40 結婚式の準備
「ジャンジャックに告白された」
そう言ったら、ディアスの顔が、まるで般若のようになった。
般若のような顔をしている、と言ったら、訳がわからないという顔をされたけど。まぁ当たり前か。
「なんですか、あの男は。俺の! 俺のアニタ様に!」
「落ち着いてよ。彼も私が婚約していることはわかっているから、求婚はしてこなかったわ」
「当たり前でしょう。だいたい、婚約者のいる身でありながら、他の女を侍らせていたことがある男ですよ。あなたが彼を信頼することは構いませんが、ちょっとは危機感を持って……なんですか」
私がニマニマと笑っていることに気が付いたディアスが、眉をしかめる。
「んー。ディアスがそう言ってくれるのが、嬉しいなって思って」
「は……。え……その」
「ちょっと狼狽えちゃうディアス、珍しい」
正直、ジャンジャックが突然目の前で跪いたときはビックリしたし、こいつまさかまた性懲りもなく?! なんて思った。
でも、そこで求婚なんて愚を犯さなくなった彼に、心底ほっとした。
ランディオさんに対するジャンジャックの真摯な対応も含めて、少しずつ、きちんと人との関わりを覚えていっていると感じると、なんだろう、こう、親になったような気持ちになる。
ちなみに、国王陛下への報告は月に一度しているので、それも親みたいな気持ちになる理由の、一つなのかもしれない。陛下とはすっかり文通友達になっていて、これはこれでいいのか? と不安になるけど。
「ねぇ、これどうかな?」
「とても良く似合ってますよ。世界で一番かわいい」
「……ディアスって、すっかり私に甘いよね」
「昔からですが?」
「そうだっけ……」
今は、秋の結婚式のドレスを試着している最中。
早い段階からゆっくり作って貰えば、お金も安く済むからね。
陛下のポケットマネーでお祝い金をいただけると言質を取ったので、ドレスを作ることにしたのだ。とはいえ、お金はあまりかけないけど。
この世界は乙女ゲームの世界なので、ウエディングドレスは、もちろん真っ白だ。
つまり、式が終った後染めれば、使い回しがきくということ!
やったね!
ドレスはできるだけシンプルにして、後付けできるフリルを、ウエストにリボンでとりつけることにした。
デコルテをしっかりと出したデザインだけど、袖は大きな襟で兼用。
リボンを付ける部分は、後ろでつまむことができて、ドレープをそこで作れるような作りにした。こうしておくことで、ドレス丈を調整できるのだ。
これなら、あとからもいろんな使い方ができる。
ヴェールは誰もが使えそうな長さにした。
こちらは、私の式が終わったらドレス屋さんにおいてもらい、安価での貸し出し用にする。
領民の中で、結婚式でドレスを用立てできない人も、ヴェールを安価で用意できれば、それだけでも違うのでは、と思ったのだ。
「うーん。スイラも苗植えできたし、順調順調」
「今さらですが──スイラって実は、結局どんなものなんでしょう」
そうか。そういえば小麦みたいな、としか、説明しかしてなかったわね。
「小麦のように穂の中に実がなっていて、それを脱穀して炊いて食べるの。炊きたては薫り高くて、とても幸せな気持ちになれるのよ。お肉とあわせて食べても、お魚とあわせて食べても、邪魔をしない上にお腹持ちも良いの」
「なるほど? よくわからないけど、メインと一緒に食べると良いということは、わかりました」
「食べてみて初めてわかるものかもしれないわね。結婚パーティでは、皆に振る舞うわよ!」
「お嬢様、動かないでください」
「あ、スミマセン」
腰を捻って力こぶを出したら、お針子のお姉さんに怒られてしまった。
それもそうよね。まち針打ってるってのに動いたら、怒られて当然だ。
「ドレスでしょ、招待客のリストアップと招待状の準備でしょ、会場のセッティング計画でしょ……だいたい済んできたかな」
「まさか、陛下が来たいと仰るとは」
「ジャンジャックの様子を見たいんでしょ。丁重にお断りしたけど、効果なかったな~」
そう。
まさかの国王夫妻が列席するのだ。もちろんお忍びだけど。
ソマイアたちの隣に座って貰うので、とりあえず彼女たちの親戚です、というテイにした。
ほんと、ジャンジャック含めて、迷惑な一族だわ。
王族なんて、そんなものなのかもしれないけど。
でもまぁ、『累進課税制度』を取り入れて貰ったりしたので、これで貸し借りなし、みたいな気分。
あと、陛下の前でスイラの活用も見て貰えたら、この後が楽かな~、なんていう下心もあったりする。
王妃様が気に入られたら、王妃のお茶会とかでも、話題がでるかもしれないし。
お米の活用方法なら、元貧乏OL強いわよ! お米を炊く方が、他の安い炭水化物をいろいろ食べるより、栄養バランスが最終的に取りやすくなって、医療費がかからないからね。
ラブお米!
あぁ。結婚式より、収穫に心を持って行かれてしまいそう。




