第612話:二ツ犬アーロン
「〝働いている〟!? 魔物のお前がか!?」
二ツ犬が俺に飛びかかり、顔をめちゃくちゃにされたので、急遽リベルタと一緒にバックヤードへ。
タオルで顔を拭きつつ、本人の口から事情を聞かされた。
「うん。アリーナからみんなで脱出したあと、僕、蛇頭くんとしばらく行動を一緒にしてたんだ。僕はご主人サマを探しに、彼は蛇女さんを追いかけにね」
「あ、そういえばあの場にゃナーガも居たな…」
2回目の試合で闘った魔物だ。
コイツやパピスタと違って人語は話せない奴だったが、まっすぐな気質で良いヤツだった。
「ラミアさんはアリーナを脱出するなり、行き先も告げないですぐに僕らと別れちゃってさ。
ナーガくん、ものすごく落ち込んじゃってホント参っちゃったよ」
「あー…そりゃあ、可哀想に」
奴はパピスタに惚れていた。
でもパピスタは、ナーガなんてまるで眼中に無いようだ。
再会した彼女からひと言もその話が無かったのが良い証拠だ。
「その後は彼もどこかにふらりと行っちゃって、仕方なく独りで理の国までやってきたんだ。
その時に、そこに居る調教士さんと出会って、運良くここで働けてるってワケ。
情報収集するなら、やっぱりニンゲンが多い場所がいちばんだからね。
幸いこの人はすごく面倒見の良いニンゲンだから、食い扶持には困らないよ〜」
愛嬌の良い笑顔で二つの頭を、リードを握っているスタッフのお姉さんへ向けた。
なるほど、この人が臨時の飼い主ってわけか。
魔物が人間社会に溶け込むには、こういった方法もあるんだな。
「まったくお調子の良い子なんだから。
あの…お兄さん。本当にすみませんでした。
完全に私の監督不行き届きです。
本来ならば、お客様の方からこの子に触れていただくイベントだったのですが…」
申し訳なさそうに頭を下げるスタッフさん。
後で聞いたが、若年ながらこのカフェの店長らしい。
「いえ、別に気にしないでください。
んで…名前は『アーロン』だったか。
ご主人とやらの手がかりは見つかったの?」
「ううん。僕のご主人サマは君と同じ冒険者なんだけど、決まった居住を持たない人だから、探すのに難儀しててね…だから、国のあちこちから色んなニンゲンがやってくる、この都で網を張ろうと思ったんだ」
後ろ足で頭をポリポリ掻くワン公。
ふむ、俺と同じ職業とな。
いろいろ考えてのカフェ勤めだったのか。
アーロンが探してる人は知らないが、はぐれた仲間のパピスタならこの街にいる。
ついでだ。教えて…
「へえ、そういうことッスか。
お前、モフモフのくせに頭回るッスね。
それにしても〝蛇女さん〟、ねえ…?」
やろうとした瞬間、ずっと黙っていたリベルタが急に口を開いた。
「な、なんだよリベルタ?」
ジィ…と、リベルタは何か言いたそうな目を、俺に向けてくる。
「いやーどうもアンタは蛇に縁があるようで。
まずリュックが頭に浮かんで来まして。
それと、蛇女の生態に妙に詳しい女も、どっかに居ましたよね?
で、このワンちゃんが言う蛇女って、いったい誰のことなんでしょうかねえ?」
「……」
いかん。まさか、リベルタはパピスタの正体に勘づいている?
いや、まだ確たる証拠はないはず。
ただ変なカマをかけてるだけか…?
あ! そうか、リベルタいっから下手にパピスタの話、アーロンとできないじゃん!
やべえ! どうしよう!?
…って、なにか悪いことしたわけでもないのに、なんで俺がこんなハラハラせにゃならんのだ!
「まあ、僕のご主人サマはともかく、恩人の君に会えただけでもこの国に来たかいがあったよ。
じゃ僕、そろそろお客さんの所に戻るねー。
みんな僕のモフモフを待ってるからさ。行こ、店長さん」
「あ! コラ、勝手に動かないの!
えと…すみません、お二人とも。
お詫びと言ってはなんですが、今回の飲食代は無料とさせていただくので、気の済むまでどうぞごゆっくり!」
バタバタとその場を後にする一人と一匹。
ナイスなタイミングで離脱してくれた!
あ、あぶねー。助かったぜ。
「あらら…僕、まだ触ってなかったんスけど。
もーどうしてくれんスか、パイセン。
せっかく非番で、あの大魔神隊長のお小言から逃れられる貴重な日なのに、まだアンタしか満喫してないじゃないッスか」
リベルタもそれ以上言及する必要はないと判断したのか、別の不満を口にしてきた。
まったく。満喫だなんてとんでもない。
嫌な汗かいちまったよ。
「あはは…その代わりコーヒー飲み放題になったから良いじゃねえか。なにか注文あるなら俺持ってくるぜ」
「…ん。じゃあ僕、ブルーバレーで。それとスコーンも。苦いのはキライなんで、ミルクと砂糖は多めの、甘めにしてきてください」
「あいよ」
ふふ。意外とお子様みたいな味覚だな。
チャラ騎士リベルタは甘党男子だったのか。
オーダーを頭に入れ、バックヤードの扉を開ける。
「ワンッ、ワンッ! そこもっと撫でていいよ〜」
「きゃあああ♡ ご覧なさいなパピスタさん!
こんな人馴れしてる二ツ犬、あなたは見たことありまして!?
うふふ! ふわふわでモフモフ〜、ですわ!」
「そ…そう、ね」
店の中に、居てはならない奴がいた。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
来てはならない人物が!
よりカオスになってきました。
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




