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5 そうだ婚活しよう

 学園のある王都から、乗り合い馬車で四時間ほど移動した先が、我がモルニカ子爵領。

 卒業パーティの翌日に寮を出て、ようやく領地に戻ってきた。


「お母様、私お店を始めようと思うの」

「まぁ! 婚活じゃなくて?」


 帰宅第一声がそれの私に、にこにこしながら、ジャブを打ってくるお母様。ハイハーイ、わかってましたよ。

 でもね、婚活は同じフィールドでやってたら先に進めないの。というよりも、進みようがなくなったというか……。

 お母様に、まずは現状を説明してみる。


「なるほど。その聖女とやら……許すまじっ!」


 この反応! 私と同じ反応で笑ってしまう。


「せっかくアニタが頑張っていたというのに、端から潰していくなんて……」

「でしょ! それでね。残ったのは、さすがに私も無理って思う案件ばかり」

「そうなの? いないの?」

「いないのです。で、駄目な貴族の次男三男を迎え入れるくらいなら、まっとうな平民をお婿さんにしたほうが、我が家にとっても良いのではないかと」


 私の言葉に、お母様の目がキラーンと光った。


「そうね。それはナイスアイデアだわ! どっちにしろ、貴族の子どもなんて、家督を継がなければ平民と同じだものね。で、それとお店はどういう関係があるのかしら」

「私が開こうと思っているのは、小料理屋。つまりお料理をお出しして、召し上がっていただくお店なの。そこに来るお客様との出会いを──って、えええ?!」


 お母様が私の両手をぶんぶんと握り、ぶんぶんと上下に振る。


「アニタ、今すぐお店を開きなさい! 人間は食事をしているときに本性が出るものよ。人柄をしっかり見て、頼れる旦那様を選びなさい。いいえ、頼り、頼られる関係を築ける方を選ぶのよ」


 うんうん、と頷くと「こうしてはいられないわ! お店を出す場所を考えないと」なんて、私よりノリノリになってしまった。


「あ、そう言えばアニタ。料理人はどうするの? 我が家の料理人は連れて行っちゃだめよ」

「もちろんです。我が家の料理人であるサラベルは、料理だけじゃなく家のこと全てやってくれているでしょう」


 我が家の使用人は、メイド兼料理人のサラベルと、執事兼庭師のクリアノだけだ。あとは家族皆でお互い助け合いながら家事をしている。


「じゃあどうするのよ」

「私が作ります」

「え?! 確かにたまに作ってはいたけど、大丈夫なの?」


 お母様が驚くのも無理はない。領地にいるときは、サラベルがお休みの日に料理を作るくらいだった。

 でも、前世では何せ貧乏OL。自炊なんてお手の物です。

 サラベルの代わりに作っていたときも、魂の記憶で体が動くものなのか、何の問題もなく料理ができたのよね。まぁだからこそ、小料理屋いけるんじゃない? って思ったんだけど。


「お店は、領地の中でよさげな場所をいくつかピックアップしています。もともと小屋がある場所であれば、少しの改装でどうにかなると思うし」


 小料理屋、なんて言い方をしたけど、ぶっちゃけ食堂みたいなものよ。平民向けのお店だしね。

 でも、食堂よりも小料理屋なんて言う方が、物珍しさもあるかなぁ、なんて。

 この世界では聞いたことないし。


「アニタ、胃袋をがっちりつかむのよ。貴族ではなく平民が相手なら、美しい身のこなしよりも、大切なのは胃袋! 平民から見たらあなたの所作は十分に美しいのだから、親しみやすさと、美味しいご飯で婚活を成功させましょうね」


 お母様、私の両手を握りながらキラキラした瞳で見つめてくるのはやめてください。


「いい? 自分の贅沢を優先するような男はダメよ。この領地のことを、大切に思ってくれる人を探してきなさい」

「はい! 領民を大切にしてくれる人を」

「そしてアニタのことを、大切にしてくれる人よ。これは絶対だからね」

「……! お母様っ!」


 早く相手を見つけろ、婚活頑張れというお母様だけど、私のことをきちんと心配してくれている。


「あぁ、あとは……」

「お母様っ! 条件がありすぎるのは良くないです!」

「それもそうね。とにかく、わかりやすいクズだけは選ばないように」


 それはそう。

 あの学園のやばい男子生徒や、第三王子とその側近たちのようなタイプだけは、絶対に嫌だもの。

 我が家は子爵家。下級貴族ではあるけど、領民の暮らしを守るという誇りは持っているわ。

 だからこそ――。

 物事をきちんと考えられないバカと、役立たずは嫌いなのよっ!

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