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28 王都滞在?

「ロクツォーネ侯爵子息、こちらを」


 ディアスの待つ部屋の手前で、侍女に何やら手紙を渡された。

 いや、ネルツァ様が、だけど。その場で開けて確認すると、「うん」と一言。


「部屋に入ろうか」

「お手紙は、大丈夫なの?」

「あぁ。部屋の中で話すよ」


 と言うことはどうやら、私にも関係があることらしい。


「お嬢様!」


 扉を開けるとすぐに、ディアスが駆け寄ってくる。

 ワンコみたいでかわいいな。でっかいヤツ。でもディアスって、見た目は犬というよりも猫なんだよねぇ。猫科のデカいヤツ……となるとライオンとかハイエナ……? いや、全然イメージと違うな。とりあえず大型犬にしておこう。うん。


「ディアス、お待たせ。ネルツァ様が、あなたに何か、ご用があるみたい」

「お……私に?」

「俺、で良いよ。もう謁見は終ったから、アニタ嬢も猫かぶり終了みたいだし」


 ネルツァ様の言葉に、ディアスは戸惑っている。

 そりゃそうよね。まさか私がいつも通りの口調で、高位貴族と会話するなんて、思っていなかったでしょう。


「ソマイアの婚約者であるネルツァ様とは、三人でお茶をしたりしてたのよ。だから、ソマイアとの口調がね」

「……なるほど」


 納得されてしまった。

 なんだか貴族女性としてはアウトな気がするけど、そもそも私は、貴族女性としてアウト寄りだったわ。


「二人とも、とりあえず座って。今、お茶を用意させるから」


 良い香りの紅茶が出てくる。これは高いヤツ……!

 味わって飲もう、と思いつつちらりと横を見ると、どうやらディアスも同じ事を考えているようで、ゆっくりと口の中で味わっている。ディアスは別に、そこまで貧乏じゃない筈なんだけど……。

 まぁでもこんな高級茶葉、そもそも我が子爵領じゃ、流通していないものね。


「アニタ嬢。数日間、我が家に滞在しないか?」

「──は?」

「あの、失礼ながらそれは、どういう」


 ネルツァ様の言葉はさすがの私も、驚きでしか受け止められない。

 いやいやいやいや、どういうことです。


「あ、ごめん。今うちには、ソマイアが暮らしていてね」

「なるほど」

「……口を挟んでしまい、申し訳ありません」

「私の言葉が足りなかったな。それで、アニタ嬢が以前会ってみたいと言っていた植物学者が、いるだろう?」

「モジュネール博士?!」

「ああ。そのモジュネール博士が今、王都に来ているらしいんだよ」


 思わずガッツポーズを、小さくしてしまう。

 貴族女性の品位? そんなもん腹の足しにも、ならないわ。

 ……おっと。本音が出てしまった。


「博士を近日中に、我が家にお招きできるよう手配しておくから、それまでうちに泊まっていくと良い。ソマイアも久しぶりに、君に会いたいだろうし。もちろん護衛くんも、一緒にどうぞ」


 正直、助かる。

 我が家は王都に宿泊する予算を、持ち合わせてないのよね。他の貴族のように、昔はタウンハウスも持っていたのだけど、二代前に売っちゃった。維持費がバカにならなくてさ。

 ネルツァ様は我が家のそうした事情もご存じで、だから私たちが今日来て、今日帰ることも予想してたんじゃないかな。


「先ほど陛下に奏上した案件の資料を纏めたいし、お言葉に甘えても良い?」

「もちろんさ。領地への連絡は、我が家の早馬を使うと良いよ」

「な……何から何まで、ありがとうございます……」


 早馬を使うのにもお金がかかる。

 今回罪人を護送するために使った早馬は、公的費用となる。でも、私の帰領に関する早馬は、私的費用だからね。あまり使いたくないのだ。


「護衛くん──ディアス殿だったか。君も残るのであれば、まぁ安心だろう?」

「は。ありがとうございます」

「君とは今夜、じっくり飲みたくてね」

「……え?」

「付き合ってくれ。酒はいける口か?」

「それなりに」

「よし。王都のうまい店に、連れて行こうじゃないか」


 ディアスは、目を丸くしている。

 そう。この人実は、こういう性格なのよ。だからこそ、ソマイアとも仲良くなったんじゃないかなぁ。

 ま、私はソマイアと久しぶりに会えるし、嬉しい。

 それに何と言っても……!


 モジュネール博士!


 モジュネール博士は、植物学者として、この世界に名を馳せている方だ。

 もともとは植物採集学者だったらしい。けれど、そこから研究論文をたくさん発表し、未だ知られぬ植物について、研究を続けている。

 私がこの方にお会いしたいのは、稲がこの世界に存在しているかを、聞きたかったから。

 麦があるんだし、そもそも乙女ゲームの世界であれば、お米はあってもおかしくないと思うのよねぇ。

 ゲームではお米を使った料理も、アイテムとして出てたわけだし。


 とはいえ、私一人じゃ、お米に関して調べるのにも、限界がある。

 そこでプロフェッショナルにお伺い、というわけ。使える伝手は全部使ってやるぜ! と思って、あちこちで、お会いしたいと言っていたのが功を奏した。

 いやぁ、ラッキーだわ。


 それに、累進課税制度についても纏めて、早急に提出する必要があるから、王都にいられるのは助かる。今夜はソマイアと盛り上がるだろうから、明日の昼間は資料作成に勤しむぞ!

 元貧乏……は関係ないわね。

 元OLの、資料作成力を発揮しないと!

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