27 ランディオの決断
時を遡ること、半日。
「アニタさん、ありがとう……。俺は」
ランディオさんは私の目をしっかりと見て、口を開く。
「王城に、行くよ」
「ランディオさん?」
「ランディオ!」
私の声と、ジャンジャックの声が重なる。
「確かに俺は、彼女の言うことを信じただけだ。そこに何か罪があるのかと問われれば、俺は悪いことをしていないと言い切れる。でも、ここで逃げ去ったら、そのことが罪になっちまうんだ。それは、アニタさんを始めとした、この子爵領で良くしてくれた仲間たちに対する、裏切りだろ?」
「ラン……ディオ」
ジャンジャックの瞳が、赤くなる。
「……俺は。今の俺は、陛下に目通りすることなんて、できない立場だ。でも」
ぐい、とジャンジャックに腕が引かれた。
瞬間的にクリアノとディアスの視線が、彼に飛ぶ。
「アニタ嬢、頼む。手紙を……預かってくれないか。君が父う──陛下に、もしも目通りが叶うのであれば、いやそうじゃなくても、どうか、手紙を」
それが、今のジャンジャックができる、最大限なのだろう。
私は、彼のその想いを無下にできるほど、非情な人間にはなれない。
ジャンジャックの手を引き離し、彼に微笑みかける。
「まずは皆、我が家に。あぁ、聖女だけは衛兵に引き渡して、護送の準備を。それはディアスにお願いするわ。クリアノは私たちと、同行してくれる?」
指示に従い、彼らが動く。私は今日の売上金をクリアノに渡し、ランディオさんとジャンジャックを促した。
「我が家で、手紙を書きましょう。陛下にお渡しするには、それなりの紙が必要よ。一応私が確認し、子爵家の封をかけます。その方が、ご覧いただける確率があがるわ」
「アニタ嬢……」
「二人とも──すまない」
深く礼をするランディオさんの両肩に、手を添える。
「お礼を言うのは、私の方よ。ランディオさんがここに連れてきてくれたおかげで、知らない間に我が領で、彼女を匿っていたということにならずに済んだ」
そこまで言って、私はジャンジャックを見る。
「それに、聖女がジャンジャックさんがいるこの領に滞在することで、もう一つ問題が生まれるところだったの」
どうして自分が見られているのかわからないのか、ジャンジャックが小首を傾げた。
いや、なに他人事みたいな顔をしているのよ。
「王命で平民となったジャンジャックさんがいる場所に、王命を無視して逃げてきた聖女がいる。それはその二人が結託して謀反を企んでいると、疑われる可能性があるってこと」
そうなれば、我が子爵領だって、お咎めなしとはいかない。
私の言葉に、ジャンジャックが初めて気が付いたという、顔をした。
そういうところなんだけどね。まったくもって、ツメが甘いというか。
本当に、王子教育ってものは、なにをしてきたのだか。
「あなたが、我が領の迷惑にならないように、と考えてくれたことがとても嬉しかった。私が子爵家の人間だと黙っていてごめんなさいね。でも、無事に戻ってきたら、また食べに来て欲しい」
床に、ぽとりとランディオさんから、雫が落ちる。
涙か鼻水かはわからないけれど、あとできれいに拭いておこう。
「さ、行きましょうお嬢さま。お客人方も、今夜はゆっくりとお休みになってくだされ」
クリアノが私の背中を、そっと押してくれる。
「そうね。まぁ、たいしたおもてなしは、できないけど」
笑えば、二人も笑ってくれた。




