第97話:エリザベスの憂鬱
☆エリザベス・センチュリーsides☆
「よォ、人形女。
何か食いモン持ってねェかァ?」
「持っていません。
私たちの荷物と装備は仕立て屋へ預けました。
…もうお忘れに?」
「言ってみただけだ。
そんな突っかかんなって」
地下で目を覚ましてから今まで、体感にして5時間
VIPルームで罠にかけられ、気づくとランボルト様と同じ『控え室』に閉じこまれていた
あのボトルに入っていたポーション…
蓋を開けると気化するようになっていた
それに気付くことが遅れ、このような事態に陥ってしまった
『控え室』は他の闘技者と間隔がかなり離れており、コミュニケーションが取れないように設計されている
状況を聞くと、彼はお手洗いから戻る際、何者かにいきなり襲われ抵抗する間もなく眠らされたという
私たちと、同じ…
そして、私たちを拉致した組織の部下から、アリーナと呼ばれる闘技場で魔物との戦闘を強要させられる
もちろん、最初は問答無用で制圧するつもりだったが、最後の言葉で身動きが取れなくなってしまった
『貴様らの仲間、蒼い人族と猫人族の身柄はこちらで押さえている』
…私は王都の裏社会を甘く見ていた
なぜ、あんな単純な罠に引っかかってしまった?
なぜ、私はレイト様にあえて罠にかかってみようなどと愚かな提案をしてしまった?
なぜ、私は…お二人を守れなかった…?
心の中で何度も自問自答するが答えは出ない
ただ、一つだけ分かることがある
私は…『戦乙女』失格だ
レイト様たちと過ごすうちに、私の本来の役割を忘れていた
『戦乙女心得第三条』
恩義ある人物は必ず守るべし
レイト様とルカ様はオットー・タウンを我々と共に守ってくださった
『恩義』は充分にある
まして、坊っちゃまより『彼らを頼む』と直々に命令を受けた
心得どころか主人の命令をこなせずして、何が戦乙女か
私にはもう戦乙女と名乗る資格はない
「なァ、人形女。
お前いつまでそんな仏頂ヅラしてんだァ?
いつもの能面顔くらいしたらどうだ?」
「……私の事はほっといて下さい」
ランボルト様は欠伸をしながらつまらなさそうに仰った
どうやら私はいつの間にか、そんな顔になっていたらしい
いつもの顔が能面というのも、充分おかしいと自覚はしている
…でも、最近は今の顔を含めて、色々な表情をしている気がする
それは多分、彼の…レイト様の影響だ
彼は私と違い、喜怒哀楽がかなり顕著だ
笑って、怒って、泣いて、照れて…
彼の表情の変化を見るのはとても、〝楽しい〟
アクションを起こせばリアクションが返ってくる…
当たり前のことだが、彼のリアクションは人を惹きつけさせる不思議な魅力が感じられた
坊っちゃまとレイト様の仲がよろしいのは、きっと『不幸』だけではなく、あのような外面でも馬が合っているのだろう
彼は今どんな顔をしているのでしょうか…
「お?
なんだ、良い表情になってきたじゃねェか」
「…!?
勝手に顔を覗かないでください」
ランボルト様はいつの間にか下から私の顔を覗き込んでいた
ゴードン様が怒る気持ちも分かる
この方は少々…いえかなり、デリカシーに欠ける男だ
そして、しばらく彼が愚痴を口にしているのを聞き流していると、1人の警備が牢屋の扉を叩いた
軽装の鎧に身を包んで、頭にフルフェイス式の兜を装着している
装備の割に身体の線が細い…女性?
「……なんだァ?
また、アリーナへ出ろってかァ?」
ランボルト様がうんざりしたようにボヤく
彼は戦闘を好むとゴードン様は仰っていたが、流石に人質が取られている状況では楽しめないようで、以前『裏市場』で発揮した勢いが今回は感じられなかった
…しかし、最初にアリーナへ連れ出した警備の話では、1日のラウンドは最大で3回までと言っていたはず…
「私です。センチュリー様」
「…っ!!あなた…!」
「あん?おめェの知り合いか?」
兜を脱いだその警備は、カジノで私と『ウィーヌス』で勝負をしたあの犬人のディーラーだった
私たちをクラブへ追いやった…張本人
「カジノでは随分とやってくれましたね。
『ウィーヌス』で花を持たせ、まんまと私を閉じ込めるとは…
騙し騙されの駆け引きには自信があったのですが、これにはお見事と言わざるを得ません」
表面上は冷静に言葉を放つ
まさかこんな所までノコノコとやって来るとは流石に予想外だ
私が牢屋の中にいる様子を笑いにでも来たのだろうか?
それとも、拷問か暗殺に…?
いろいろと可能性は考えられるが、今は目の前の『敵』にどう対処するかが重要だ
いつでも戦闘が行えるように気を引き締める
「その説は大変申し訳なく思います。
罰はクラブから脱出したあとにいくらでも甘んじて受けましょう。
ですが、まずは私の話を聞いてもらえませんか?
今は見張りをこっそりすり替わっているので、少しだけ時間があります」
ガチャン
「「…!!」」
ディーラーは扉の鍵を空け、こちらへ侵入してきた
何を考えて…?
この距離なら確実に制圧可能だ
「ふう…
あなたたちのペアで最後ですね。
最初にレイト君の伝言をお伝えします」
ピクッ
「レイト…君…?」
「黒毛だと!?何だ!早く言え!」
今、非常に気になる呼び方をしたような…
いや、それは後回しだ
ディーラーは懐から紙を出すと、それに綴られた彼の言葉を読み上げた
「『ルカとセリーヌは俺とフレイが何とかすっから、お前らはいつでも暴れられるように準備しておけ』…以上です」
「…レイト…様…」
「クククッ…!
あのクソ野郎、カッコつけやがって…!」
問いただす必要がないくらい一字一句に彼の…レイト様の想いが感じられた
不思議だ…
さっきまであんなに沈んでいたのに、この伝言一つで、ここまで晴れやかな気持ちになるなんて…
ディーラーは微笑みながら右手を差し出した
「私は『アシュリー・ポッツ』と申します。
センチュリー様、これだけは信じてください。
『ウィーヌス』での勝負…
あれは本気で相手をしました。
あの勝負は…私の負けです」
「…………」
しかし、握手に応じることには躊躇いが生じた
一度でも騙されると、その相手を再び信用することは難しい
「よく分かんねェが、わざわざこんな所まで来たってことは、おめェも何か目的があんだろ?
人形女、少しくらいコイツの話聞こうぜ」
「ランボルト様…
そうですね、承知いたしました」
私は彼女の手を握った
まだ完全に信用はできないが、せめて彼女が持ってきた伝言を…レイト様を信じて、話を聞いてみよう
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
初のエリザベスsidesです!
敬語キャラの語り部って難しいですね笑
「続きを読ませろ!」と思った方は、ぜひブックマーク、並びに下の☆を『5つ星』お願いします!
何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




