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婚活中の貧乏子爵家令嬢ですが、小料理屋を開業したら幼馴染みが溺愛してきます  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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4 婚活対象の変更

「アニタ、お料理についてはスタッフの方にお願いしておこう」


 おっと。卒業パーティの最中だったわ。

 親友のソマイアが、眉を下げている。


 そうよね、普通貴族令嬢はこんなことしないもの。とは言え、私が学園のパーティの度に残り物をいただいて帰っているのは、彼女も知るところ。

 あ、もちろんちゃんと学園にも話は通しているわよ。黙って持って帰るのは泥棒みたいなものだからね。


「そ、そうよね。さすがに今日は主役だもんね」

「そうそう。私たちの卒業パーティなんだから、そういうのは、スタッフにとりまとめてもらった方がいいわ」


 ソマイアの言うことも尤もだと思い、近くにいた配膳係の方にお願いをする。

 彼は少し驚いた顔をしたけれど、この料理が余ったら捨てられることを知っているので、快く引き受けてくれた。


「それにしても、あの聖女は本当に碌なことをしないまま、今日を迎えたわね」

「本当に……。私の婚活をぶっ潰したのは、あの聖女だもの」


 思い出すだけでも腹が立つ。

 ソマイアと私は母親同士が仲良しだったので、幼少の頃からの知り合いだ。金色の髪が美しい彼女とは、所謂幼馴染み。だからソマイアは、我が家の状況もよく知っている。


「高位貴族のご子息なんて私は希望していないし、だからと言って、中級下級貴族の方々も婚約者がいるのが普通。第一、私は入り婿を探さないといけないから、次男三男じゃないとダメ」

「それで学内の夜会に出まくってたものね」

「学内の夜会なら、ドレスもいらないもの!」


 この学園は、貴族同士の人脈を広げる場でもある。

 そのため、学内で夜会が頻繁に開かれていた。


 この世界ではアルコールの年齢制限は特にないが、学内ということでアルコール度数の軽いものか、ジュースで割ったものが提供される。そして、誰でも参加しやすいようにと、ドレスではなく制服がドレスコードとなっていた。


 貧乏子爵家、通常の夜会はドレスが用意できないけれど、制服であればお母さまが使っていたお下がりが複数着あるから、バッチコイなのだ。

 ちなみにこの学園の制服は、ここ三十年以上変わっていない。

 ありがたや……。


「なのに、夜会でよさげな方に声をかけていると、すぐに聖女が近付いてくる」

「そして次の夜会では、何故かその殿方の姿はないのよね」

「その方のクラスに行ってみれば、急に領地での縁談が決まって、皆様退学していったと」


 縁談が決まることはめでたい。

 だけど、何故学園を途中で辞めてまでして、領地に帰るのか不思議で仕方がなかった。

 だってこの学園を卒業した経歴がある方が、貴族の次男三男としては、就職しやすくなるからだ。


 所謂、今は体面上なくなっている(らしい。本当かしらね?)「ええ大学出た学生のエントリーシートは、優遇しちゃろ」系ってこと。


「この件については、ソマイアにお世話になりました」

「いえいえ、私もビックリしたわよ」


 そんな夜会があまりにも続き、めぼしいと思っていた男子学生がいなくなったことに衝撃を受けた私が、ソマイアに泣きついたのだ。

 そうしたら彼女は、「ちょっと調べてもらうわ」なんて言い出した。

 調べて『もらう』。


 まさにその言葉の通りで、彼女の婚約者は、お国の諜報的なことを密かに受け持つ家系なのだ。もちろんそれは、他家に堂々と言っているわけではないんだけどね。

 『聖恋』に出てきたのよねぇ。彼女の婚約者が。


 例の聖女の攻略対象だった、ネルツァ・エル・ロクツォーネ侯爵子息。

 ソマイアが彼の婚約者になったと聞かされたときには、意地でもネルツァをソマイアにめろめろにしてみせる! と誓ったものだ。


 結果、本当にめろめろになってくれたので良かった。実は『聖恋』の情報で、彼がそういった立場の家系であることを知っていたのが、二人の仲をうまくいかせたポイントだったんだよね。

