、アンタ!」
わずかに顔を赤らめたリベルタくん。
はっはっは。お喋りな宝石の契約者であるこの俺が、言葉遊びで負けるわけないだろう。
おクチ磨いて出直してこい。
「この野郎! てめぇ、俺を騙しやがって!」
「なによ! あなたが勝手に勘違いしたんじゃない!」
「ちょっと! お客さん、暴れないで!
け、喧嘩だ! 誰か助けてくれー!」
その時、一軒のお店から怒号が聴こえてきた。
若い男女が言い争ってる横で、店の主人が慌てた様子で外に助けを求めている。
「ほらリベルタ巡査。市民が助けを呼んでるぞ」
「ここぞとばかりにマッポ扱いするんスから。
はいはい、もちろん分かってるッスよー」
せっかく非番なのにーと、小さく愚痴を零しながら、リベルタは件の店へ走って行った。
アイツに全部投げるのもなんだし、俺も一応ついていくか。
「はーいストップッスよ。どうされましたか?」
「なんだてめぇは! ガキは引っ込んでろ!」
「そうよ! 部外者のアンタには関係ないでしょう!」
リベルタは争う男女の間に割り込み、喧嘩の矛先を自分に向けさせた。
おお、チャラくてもさすが警官。やるな。
「あ、僕ですか? お上に仕える者でして。
良くないスよーお店の迷惑を鑑みずに、痴話喧嘩なんて」
「「け、警備隊!?」」
懐から何かのバッジを見せるリベルタ。
あれは…この国の紋章か。
いわゆる警察バッジと同じモノで、もちろんナディアさんも持っている。
「き、聞いてくれよお巡りさん!
このアマ、俺を今まで騙してやがったんだ!」
「は!? だから、私は騙してたつもりなんてないって言ってるじゃない!」
「あー分かりました分かりました。
ちゃんとナシ聞きますんで…パイセン、わりーけど、そっちのお姉さんから軽く聴取してもらっていいッスか?」
「あいよ」
☆☆☆
「…と、こういうワケなのよ! ヒドイでしょ!」
「ふむ、なるほどね」
カップルの片割れを任されたので、女性から喧嘩の事情を聞いた。
カノジョさんの供述を簡単にまとめると、
①一年前に今の彼氏と出会った。
②その半年後、交際開始。
③今日まで順風満帆に付き合ってきたが、彼氏は彼女のある素性を知らなかった。
で、その素性ってのが…
「君が『両性族』って分かった途端、彼氏くんが目の色を変えたってことか」
「そうよ! てっきりそれを承知の上で、私と付き合ってると思ってたのに…」
怒りより哀しみの方が大きくなってきたのか、彼女さんの瞳にじわりと涙が浮かんだ。
『両性族』
見た目は俺たち人族となんら変わらない。
まあ、あえてあげるなら中性的な者が多く、パッと見はその種族とは判別がつかない。
これは俺も初めて知ったが、彼女たちは交際する相手の性別に合わせて、なんと自らの身体機能を変えられる。
相手が男性なら体つきは丸く、女性なら反対にガッシリと。
そして、それは本人の意思とは関係なしに、勝手に肉体が変わっていくらしい。
「こいつ最近妙に太ってきやがったから、さっき何気なく聞いてみたらこのザマだ。
俺はオカマなんかと付き合うシュミはねえんだよ!」
「太っ…!? 私、オカマじゃないわよ!
種族が〝両性〟ってだけで、ちゃんとれっきとした女よ!」
「だったらなんで今まで黙ってたんだ!
そんなの詐欺と一緒だろうが!」
「だから騙したつもりなんてないって何度も言ってるでしょうが!」
両者は再び目を吊り上げさせ、感情を爆発させた!
「待て待て! 落ち着け彼女さん!」
「アンタもッスよ、彼氏さん。
これ以上余計な油注ぐんじゃねえッス」
この場に警察が居るからか、二人とも手を上げるようなことはしなかった。
とはいえ、どう収拾をつけたもんか。
「ま、だいたいの事情は分かりました。
たしかに自らの正体を相手に明かさないまま交際を続けるのは、『身分詐称罪』に該当するケースがあるッス」
リベルタが真面目な口調で警察っぽいこと言い出した。…あ、いや、モノホンなんだけど。
「だろ!? だったら」
「ですが、そいつは〝結婚〟をしてる場合ッス。
まだお付き合いの段階なら、単なるお二人のコミュニケーション不足ッスね」
「「……」
すげえ! もっともな正論で黙らせた!
見直したぜリベルタ!
「お互い表面だけを見て付き合ってるから、こういうトラブルになんスよ。
…んなガキみたいなママゴトしかできねえんなら、いっそのことこのままきっぱり別れたらどうスか?」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
…と思ったら三度火をつけやがった!
な、なに考えてんだお前!?
「俺はママゴトで付き合ってなんかねえ!
本気でこいつを好きになったんだ!」
「そうよ! 私だってこの人のためにもっと可愛くなりたいと思ったから、身体が…」
すると、彼氏と彼女は顔を見合わせた。
おや…?
「お、俺が悪かった。お巡りさんの言う通りだ。
俺、最初はお前のボーイッシュな雰囲気が好みで付き合ってたんだ。
そのうち女の子らしい内面を知って、もっと好きになった。
だけど、会う事に姿が変わっていくお前に、俺、なんだか不安を覚えちまって…」
「い、いえ…私が早く両性族だって言えれば良かったのよ。
でも、心のどこかで、もしそれをあなたが知ったら私と別れるんじゃないかって、少しだけ不安だったの。
決して正体を隠してたつもりはないけど…ゴメンね、教えるのが遅くなってしまって」
二人は手を繋ぎ、見つめ合った。
…っておい、ちょっと!?
「愛してるぜ、ノエル…」
「私もよ、アイン…」
大勢の人の目があるにも関わらず、二人は大胆な口づけを交わした。
当然だが周りの客から口笛やら野次やら、たくさん飛んできた。
「なんだこのバカップル」
「おーあちぃあちぃ。さ、行きましょパイセン」
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
痴話喧嘩のトラブルを解決?したリベルタと零人。
次回でリベルタお出かけ回は終わります。
「続きを読ませろ!」と思った方は、ぜひブックマーク、並びに下の☆を『5つ星』お願いします!
何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




