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38 嬉しい知らせ

「おお、戻ってきたか」

「お父様何かあったのでしょうか?」


 お父様がわざわざ私を呼び出すなんて、珍しい。何か良くない知らせなのかと、不安になる。


「アニタ、お前王城で何かしてきたか?」

「え?」


 そう言いいながら、お父様が手紙を手渡してきた。


「来年度の国税についての案内だ。今までよりもずいぶんと、軽減されている。──新しい税制でな」

「もしかして!」

「……やっぱり、お前」


 そういえば、あの日はディアスのことを話して、満足してたわ。

 累進課税を提案したことを、すっかり伝え忘れていたと思い出す。

 あわてて、あの日あったことを伝えると、お父様は大笑いしだした。


「それは良い! なかなかないチャンスを、しっかりとモノにしたお前は、まさしく次期領主だよ」


 手元の手紙を広げる。

 お父様が喜ぶのもよくわかるほど、国税が軽くなっているのだ。

 来年度からということなので、新しいチャレンジを国民にさせるのにも、ちょうど良いタイミングだ。

 あの日耳を傾けてくださった、陛下やチョールエ様には、感謝してもしきれない。

 やっぱりエライ人に必要なのは聞く力~!

 なんて、思わず口走りそうになった。危ない。


「スイラの方は、どうなんだ?」

「今田んぼ──スイラを植える場所を、そう呼ぶのですが──を作っているところです。春には順調に、植え付けができるかと」

「そうか。うまくいくと良いな」

「ええ、本当に」


 二人で窓の外を見る。

 青い空が広がるその先には、領民の家がすぐにある。

 子どもたちの声も聞こえ、平和な世であることが感じられた。


 貧しくはない。

 ものすごく裕福なわけではないが、それなりの生活水準を、領民はキープできてはいる。

 それでも、まだまだ改善したいことは、たくさんある。


 私は日本に生まれ育った前世があるから、そこで享受できていた基本的な生活水準が、どうしても脳内から離れないのだ。

 そのためにはお金。

 お金がないと、どうにもならない。


 お金がないなりの幸せなんて、それは政治には関係ないのだ。

 教育水準もあげて、知識を得るチャンスを全員に用意したい、というのもある。

 いつかは国の役人の多くがこの領地から、なんてことだって、夢を見てしまう。


「そういえば。アニタがしていた店は、第三王子がするんだってな?」

「元、ですよ」

「それがついてもつかなくても、役立たずなんじゃないか?」


 お父様の物言いに、笑ってしまう。


「それが、元がついたほうが、よほど役に立つのです」

「それはそれは。人には向き不向きがあったのかな」

「与えられた場所で咲くことができなくとも、チャンスはあると言うことですね」


 学園で見ていたボンクラ王子と、同一人物とは思えないくらい──ちょっと思い込みが激しいところは、そこまで変わらないけれど──ジャンジャックは、変わったのだから。


「ま。アニタが彼を選ぶことはないと思ってたけど、選ばなくて良かったよ」

「選んでたら、どうしてました?」

「アニタが彼が良いというのなら仕方がないけど、教育は厳しくしただろうね。ディアスよりも」

「それじゃぁ、彼にとって今の状態は、ラッキーだったのかもしれないのね」


 笑いながら、ジャンジャックを思い浮かべる。

 初めて我が領に来たときは、余計なものが来てしまったと思ったけれど。まぁこうしてみると、悪くはなかったのかもしれない。


「それに、私はアニタがディアスを選んだことが、嬉しいんだよ」

「そういえば。どうして最初から、ディアスを私の婚約者に、選ばなかったのです?」


 別に婿は平民でも良いのであれば、彼の気持ちを知っていたお父様方なら、それもできたはず。


「一つは、そうはいっても貴族の婿の方が、社交含めてやりやすいかなと思ったから。そしてもう一つ。アニタが学園から戻ってきて、平民と結婚すると言い出しただろう? だったら、どうせならアニタが良いと思った人を選んで欲しいと、思ったからだよ」


 私の髪を撫でながら、お父様は笑う。

 ああ、私は大切にして貰っているなぁ。

 なんて、しみじみ感じてしまった。

 領民のことはもちろんだけど、私はこのお父様やお母様を始めとした子爵家の、子爵家に働く人も含めて、皆と一緒に幸せになりたいと、改めて感じる。


「それにしても、その元第三王子ってのは、料理ができたのか?」


 お父様の心配、わかりますとも。

 今、少しずつロイヤリティが入ってきているからこそ、その辺が気になるんですよねぇ。


「その辺は、アザキニア商店さんにお任せしました。彼の腕の教育も含めて」


 できるだけ、自分の手を離していく。

 そしてその分、他のことに注力していけば、領内でいろいろな人に、仕事が回っていくというものだ。


「うん。もういつ子爵を譲っても平気だな」


 お、お父様? それはさすがにまだ、早いですよ――!

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