 いやそれは今は深く触れる必要はなかったわ。


 つまりまぁ、そんなわけで、ネルツァが調べてくれたのだ。なぜゆえ、私が狙った男どもが、ことごとくすぐに領地に戻って結婚してしまったのかを。


   ***


「まさか、聖女が親しくなろうとしていた男性を、学園から追い出すために、第三王子が、それぞれの領地のそこそこの平民と婚約させて、退学まで指示していたとはねぇ」

「ほんっっっとに! 何をしでかしてくれんのよ、あの聖女とアンポンタンは!」


 本当はKUSO王子(スタイリッシュな表現をしてみたわ)と言いたいところだけど、KUSOに王子なんて単語を追加してしまったら、誰かに聞かれたときにちょっとね。


「どうせ婚約者を斡旋するなら、私を斡旋しなさいよ! だったら即座に一緒に学園を辞めて、子爵領に帰ったものを!」


 何回も何十回も参加した夜会で、あの聖女はガンガンつっこんできた。そんなに大事なら、首輪でもして隣に並べておけよKUSO王子。あ、これは心の中なので言ってもOK。


「結局学園内に残ったのは、婚約者のいる男子生徒か、いくら入り婿が必要だと言っても、コイツと結婚するなら冒険者の方がいいんじゃない? という、激ヤバ案件だけ……」

「本当にね……。私から見ても、それはやめた方がいいと思うのばかりよ。とてもじゃないけど、贅沢を言ってるんじゃないの? なんて言えない案件」


「でっしょ! なのにお母さまなんて、贅沢はダメよ、選んでるんでしょなんて」

「おばさま……」

「ん……? あれ?」

「どうしたの、アニタ」


 気付いてしまった。

 そもそも、我が子爵家は入り婿が必要なので、別に相手の爵位は必要ない。

 そして、妙に金を使うことを覚えている、つまり贅沢を知っている貴族の息子は、貧乏子爵家を忌避する。


 でも、考えたら贅沢を知っているヤツなんて、こっちから願い下げだ。

 それはつまり――。


「私の結婚相手、貴族である必要なくない?」

「えっ、でも一応子爵家を継ぐ相手なわけでしょう?」


 ソマイアが言うこともわかる。

 いかに貧乏とはいえ、一応は歴史の長い子爵家の家督をともに継ぐわけだ。


 どこの馬の骨とも言えない相手とは、ということもある。私もそれを考えて、今までは学園で婚活してきた――まぁ、聖女とKUSO王子にぶっ潰され続けたわけだけど。

 でも、でもよ?

 このまま相手がいないままだと、本末転倒よ。


「大丈夫! 奨学生として通い続けるためにした勉強が、私にはあるわ!」


 ぶっちゃけて言えば、日本で一応大学まで通っていた私からすると、この世界の勉強はそこまで難しくなかった。前世で一番苦手だった英語は、この世界にはないしね。

 とは言え、領地経営のための勉強なんかは、この学園で学べて良かった。


「あら、それもそうね。アニタが領地経営できるんだし、そもそもアニタの家はそんなに社交界に出ていくタイプでもない」

「出たくても出る余裕がない、とも言うわね」

「出たかったの? アニタが?」

「――ごめん、ちょっと見栄張った」

「ふふ。私には本音で話してよ」


 ソマイアは、私が令嬢らしからぬ行動をとると、一応は止めようとしてくれる。でも、本気で見下したり、嫌がったり、侮蔑したりはしない。あくまでも「今あなたがやっている行動は、貴族として相応しくないことだけは伝えておくわね」というものだ。


 私の行動の理由を知っているから、私の味方でいてくれる。ありがたい。

 爵位は金で買えるけど、友情は金で買えないのだ。


「だからね。今までは一応、貴族の男性を見つけるチャンスと思って動いていたから、気付かなかったんだけど。平民でもきちんとした為人であれば、婿に迎えて良いのではないかと」

「確かに。誰でも良いわけじゃないのは、貴族が相手でも平民が相手でも変わらないわけだしねぇ」


 超絶マザコンでこちらにママプレイ(遠回りな表現)を求めてくる男とか、ドMで女王様と呼ばせてくださいと言い出す男とか、逆に「君を縛り上げたい。縄がいい? 鎖がいい?」なんて囁いてくる男とか、ギャンブルは男を輝かせる唯一の方法とか言い出す男とかよりも、堅実な平民の方がご先祖様にも顔向けができるってものよ!


 あ、ちなみにこれは全部、真っ昼間に制服を着ている状態で、クラスに他の生徒もいるときに言われたことなのよね。授業のグループワークで話しただけなのに、こんなことを言われるなんて、私ダメンズキラーなのだろうか……。


 すぐにソマイアが間に入ってくれたので、事なきを得たけどね。やばかったわ~。


「だったら、ディアスとかは?」

「ディアス? 家族みたいなものだし、多分恋人もいると思うわ」

「そっか。いいと思ったんだけどね」


 ソマイアは、少しだけ残念そうな顔をしつつも、小首を傾げながら、口を開く。


「でも、どうやって平民のまともな人を見極めるの?」

「ふふふ。それはね、良いアイデアを思いついちゃったのよね、私」

「なになに? 教えて!」


 私は前世が日本人だ。ただし、転生チート! なんてやれるほどの、特殊能力なんて何もない、しがない小さな会社の事務員だった。

 だから、今まで何かを成し遂げることなんて、できないと思っていたのよね。

 でも、気付いたの。それは大がかりな事業をやろうとしていたからだって。

 小さなことからコツコツと。

 出会いがないなら、作ればいいじゃない!

 そんなわけで――。


「私、婚活のために、小料理屋を始めるわ!」

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