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婚活中の貧乏子爵家令嬢ですが、小料理屋を開業したら幼馴染みが溺愛してきます  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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39/49

39 そしてそれから

 私を抱きしめながら、ディアスは耳元で笑う。


「あとは――旦那様と奥方様にご了承をいただくだけ、ですね」


 そうだった!

 このあと、二人の了承を取るという仕事が、まだ残ってた。


「でも今は――少しだけこのまま」


 ディアスの言葉に、私もそのまま彼の腕の中に、体を預けていた。


「アニタ」


 気付けば演目は終わり、階下の人たちは皆、劇場をあとにしていた。

 ボックス席の後ろから声をかけられて、私はぼんやりとした顔を慌てて隠す。


「別にディアスから離れなくてもいいのに」


 ディアスの腕の中から出ようともがいて、結局腕の中にいる私に、声の主であるソマイアが笑う。


「これは――良い関係になったと、思っていいのかな」

「ネルツァ様、ありがとうございます。おかげさまで」


 なんて、私の頭上でディアスが言った。

 私は彼に抱きかかえられたままで、どうしていいのかわからない。


「そのままアニタ嬢を抱きかかえて、馬車まで行くのはどうだ?」

「それは最高ですね」

「えっ、嘘でしょ。大丈夫! 歩けるわよ!」

「アニタ、諦めた方がいいわ」


 体がふわりと浮く。

 いわゆるひとつのお姫様抱っこをされた私は、ディアスの顔を間近で見ることになった。

 彼の腕は安定していて、落とされそうなんて不安も一切ない。


 ――やだ、ディアスの顔、めちゃくちゃ好み。


 本当に、どうして私、今までディアスをそういう目で見ていなかったのだろうか。

 というか、彼が私をそういう風に思ってくれているのに、本気で気付いていなかったのは――あまりにも鈍感少女漫画過ぎるのでは。


「お嬢。俺にくっついてて」

「だからその……甘い声は良くないって」

「だからやってますが」

「……ずるいぃ」


 両手で顔を隠してしまえば、私のその指先に彼の唇が触れた。


「今はここまでです」


 そう言って笑うと、ディアスは私を馬車まで抱いたまま、連れて行ったのだった。


   ***


 その後四人で向かったのは、有名なレストランだった。


「ここ……名前だけは知ってる」

「俺も、聞いたことはあります」


 馬車の中から店を見る私たちに、ソマイアは笑みを浮かべる。


「個室を予約してあるから、ディアスもマナーを気にしなくて大丈夫よ」

「ありがとうございます……」

「ソマイア、私たちその、そんなにお金が」

「私とソマイアからの、二人へのお祝いだよ」


 つまり、支払いは気にするなということだ。

 二度とこのレストランに入る機会なんてないだろうから、甘えておこう。

 こくり、と頷けばネルツァ様が馬車の天井をステッキで突いた。

 フットマンの気配が外にすると、馬車の扉が開く。

 ディアスが私に手を差し出した。


「アニタ様。お手をどうぞ」


 それはなんだか、とても特別な言葉に聞こえる。

 彼の手に自分の手を重ねた。

 つい昨日、王城に行ったときにだって、エスコートはしてもらったというのに。

 なんだか初めてディアスにエスコートされるような、そんな特別な気持ち。


「ありがとう、ディアス」


 口に出した途端、私の顔が赤くなるのがわかる。


「お嬢、顔が」

「う、うるさい。見なかったことにして……」

「俺の前では、どれだけ赤くなってもいいですよ」


 あれ、これってディアスの独占欲的な?

 それに気付くと、さらに顔が赤くなってしまった。


「ほら、早く行かないと」


 ソマイアたちが先で待っている。


「アニタ! 早く」

「お嬢、また抱き上げますよ」

「それはさすがに!」


 赤い顔をそのままに、少し俯いてディアスに手を預け、レストランの個室へと向かう。

 その後、食事をしながら劇場でのことを報告すれば、ソマイアは大いに盛り上がった。


「なんて素敵なの! 『幼い頃から見守っていた、お嬢さまとの恋物語』! これはもう、物語にして流布すべきよ!」

「いやあの……うちの領じゃ、誰もそんな素敵な感じに、私のことを見ていないから」

「でも、平民からの領主配となるわけじゃない! ちょっとドラマティックに仕立てる必要は、あるわよ」

「……それは、そう、なのかな?」

「任せて! 私そういうの、得意だから」


 腕まくりをしながら、今後の計画を立てていくソマイアを、止めることはできなかった。

 とはいえ彼女なら、悪いことにはしないだろうな、と任せることにしたけれど。

 ネルツァ様もニヤニヤしながら、ディアスのことを小突いたりしていたわね。


 あの二人、いつの間に仲良くなったのかしら。

 まぁ、今後もソマイア夫婦とのお付き合いは続くだろうし、ネルツァ様とディアスが仲良くなるのは良いことだ。

 うんうん。 


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